八十六
《決勝リーグ・第2回戦・第2ピリオド》
強天使(ウルムスリーグ優勝チーム)
→オイゲン(男29歳)
→段 深緑(女19歳)
→ミキミキ(女16歳)
→アド・ブル(女19歳)
永久凍土チーム(マロニエリーグ優勝チーム)
→アルトゥール・レーシン(男33歳)
→パーシャ・ミシュレ(女21歳)
→リディア・クラノヴァ(女19歳)
→キーラ・セリューニナ(女12歳)
両チームの四人は、闘技場の中央で、お互いの顔を見合わせるように並んで立っていた。
「チーム構成が似てあげてますね」と、オイゲン。
「パーシャ・ミシュレ……C国時代のチームメイトが一本背負にされたな……あれは強いで」と、段。
「きゃはあ。リディアってヒト、可愛いのでし。戦闘相手じゃなければ、お友だちになりたいのですわん」と、ミキミキ。
「キーラはWGBG最年少らしいわ。私の方が小さいけど」と、アド・ブル。
「パーシャ以外はWGBG初出場だ。チーム特性的に、格闘タイプのような気がするけどね。未知数だね」と、オイゲン。
「反対に、こちらは全員がWGBG予選リーグ出場者。選手情報は、一通り知れ渡ってあげてるよ」
「別に、それが不利とは思えんな」と、段は不敵な笑みを見せながら言う。
「こちらはレモンティーンが二人おるんや。知っとるがゆえに震えとるんとちゃうんか?」
「私と段ちゃん、それにミキちゃんもいるよ」と、アド。
きゃはあと、ミキミキはニッコリと笑った。
「そやな。負ける気がせんわ」
段は力強く右拳を握りしめた。
長めのホイッスル。
「開始」
「臨界」
段のピンクボール、ミキミキのスピンボールが同時に輝き始める。
「水素爆発……来るわよ」と、パーシャ。
アルトゥールはうなずき、足を大きく開き、両手を左右にまっすぐ伸ばして、『大』の字のような姿勢をした。
「正面から受けて立つ気やな。ええ度胸や」
段は、アルトゥールの胸を目がけてピンクボールを投げた。
ボールの尖った部分が胸の中心に接触した。
同時に、ミキミキが投げたスピンボール2発も、ほぼ同じ箇所に命中した。
「爆発!」
二人の詠唱は、ぴったりと同時だった。
そして、アルトゥールが「石壁」と詠唱したタイミングも、全くの同時であった。
彼の両手両足の先、頭の天辺を結んだ五角形にMEを硬化させたバリケードを張り、彼の背後に潜んだ選手たちを強烈な爆風から守った。
そのバリケードは、瞬間的な役割を終えると、跡形も無く消え去り、さらにその機会を窺っていたパーシャが勢いよく突撃した。
狙いは、後方で待機していたアド・ブルだった。
遠隔攻撃が専門のアドは、まさかの肉弾攻撃に、とっさの防御行動を取る機会を逸していた。
その速さは、段が「しまった」と声を発する間も無かったほどだった。
パーシャは、アドの目前まで接近し、上半身を大きく捻って、回し蹴りを繰り出した。
アドは、瞬きもせずに、パーシャの動きをじっと見つめていた。
パーシャの右脚が、アドの左頬に接しようとする直前に、銀色に輝く金属がそれを阻止しようと割りこんできた。
その金属の正体が、オイゲンの左手に装着した『牙獣』であることに気づいたのは、その直後だった。
パーシャの脚は、オイゲンの左上腕の硬直した筋肉によって受け止められていた。
「ありがとう……助かったわ」
アドは、抑揚のない小さな声で、オイゲンにお礼をつぶやいた。
その声には恐怖感は含まれず、努めて冷静が維持されているように思われた。
「これが、ボクの役割なのさ」
オイゲンの顔は、アドのすぐ真横にあった。
唇をとがらせれば、小さな頬にキスができてしまえるくらいに近かった。
そちらの状況の方が、アドには驚きだった。
パーシャは静かに足を戻し、それに合わせて、オイゲンも立ち上がり、パーシャと正面で向き合った。
「久しぶり。相変わらず、落ち着きの無いヒトね」と、パーシャは言った。
オイゲンは、はにかむように笑顔で返した。
「落ち着きがないというのは、どこにでも現れてあげてるってことかな? キミのことだからね。カウンター攻撃には警戒してたんだ」
「オイゲンさん、このヒトと知り合いなの?」
と、アドが身構えながらたずねた。
パーシャに対する警戒心は緩めていなかった。
オイゲンは、「昔ね……」とだけ答えた。
「私ね、やっつけたいんだけど、遠慮した方が良い?」
アドの青い瞳の奥に、真っ赤に燃え上がる炎が現れていた。
オイゲンに回答の余地があるようには思えなかった。
「仕留められなかった代償は大きそうね」
パーシャは、すばやく後ろに飛び退いた。
その着地位置を見越して、アドの落雷があり、ドーンと激しい音が場内に響いた。
パーシャの頭上から、まっすぐ下に落雷は起きたはずだったが、天井に向けて上がっていたアルトゥールの両腕から、瞬時にパーシャの頭上を覆うよう水平に「石壁」が貼られ、阻止された。
だが、完全な阻止ではなかった。
一部の高圧電力がパーシャに届き、ダメージレベルAが認定されていた。
測定器が示した『意志』の値は79212だった。
場内に、大勢の息を呑む音が響いた。
「アルトゥールのバリアで防ぎきれないとはね。さすがにレモンティーンの力は侮れないわ」
パーシャは全身を震わせていた。
恐怖心ではなく、感電の影響と、若干の武者震いも含まれていた。
「本当に、遠慮が無かったね」と、オイゲンは苦笑した。
「怒らせたらアカん子なんや。もう手が着けられんで」
段は、楽しそうな笑顔を見せた。
アドには、真顔をくずす気配はなく、パーシャに対する敵対心は、さらに加熱を続けていた。




