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レモンティーン  作者: 守山みかん


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七十七

香子は、十字棍を両手で持って頭上に掲げ、その先端をアンナ(Anna)リリーホワイト(Lillywhite)に向けて構えた。

全体に臨界させたMEが行き渡り、金に輝く十字架のようにも見えた。

「もし、あなたの方が歴史上に残されたとしたら」と、アンナは棍の向かい先を気にかけながらも、香子に不敵な笑みを向ける。

「もはや『檸檬の天使(レモンティーン)』じゃないわよね。その年齢だもの。『檸檬の紅茶(レモンティー)』になっちゃうんじゃないの?」

アンナの笑い声が出るより早く、香子の突きがアンナの首元に襲いかかる。

アンナはさらりとその攻撃を交わす。

「あら、怒ったの?」

香子は何も答えず、次の攻撃を繰り出す。

それも、アンナはさらりと避ける。

「大人なんだから」

香子の突き。アンナは避ける。

「寛容さが必要よね」

香子の突き。アンナは避ける。

「子供の言うことに、いちいち腹を立てていたら」

香子の突き。アンナは避ける。

「話が先に進まないでしょ」

香子の突き。アンナは避け、脇の下で突きを挟みこんで香子の動きを封じる。

「こういう時は、大人のあなたが制御するものよ」

「ここで進めるべき話は」

香子も負けじとにらみを利かす。

「真剣に闘技に挑み、結果を導くことです」

「エラそうに私に説教するつもり?」

アンナは棍を押さえこんだ脇に力を入れて締めつける。

香子は引き抜くことができなくなったが、『横取(シーブ)』はされていない点で、アンナより香子の方が『意志』の力では上回っていることを表していた。

「あなたの見た目は老けて見えるけど、私と同一の『意志』である限り、年上でも、先輩でもないわ」

「それならば、あなたの方が歴史から消えて、私がアンナ・リリーホワイトとして生きていく展開も『あり』ですよね。同一なんですから」

「……」

アンナはすばやい動きで香子の懐に入りこみ、両腕で香子の胴体を挟みこむように抱きついた。

「あなたの国にこういうのがあるでしょう。スモーだっけ?」

突然のことで、香子は焦り、MEをたっぷりと送りこんでいた十字棍を床に落としてしまった。

「本当の意味での力のぶつけ合いよ」

「いきなり卑怯です。私の武器が……」

「あなた、羽蕗(はぶき) 梨菜(りな)との対戦でも、そんなことを言っていたわね。意表を突かれて、相手を卑怯呼ばわりして。あなた、認識が甘いわ。これは闘いなのよ。どんな瞬間だって、油断した方が悪いの。いくら相手をののしったって、勝負判定に何ら影響しないわよ。さあ、はっけよい残った!」

アンナの押しこみに香子はずるずると後退するが、腹をくくって全身に力をこめてからは、逆に相手に向けて押し返す展開となった。

「やればできるじゃない」

アンナは余裕を見せながら言った。

「でも、あなたの体ってボヨボヨして締まりがないわね。やっぱり年齢が出てる感じ」

「うるさい!」

香子の押しでアンナの足が下がる。

「そう。その調子」

アンナの余裕姿勢はくずれない。

香子は全力で押し相撲に挑んでいる。

アンナの足が下がり続けるが、三歩下がったところでアンナも反撃を始めた。

香子の押しが滞る。

「『蓄積型(アキュムレイティブ)』であるための遜色は、確かに感じるけど、まあ感じる程度ね。こうして、かつて同じ『参照元(Original)』から誕生した同士が闘うことで、育ってきた環境の違いがはっきり出るんじゃないかしら」

「私は、これまでいつも目標に向かって進んできたんです。決して悲観はしてませんよ。私を育ててくれたヒトたちがいるんです。あなたにはみすぼらしく見えるかもしれないけど、私は自分の生き方に満足してます」

「何だか言わせられてるセリフにしか聞こえないわ」

アンナは押し一辺倒の香子の勢いを素早い身のこなしでいなしを決め、香子を引き落とした。

香子の全身から熱が外に出た。

もう少しで受け身無しで顔や胸を床に打ち付けられようとしたところで、アンナは香子を引き上げ、今度は香子の左脚に自らの右脚を絡めた。

「簡単には終わらせないわよ」

さらにもう一方の右脚を前傾姿勢になっている香子の首の後ろに回し、香子の右腕を背中側に強引に引き、左脇で押さえつけて、香子に乗っかる形の固め技を決める。

「あああ!」

右肩から腰にかけて激痛が走り、香子はたまらず悲鳴を上げた。

「これで、あなたの体を粉々にして、二度と表舞台に出てこれないように再起不能にしてあげるわ」

「痛い……痛い……」

アンナの容赦ない絞めつけに、香子は両目から涙を流して痛がった。

「いい大人が泣いて、何てみっともないかしらね。のこのこと私の前に出てきたからこうなったのよ。よりによって『強天使』に加わってさ」

アンナは、さらに絞める腕に力を入れる。

ミシミシと香子の骨格が崩壊寸前を向かえたような音が響いた。

「あなたは、このまま消えるの。そして、あなたの代役は、この私が務めるわ」

強烈な絞めつけに、香子は何度も悲鳴をもらした。

「私ね、『永久凍土(パーマフロスト)』を見限って『強天使』に入りたいと思ってるのよ。(デュアン) 深緑(シェンリュウ)に近づいたのも、羽蕗 梨菜に関する情報を得るためよ」

「……羽蕗さんを倒すための情報収集じゃ……」

苦しそうにしながらも、香子は声を上げた。

「このチームでは、総合優勝は無理よ。ラスカーは優勝するって意気込んでるけどね」

「……そう考えるのが正常なんじゃ……」

「『予言』では『レモンティーン』が活躍すると言ってるのよ。『強天使』に『レモンティーン』が集まる展開なら、私もそこに加わらなきゃ。そうするとね、ティーンズでもないオバサンのあなたがそこにいることが私には許せないってことになるでしょ。成り行きで加わったあなたじゃなくて、この私が加わってこそ、真の『レモンティーン』が揃うことになるのよ」

アンナはそこまで言い終わると、いよいよ仕上げとばかりに全身に力を注入した。

「おしゃべりはオシマイ。あなたには消えてもらうわ」

そこで、アンナの顔が苦痛でゆがむ。

固め技を決められた状態で、香子は全身を加熱させ、直火を当てた鉄板のような熱さを放っていた。

「熱い!」

今度はアンナの方が悲鳴を上げ、逃げるように香子から離れた。

香子と触れていた部分に軽度の火傷痕が着いており、アンナは瞬時に『治癒』した。

固め技が解けたところで、AI審査は、アンナにA、香子にBを認定した。

つまり、攻撃効果はアンナの方が高かったという評価だった。

「あなたの目的を知ったからには、なおさら私は負けられない」

香子は、正面からアンナに言い切った。

アンナは、それに対してニヤリと笑って答えた。

「そう来なくちゃ。少しは対抗してもらわないと張り合いが無いわ」


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