七十四
アンナ・リリーホワイトは、香子に攻撃を仕掛けて以来、休みを入れることなく、激しい息切れを見せながらも、突きや蹴りによる攻撃を執拗に続けていた。
香子は、全ての攻撃を最小限の動きで十字棍の中心部分で受け止め、回避した。
当然に、香子の方は息切れや疲れなどまったく見せていなかった。
ついに、アンナは動きを止め、攻撃態勢は維持したまま、香子をにらみつけるだけとなった。
「疲れたの?」
無神経な香子の一言で、アンナは再加熱し、激しい突きや蹴りを始めた。
もちろん、香子はそれらの攻撃を冷静に阻止した。
そして、これもまた当然に先ほどよりもかなり短い時間でアンナは力尽き、動きを停止させた。
「まだ続けるの?」
香子には全く悪意がないのだが、再びアンナの怒りを誘い、奮い立たせた。
が、結局は二発の突きを繰り出した程度に終わった。
両膝に両手を当て、敵対の視線を向けることもせずに、苦しそうに喘いでいるアンナに対し、香子はもう何も声を掛けずに、黙って様子を見るだけに留めた。
アンナの全身が光り輝き、3秒程度の経過の後に、アンナは何事も無かったかのように回復した。
香子が弱った相手に攻撃を仕掛けなかったのは、この事を知っていたからだ。
「『蓄積側面』って、こういう時に便利ですね」
香子が、どこかトゲのある抑揚で、アンナに向かって声を掛けた。
もちろん、これにも悪意は無い。
彼女の持つ『知らない内に人々から恨みを買う性質』が生み出した雰囲気だ。
「知ったような口を聞くけどね」と、アンナは返した。
「『蓄積側面』は、そうでない権限者と比較して『意志』の力に遜色が見られると言われてるわ。力尽きにくい反面、決定力に欠けているのよ。便利なばかりじゃないわ」
「でも、それを選んだのはあなた自身……」
香子がそう言うと、アンナはムッとした顔をした。
「30歳なんて年齢にされるのが堪えられなかったし……それに『紅 魔』の雰囲気が生理的にダメだったからよ」
「……」
香子は無言で聞き流した。
「……新谷 紅なんて得たいの知れない男のそばなんて……いかにも気色が悪かったのよ……」
「だから私の方が、そちらに行ったのです……」
香子が冷静にアンナの言葉に繋げた。
「あなたが選ばなかった、もう一つの道です」
「私を恨んでるのね」と、アンナは言って、唇を震わせた。
「あなたを恨む理由なんてありません」
香子は、なおも冷静に続けた。
「歴史的に残るのは私の方ですから。むしろ、恨んでいるのはあなたの方なのでは?」
「うるさい!」
アンナは、感情的に右足の蹴りを繰り出したが、香子はあっさりと交わした。
「あなたの気まぐれのおかげで、歴史を変えることができなかったのよ。こんなはずじゃなかった……こんな状況……」
アンナは愚痴を交えながら、荒っぽい攻撃を繰り返した。
「私の気まぐれ……」
香子は、そつの無い動きで全ての攻撃を受け止めていた。
「……私は……私の判断で決めたんです。チームは敗退しましたが、敵対している限り、いずれまた羽蕗さんと対決することがあるかもしれません……私には堪えられませんでした……私の渾身のバリケードを破って、もう少しのところで私は倒されかけたんです……あんな恐ろしいヒトを敵に回すなんて……」
「うるさい!うるさい!」
アンナは、がむしゃらに攻撃を繰り返す。
次第にアンナの方に疲れが見えるが、回復行動によって無限に攻撃は繰り返せる。
「羽蕗 梨菜にビビって、闘わずに済むように同じチームになったっていうだけでしょ。それも自分の意思じゃなくて、相手からの誘導に乗っかった形で。あなた、主体性が無さすぎじゃない?」
「なんと言われようと、もう羽蕗さんと戦うことはありません。私は満足してますよ。あとは、この状態を維持するために……」
香子は十字棍を立てて防戦に徹していた姿勢から、棍の先をアンナに向ける攻撃姿勢に切り替えた。
「少しでも『強天使』に貢献できるよう、全力を出すだけです」
アンナは、殺意に満ちた視線で香子をにらむ。
「臆病ね。あなたは単に臆病なだけ。私と同じ『意志』が生み出したとは思いたくないわね」
アンナの『意志』の注入により獰猛な光を放つ右拳が棍先に重ねられる。
「私たちは歴史を変えるために生まれてきたのよ。あなたは、おとなしく敗退チームとなって歴史から消えていけば良かったのよ。今やあなたは私たちの歴史上のゴミよ。私の手で排除してあげる」
「私には何もわかりません」
香子は両手を上げ、棍先が下向きになるように構えて、アンナを威嚇した。
「本来の歴史の何が悪いのか……そして、あなたが協力している歴史に変えられたとして、それの何が良いのか……でも、一つはっきりしているのは、あなたが望んでいるとおりに歴史の変化があった場合、私は存在しないことにされる……私はこのとおり生きています。そして、この先も生きていきます。私は生きるために、あなたを倒します」
颯爽と言い放つ香子。
アンナは下唇を強く噛みしめていた。




