表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
レモンティーン  作者: 守山みかん


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

73/136

七十三

真樹の両刀に押され気味のパーヴェル(Pavel)シュトキン(Syutkin)ヴィタリー(Vitaly)コロソフ(Kolosov)は、このままタイミング良くいなすことによって、真樹を引き落とせるのではないかと考えた。

ただし、成功させるには、二人同時にいなさなければならない。

どちらかのタイミングが早かったり、遅かったりした場合は、当然に技の仕掛けは失敗に終わる。

そして、早く引き過ぎた方が真樹のナイフで切られる確率が高い。

左が早ければパーヴェル、右ならヴィタリー。

しくじれば、どちらかがダメージを受ける。

片方の攻撃に気を奪われている(すき)をついて、もう片方が応酬するという段取りも可能に見えるが、ジャッキーの幻惑術によって三半規管をさんざん狂わされた状況で、思いどおりに体が動かせるかどうかは自信がない。

すなわち……成功率はゼロに近い……

二人は同時に消極的な計算結果に至った。

押し相撲で、引いて失敗した事例は数多く、どれも惨めな敗北に終わっている。

パワー特性に満ち満ちた男子が二人がかりで、相手は女子一人。

なおさら、押し相撲で引く判断など有り得ない。

むしろ押しで勝負するべきだ。

押し続けることによって得られる展開利の方が、引くより可能性がある気がする。

この積極的な計算結果も、二人同時に導かれた。

二人の息はピッタリと合っていた。

グッと押される気配を感じ取った真樹は、左手を水平にし、右手を縦に交差させた十字の構えに変え、水平にしたナイフ一本で、改めて二人の腕の盾に向かって押しこんだ。

先ほどとの違いは、左右に分散していた力を中央に集中させている点だ。

権限者(ギフター)同士の押し相撲では、備わった筋力以上に『意志』による作用が大きく働く。

パーヴェルとヴィタリーは、耐えきれずに一歩足を下げた。

よく見れば、真樹の左肩に、梨菜の左手が置かれてあった。

梨菜が真樹に『意志』を支援していたのだった。

「天使様、私に触れるときは、もっと前の方をお願いしたくてよ」

「まあ……そういうのは、試合が終わってからですよ」

必死の男子二人に対して、余裕の女子たち。

ラスカー(Lasker)タム(Tam)は、それを黙って見過ごすわけにはいかず、(かな)わないと思いながらも、梨菜に向かって右足で回し蹴りを繰り出す。

梨菜は長剣を右手だけで(さば)き、刃先をラスカーの足の裏に当て、蹴りを押さえこんだ。

刃先はむき出しの足に当たっていても、ラスカーの『意志』の注力により切り裂かれることはなかった。

もっとも、梨菜の方はラスカーの動きを止めようとしただけで、ある程度の手加減をしたおかげもあった。

「今、キミの相手は、このボクだ……」

ラスカーは、梨菜が本気を注入してくることを(おび)えながらも、精一杯の強がりを見せた。

「他に気を回す余裕は、油断だと思うがね。このボクに集中するべきだ」

「これはバトル・ロイヤル」

梨菜も負けずに言い返す。

「チーム同士で戦っているんです。誰が誰と戦っているかなんて状況はありません。あなたが主張されていることは、単なる位置関係です」

ラスカーは、素早く右足を引っこめた。

梨菜は、構えた長剣はそのままにして、ラスカーの動きに注意した。

ラスカーは両手を握り、胸の前で揃えて、梨菜に拳を見せた。

ラスカーの身長は、190センチ。

186センチの梨菜とは大きな差は無い。

「なあ。このボクと一対一の格闘対決をしないか?」

ラスカーの狙いは、梨菜に武器を捨てさせることだ。

「天使様」と、真樹が声をかけた。

「私は一人でも大丈夫……姿は見えないけど、近くにジャッキーさんが来てるんです。私たちのことは気にしないで、その男子の相手をしてあげて下さい」

「真樹ちゃんの言うとおり」

ジャッキーの声が、風のように耳元を通り過ぎる。

「こちらの二人は任せていただいて大丈夫です。社長さんは、ラスカーを仕留めて下さい。社長さんの強さは承知していますが、その男も格闘戦では油断なりませんよ。ご用心を」

「二人とも、ありがとうございます」

梨菜は笑顔で言うと、真樹の肩から左手を放し、右手の長剣を床に置いた。

(おもむろ)にラスカーの正面に立ち、彼女もまた両手の拳を付き合わせるように構えた。

(やはり強い……)

ラスカーは、梨菜とは紙一重で接触していないが、彼女が放つ強靭な『意志』を肌で感じていた。

(だが対決する展開となった以上は、ボクも負けられん)

ラスカーは、軽く息を吸い込んだ後、全身から勢いよく発汗させ、金色に輝く臨界状態を施した。

梨菜も同じタイミングで全身を臨界させた。

ラスカーは素早い動きで、梨菜の胸の中心を狙って、正拳突きを繰り出した。

梨菜は逃げずに、右手だけでその拳を受け止め、包むように握りしめた。

すぐに、ラスカーは左の突きも繰り出した。

梨菜はそれも受け止め、二人は取っ組み合う姿勢となった。

(『予測(プレディク)』か……)

ラスカーは、思考を働かせた。

(格闘家としての技量はほとんど無い。次の展開を読んで、最適な体の動きを独自で創造している。最適解を求める能力に関しては天才的と言える。頭の良い娘だ……だが……)

ラスカーは、梨菜に両手を握らせたまま、両足で床を蹴った。

梨菜は、視線を現在位置から30度ほど見上げることになった。

そして、彼女の長い両腕に、ラスカーは自分の全体重を預け、平行棒の演技のように両足を垂直になるように上げた。

ラスカーの靴底が、梨菜の大きめの胸にすれすれのところで止まった。

もっとも、ここまではコンマ数秒レベルの一瞬の間の事である。

ラスカーは、その姿勢を維持したまま、両足を力一杯、梨菜の胸に押しこんだ。

ダメージ認定はBとされた。

梨菜には、ラスカーの行動が予測できていた。

にも関わらず、この攻撃を回避できなかったのは、最適な回避姿勢を導くまでの十分な時間が得られなかったからだ。

梨菜は、強い衝撃に(たま)りかねてラスカーから手を離そうとするが、彼はそれを許さなかった。

(やはり考えて行動していた)と、ラスカーは悟った。

(ボクたち格闘家には定石(じょうせき)の動きというものが備わっている。ある特定の場面に対して、決まりきった行動ができるように、奥義として伝承された修練。何も思考せず、無意識に回避や反撃に繋げられる体術。格闘技の修練をさほど経験していないこの娘には、それが備わっていない)

激痛に悶え苦しむ梨菜の表情を見て、ニヤリと笑った。

(あくまでも可能性だが……彼女に考えるヒマを与えない連続攻撃ならば……勝てるかもしれない……)

ラスカーは握りしめている梨菜の両手に、さらに力を注いだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ