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レモンティーン  作者: 守山みかん


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七十二

ウィリアム・ゴースワンは、強天使と永久凍土(パーマフロスト)の対決を、どこか()に落ちない表情で観戦していた。

ダイヤモンドルームで相席しているウィルヘルム・フィッシャーが、愉快そうにその様を眺めていた。

「キミは妙だとは思わないのかね?」

ゴースワンがイラ立ち気味に尋ねたが、フィッシャーは両手を広げて、飄々(ひょうひょう)と「何のことだ」と返した。

「『予言書』には、レモンティーンと呼ばれる4人の少女が世界を導くとされている。今、まさに、その4人が集結する瞬間が見られると期待していたのだ。ところが闘技場には……」

「登場しているのは2人だけだと言いたいわけだ」

フィッシャーがすかさずそう繋いだ。

ゴースワンは幾分か沈黙した後、「まあそうだ」と言った。

「レモンティーン4人を同じ闘技場に立たせるかどうかは、今やミス・リナがその権限を握っている。それが、実現しない判断が下されてしまった。この状況をどう見るかだな」

「あの娘は……怪物だよ……』

フィッシャーが画面に写る梨菜を見る目つきは、恐怖に満ちていた。

「本来なら敵対するはずだったレモンティーンを束ねている。アンナ・リリーホワイトだけがそうならなかったのは幸いと言えるのかどうかはわからないがね」

「敵対か……」

ゴースワンは、たっぷりと肉の付いた二重の顎を撫でながらつぶやいた。

「当初は、それぞれが個別のチームを率いていて、対戦する対象であったから敵対と表現されたのだろう。ところが『The LARGE』による干渉の行き過ぎで、展開がすっかり変わってしまった。予測システムを開発した本来の目的は、ほんの少しの軌道修正だったはずだ。レモンティーンたちが築き上げるとされた世界統治に、我々が関われる余地を作りたかっただけなのだが……」

「『予言』は維持されているのだろうか……4人の関係は、敵対関係からアンナを除くメンバーが結束する展開となっている……」

「ならば、干渉をくぐり抜け、『予言』の維持に貢献しているアンナの行動に注目すべきか……」

ゴースワンは、注意深く梨菜の行動に注目し、撫でていた顎をポンポンと軽く叩いた。

「……やはり、そうではないだろう。アンナが協力関係に含まれていないのは、アンナの対抗措置による効果ではない。そもそもアンナには、『予言』を覆せるほどの(ちから)利益(メリット)が無いのだ」

「つまり、あそこにいるアンナは、干渉を施した者が意図した状況だということだね」

「……」

ゴースワンは、フィッシャーの顔をじっと見つめながら、しばらくの間、沈黙した。

「どうしたんだ?」

フィッシャーが笑いをこぼしながら、そう尋ねた。

「……あのアド・ブル……あそこにいるアンナ……キミは彼女たちを示す時に、位置を強調するような言い方をする……本来、氏名というものは固有の人物を示しているから、それで足りるはずだ。なのに、なぜキミは強調するんだ? まるでアド・ブルやアンナ・リリーホワイトが他にもいるみたいだ」

「……」

今度は、フィッシャーの方が黙りこんだ。

(そう) (ほう)だな……あの男が『予言』に干渉し、今の状況を作り上げたんだ……キミも、それに関わっている」

「……キミは信じないだろうが……」

フィッシャーはつぶやくように話し始めた。

「『予言』の行き先は世界の安定であり、レモンティーンたちがそれを導く……そのように解釈されている。それがIMEA(アイミア)の共通認識だったはずだ。それは今も変わっていない……宋もボクも同じ考えだ。ところが……」

フィッシャーは言葉を切り、カメラワークによりちょうど画面の中央にアップで写された梨菜と視線を合わせた。

もちろん、カメラ越しの視線一致は一方的な思いこみであり、梨菜の側は、視線を向けられているという意識は無い。

「『予言』が導いているのは世界の安定じゃない。ホノが支配する世界だったんだ。ル・ゼ・ジャセルは、ホノのために『予言書』を作っていた。我々は、それに利用されていたんだよ」

「……ふむ……」

ゴースワンは、やはり信じられないというような目つきでフィッシャーを見た。

「仮に、キミの言うとおりで、ホノ一人(ひとり)が多くの権利を入手した展開を向かえたとしよう。それを許せるか許せないかは個人事情によるのではないかな。彼女がレモンティーンたちを抹殺するような判断をするというのなら話は別だが、レモンティーンたちの行動が自由であるなら、『予言』は変えられていないのだからね」

「『予言』が変えられなければ、我々に訪れるのは破滅だ」

「なるほど……利己的な考え方だな。そうか……キミたちは最初から『予言』にできるだけ干渉して、積極的に未来を変えたかったわけなんだ」

「ゴス……キミにはわからないのか……このまま行けば、全てをホノが手に入れ、我々は抹殺されるってことを……」

「我々が抹殺の対象にされるかどうかは、ホノの立場から見た利害関係の程度に左右される。ホノが世界を支配するシナリオがすでに完成していたとしたら、なおさら我々の存在程度は取るに足らないのではないのかな」

「楽観的だな。ホノは、我々のことなど眼中に無いと言いたいわけか?」

「それは違うな」

ゴースワンは、はっきりと返答した。

「我々にも役割がある。縄張り(テリトリー)の管理というものは、なかなか一筋縄ではいかないものだ。我々を他に置き換えた場合の手間と脅威(リスク)回避に労力を投じるくらいなら、我々を存続させる契約を持ちかけてくるだろう」

「我々に破滅は無いだろうか?」

フィッシャーは、未だ不安な声を出している。

「ボクが宋に荷担したのは、身の危険を予測してのことだ。我々は安全に守られると担保されるのなら、キミの言葉を信用しても良い」

「その心配は無用ですよ。ミスター・フィッシャー」

不意に飛びこんできた女の声に、フィッシャーの背中が反り返った。

ゴースワンは、わずかな動揺も見せず、にんまりと微笑んでいた。

入り口は施錠されておらず、大きく開け放たれたドアに写る女の影は、ルームライトにより、徐々にその姿をはっきりとさせた。

松川(まつかわ) 貴代子(きよこ)……」

フィッシャーは唾を飲みこみながら、その名を呼んだ。

貴代子は、日本人女性的な優雅な動作でフィッシャーに近づき、丁寧なお辞儀をした。

「私の交渉もいよいよ大詰めを迎えました。次は、ミスター・フィッシャー、あなたにお伝えしたいお話があります。どうか、お時間を少しばかりいただけますか?」

フィッシャーは言葉が出なかった。

助けを求めるようにゴースワンを見るが、彼はその様子を楽しむように、ただ笑っていた。


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