七十一
《決勝リーグ・第2回戦・第1ピリオド》
強天使(ウルムスリーグ優勝チーム)
→矢吹パンナ(女18歳)
→ハーモニー真樹(女24歳)
→ジャッキー・ロワイヤル(女36歳)
→キュア凶子(女30歳)
永久凍土チーム(マロニエリーグ優勝チーム)
→アンナ・リリーホワイト(女18歳)
→ラスカー・タム(男28歳)
→パーヴェル・シュトキン(男22歳)
→ヴィタリー・コロソフ(男24歳)
「よろしくお願いします!」
4人の女子が声を揃えて、整ったお辞儀を披露した後に、入場した。
大勢のサポーターによる拍手と大歓声に包まれた。
そして、長めのホイッスル。
『永久凍土』の陣営では、まず幻惑術の使い手であるジャッキーを何とかしたいと考えていた。
そして、試合開始直後に全員で彼女に襲いかかる作戦を仕掛けたが、すぐに梨菜と真樹が前に出て、迎え撃つ態勢をとった。
アンナ以外の男子たちは、いずれも鍛え上げられた鋼鉄の鎧のごとくの肉体美であったが、長剣を正面に構えて全身を臨界させ、圧倒的な『意志』を放つ梨菜を目の前にして、立ち止まらざるを得ない凄みを感じ取った。
『永久凍土』のメンバーは、全員がゴーグルのような形状の装備型端末機を通した視界を確認した。
これは、ジャッキーの『魔界』を対策するための備えで、測定器による『意志』の値が写るようになっていた。
仮に、ジャッキーが梨菜の姿に変身したとしても、測定値で判別できるとしたものだ。
「アンナ」
梨菜の真正面に位置付けたラスカーが、声を震わせながら、その名を呼んだ。
「このゴーグルは、逆効果だったな。恐ろしい数値を目の前にして、恐怖心を倍増させただけだ、と言いたい」
「確かに……知らない方が身のためだってこともある」
隣のヴィタリーも続いた。
パーヴェルもゴーグルに表示された数値を見て、何も声を出せないでいた。
さらには、対策の対象としていたジャッキーには視覚情報を操作され、姿が見えなくなっていた。
「いったん、ここは引き下がりましょう」
思惑が外れたと認識すると、アンナはすぐに後退を指示した。
そこで、闘技場に異変が生じた。
梨菜たちが陣取っている側が大きく隆起し、『永久凍土』の戦士たちが後ずさりを始めた方向へ急斜面となったのだ。
ラスカーたちがバランスを崩しかけたところへ、アンナの注意が飛ぶ。
「幻惑です。実際には、闘技場は傾いていません」
「ジャッキー・ロワイヤルの仕業か!」
ラスカーは傾いた地面から落とされないようにバランスを取りながら言う。
アンナは何も見あたらないが、『意志』の存在が確認できる方角を右手の人差し指で示す。
「誰もいないはずなのに『意志』が表れている場所にジャッキーがいるはずです」
「なるほど」
ラスカーは、その状況を確認し、舌を出して、上唇をペロリと舐めた。
「パーヴェル……ヴィタリー……」
その趣旨は、他の二人に説明するまでもなかった。
闘技場は、前後左右と海上の浮き島のように揺れ動いたが、三人はそれを耐え、同時に右手の平に野球ボールくらいの光弾を練り出し、やはり同時に目標とするポイントに発射した。
「キミらさ……」と、真樹が下目にして口を尖らせながら言った。
「真面目にやってくれないかなあ。私と天使様を目の前にして、みんなでジャッキーさんだけを注目しちゃってさ、私たちが黙ってやり過ごすと思ってるのかな」
言い終えるより早く、真樹が両手に持つククリナイフの右でパーヴェル、左でヴィタリーを狙って、内側から外向きにスイングさせた。
とっさに、パーヴェルは左腕で、ヴィタリーは右腕で、真樹の刃先を受け止めた。
二人の下腕には、定規のような形状の細長い盾が貼り付けてあった。
真樹は両手を外向きに広げる姿勢で、右足を前に踏みこみ、さらに両手のナイフを相手側に押しこんだ。
筋肉隆々の男子二人が女子一人の力で後ずさりする。
足技を繰り出そうにも、前方からの協力な押しに太刀打ちできなかった。
ラスカーは、二人の情勢を横目で見ながら、正面に立つ梨菜と向き合っていた。
闘技場が波打つ状態は、未だ解消していない。
つまり、先ほどの攻撃では、ジャッキーを仕留めることができなかったということだ。
三半規管が乱されたせいか、吐き気がする。
船酔いしたような感じだ。
44546
長剣を構えた梨菜を測定した数値だ。
これが攻撃に転じてきた場合は、どこまで上がるのだろうか。
隣にいる二人は、真樹の攻撃を受け止めた形で動けなくなっている。
梨菜ほどの数値は出ていないが、彼女もまた強い。
あちらは二人で、こちら三人の動きを抑えこまれている。
いかにも分が悪い。
ジャッキーにこだわったのがマズかったか……
『弓術家星』との試合を確認していたのに……
彼らもジャッキーにこだわって、敗れているのを見たはずだ。
完全に相手に読まれていた。
しかし、ジャッキーを放置するのは、やはり厄介だ。
今の船酔い状態を許してしまったおかげで、最高に気分が悪い。
パーヴェルも、ヴィタリーも、体調不良を起こして、力を発揮できていないと思われる。
さて、アンナ……どうする……
この局面どう乗り越える?
ラスカーの視線がアンナの方に向き、そこで起きている光景を見て、思わず目を丸くした。
アンナは、香子に向かって、拳骨と蹴りによる攻撃を休む間も与えないくらいに激しく繰り出していた。
対して香子は、十字棍を巧みに操り、全ての攻撃を棍の交差部分で受け、完璧に防いでいた。
「なぜ……あなたが……ここで……私の前に現れるのよ!」
「アンナ……」
ラスカーは、完全に言葉を失っていた。




