六十五
《決勝リーグ・第1回戦・第2ピリオド》
強天使(ウルムスリーグ優勝チーム)
→矢吹パンナ(女18歳)
→段 深緑(女19歳)
→アド・ブル(女19歳)
→ジャッキー・ロワイヤル(女36歳)
弓術家星(プラタナスリーグ優勝チーム)
→第5星(男83歳)
→第6星(男71歳)
→第7星(男74歳)
→第8星(女77歳)
『弓術家星』の第1ピリオドに出場した4人は、動きやすい白い法被に白い烏帽子といった出で立ちだったが、今度の4人は重厚な黒の平安装束に十字軍が使用していたような仮面をそれぞれ装備している。
身軽な白い弓術家と比べて、敏捷性は大きく損なわれている印象で、しかも高年齢である。
全員が同じくらいの身長で、顔をすっぽりと包んだ仮面のおかげで、見かけの男女区別が付かないどころか、全員が同じ容姿なので4つの分身にしか見えなかった。
「あの者たちは、誰なのですか?」
と、劉 梓朗が宋 鵬に尋ねた。
「ボクの守護を勤めている暗殺者たちだ」
と、宋から軽く返答された。
「閣下の暗殺者……」
さすがに、劉は言葉を詰まらせた。
「WGBGは初出場ですが……」
「リーグ優勝した前半のヤツらを育てた連中だ。それなりに大丈夫だろう」
宋は楽観的に言うと、にんまりと笑った。
「試金石というヤツだな。劉、勘違いするなよ。予測システム的には、我々の方が挑戦者だってことをな」
「もちろん承知しております」と、劉は固い口調で言った。
「我々の予測システムに基づく行動こそが調整の役割であり、我が国はもちろんのこと、世界平和を導けるのですから」
「相変わらず、言うことが固いな」
宋の笑顔が苦笑に変わった。
「まきね、かっけー!」
選手控室で、段 深緑が両目をキラキラさせ、両手の拳を握りしめながら叫んだ。
その右後ろでは、レナが同じ姿勢で、両目を輝かせていた。
「段さん、皆さんはもう『接続室』へ行かれましたよ。急いだ方が……」
日向 夕子の注意で、段はハッと興奮から覚めた。
「す……すみません」
段が慌てて周りをキョロキョロし始めると、レナがピンク色をしたラグビーボールのようなモノを差し出した。
「探し物はこれですよね」
レナが言うと、段はにっこりと笑って、それを受け取った。
「きれいなピンクですね」
「秘書の蛭沢 桃にペインティングしてもらったんや」
「ああ……」と、レナはうなずいた。
「蛭沢さんはピンクの達人ですから、もう完璧なピンクです」
「レナ、ウチの活躍、見といてな」
「楽しみにしてます」
と言って、さらに段が背を向けて去っていく後姿に向かって、
「油断しないで下さいね」と伝えた。
段は、右手を挙げる仕草で答えた。
『接続室』では、第1ピリオドを終えた選手たちが梨菜と向き合っていた。
「いもうとの容態は?」と、真樹が梨菜に尋ねた。
「もう元気ですよ。真樹さんに元気なのを伝えたいと言ってたけど、私から伝えておくから、もう少し休んでおくように言っておきました」
「ありがとうございます」と言って、真樹は頭を下げた。
「第2ピリオドの相手は、私たちの相手よりも、きっと強力だと思います。天使様たちも、どうかお気を付けて」
「さすがに決勝リーグまで来ると手強いですね。私たちも気を引き締めて行きます」
「マイハニーは、とても良いリーダーでしたよ。チームワークさえ発揮できれば、必ず良い結果が導けることを知ってあげ……知りました」
「二人とも、お疲れ様でした」
梨菜はオイゲンと香子に笑顔を見せ、そして真樹には力強いハグをした後、闘技場へ向かった。
その後ろをアド・ブルとジャッキー・ロワイヤルが続いた。
段は、キラキラ輝かせた瞳で真樹を見つめた。
「真樹先輩、すごかったです。もう感動しました!」
真樹は、梨菜のハグを受けてトロけ気味で、段の熱い言葉を何となく耳に入れていた。
「あ……段ちゃん……あなたも頑張ることよ……」
「はい!頑張ります!」
段は、握りしめた両手に何度も力をこめて気合いを入れながら、闘技場に入っていった。
「ああ……天使様……愛してます……私、幸せです」
真樹の心は、もうこの場には無かった。
「よろしくお願いします!」
梨菜の高らかな挨拶が場内に響き渡り、たちまち狂気に満ちたような大歓声に包まれた。
矢吹パンナの人気もだが、レモンティーンが三人揃った話題性も大きかった。
「あれ、ジャッキー姉さん。今日はバケられへんのですか?」
段が美しい素顔を見せているジャッキーに向かって、素朴に尋ねた。
「バケるって……あなたね、私をバケモノみたいに言わないでちょうだい。『強天使』は美男美女ぞろいのチームでしょ。私もそれに合わせて人気を稼がなきゃ。ドブスにバケてる場合じゃないわ」
と、言って、自慢の赤髪を右手でかき上げる仕草を見せた。
「姉さん、本気モードね」と、アドは笑う。
「最初から全力出してるからね。みんなも一緒に頑張ろうよ」
ジャッキーは楽しそうに笑った。
長めのホイッスル。
同士で打ち解け合っているのもつかの間、すぐに試合開始となった。
『強天使』の4人は、フィールドの中央付近へ移動する。
真樹と同じ作戦を取るつもりだ。
黒い装備の弓術家たちは、重そうな雰囲気とは裏腹に、第1ピリオドの白い弓術家たちに負けない俊敏さで、フィールドの縁を周回し始めた。
「開始」
段がピンクのボールを手の平に載せ、詠唱する。
ピンク塗りした表面にきらめきが現れる。
アド・ブルは、チーム入りして改めて製作してもらった金色の傘の形をした武器を天井に向けて開き、いつでも雷を落とせるように『臨界状態』にした。
梨菜は、腰に装着している長剣を抜かず、両手を前に出して、格闘のような構えを取った。
ジャッキーは余裕の表情で、黒い弓術家たちの動きを眺めていた。
弓術家たちは、堀の縁をなぞるように回転しながら、最初の攻撃の構えを取った。
「来るで」と、段は上唇をペロリと舐めた。
4発の矢。
さらに、続行して発射された矢。
さらには、それを追随する矢。
素早い動きで、各人が三連発の矢を放った。
そして、全ての矢の向かう先は、メンバーの中で唯一レモンティーンではなく、『意志』の力に遜色が窺えたジャッキーだった。
「やはり……」と、梨菜はつぶやく。
放たれた12発の矢が示した『意志』は、2000、4000、8000の4人分。
合計56000だった。
観衆たちのどよめきが放射線状に響き渡った。
「任せて!」
段とアドが同時に言った。
アドは、傘の先から水平に直線的な『光束』を放ち、ジャッキーの背後から来る矢を二発、段は「行くで!」と言ってボールから放たれた大きな爆発により、前方から来る二発の矢を難なく撃ち落とした。
「段さんのあれは……」
レナの頭上にハテナマークが現れた。
「水素爆発です」と、日向が説明した。
「アンモニアの分解によって、大量の水素を発生させているんです」
「ミキちゃんの『回転球』に似てますね」
「水素を生成する点は同じですが、工程が違います。ミキさんは水の電気分解、段さんはアンモニアの熱分解なので、MEのエネルギー選択で電気を選ぶか、熱を選ぶかに分かれます」
「あのボールは一回使ったら、もう終わりなんですか?」
「全量を使い切るまで、何度でも爆発を起こすことができます。段さん基準で、今のレベルだと『小爆発』くらいですね」
「あれで『小爆発』……じゃ、『大爆発』とかしちゃうと、味方もみんな吹き飛んでしまいますね」
「そこは、それ……」
と言って、日向はいたずらっぽく笑う。
「みなさん、お強いヒトたちばかりですから、某かの合図で防衛すれば良いのではないかと……」
「合図……そういえば、段さんは攻撃の前に『行くで』って言ってましたね……わかりやすいヒト……」
レナはキョトンとした顔で、大画面に写る段の無邪気な笑顔を眺めていた。
「段め!」
宋は悔しそうにしながら、両手でテーブルを叩いた。
テーブルの上には、重厚な食器に盛られた彩り豊かな料理が並んでいたが、宋の癇癪程度の衝撃では、ビクともしていなかった。
「あの娘……このボクを裏切っておいて、ぬけぬけと『強天使』なんかに!」
「まあ、仕方がないと思いますが」と、劉は冷静に言った。
「処遇に対する不満は、契約当初から洩らしていましたから……閣下は、段を安く見積もり過ぎていたんです」
宋は、もう一度、両手でテーブルを叩いた。
残念ながら、重厚な料理たちは、ビクともしなかった。
「ボクは、あれの救世主だぞ!なのに何だ、あの恩知らずは!」
「……」
劉は沈黙し、宋の興奮が静まるのを待った。
「まあ」と、宋はすぐに平常を取り戻した。
「いずれ泣き顔に変えてやるさ。それに、あれのデータは、すでに手に入れ、活用できてるんだからな」
「閣下が導いた成果は、いずれ明らかにされますよ」
劉は、笑顔を見せながら言った。
宋はほくそ笑み、大きな塊の鶏モモ肉を右手に持ち、豪快にかぶりついた。




