六十二
オイゲンは、両手に装着している籠手型の武器『牙獣』を正面に突き出すように構えた。
さっきは『牙獣』を交差させ、身を守るようにしていたのに対して、今度は明らかに攻撃的である。
銀色の鱗が前方に移動する仕組みになっており、両手の先は、まるでサイの角のように鋭く尖った形状に変わった。
「避けないの、オイゲン?」と、真樹が不安そうに尋ねる。
オイゲンは、ニコリと微笑みを返す。
「ここで回避行動をとって、また凶子に助けられる場面になったら、ボクは単に足手まといな存在になってあげられるだけだからね。ボクを認めてくれた矢吹社長の期待にも応えてあげなくちゃね」
8本の矢は、全てオイゲンを目指していた。
そして、さらに4人の弓術家たちは、次の発射態勢に入っていた。
二発一組の矢が発射される間隔は2秒。
弓術家の滑らかな動作には、まるで淀みが無く、機械的に連射が繰り返された。
オイゲンは、両手の武器の先端を合わせ、迫り来る矢を正面から受け止めようとする。
複数の矢の集合により、その威力は階乗的に倍増する。
(狙いどころははっきりしている……ボクが力を発揮してあげられるかどうかだ……)
矢はオイゲンの『牙獣』と衝突し、オイゲンは体ごと後ろに押されていた。
そこへ第二波の攻撃来襲。
集中攻撃を受けているオイゲンをかばおうと、香子が真樹より前に歩み出て、十字棍を床に打ち付けるように立てた。
「防御は最大の攻撃なり」
そう唱えると、4人を包むように、透明なガラス状の材質の強力なバリケードが張られた。
発射された矢は、跳ね返すまではいかなかったが、矢先がバリケードに突き刺さった状態で止めることはできた。
向かい来る矢と格闘していたオイゲンは、尖った爪の先から『意志』の『横取り』に成功し、カウンター攻撃を仕掛けようとしたところへ、前方に香子とバリケードが現れたので、慌てて攻撃を取り止めた。
「とほほう……これでは攻撃できませんでしね……」と、ミキミキがつぶやいた。
「香子さん」と、真樹は不機嫌気味に「さん」を強調して言った。
「あなたのバリケードが強力なのはわかってますが、この状態は敵の攻撃を受けない代わりに、こちらも攻撃できません」
真樹の注意に対して、香子は、
「私は……オイゲンさんを助けようとして……」
と、言い返そうとした。
「ボクのことなら」と、オイゲンが会話に入ってきた。
「これくらいの攻撃は心配ないと言ってあげるよ。それより、カウンター攻撃を仕掛けようとしたら、前に障害物が現れたんで、驚いてあげたよ」
「私は……私は……みんながピンチだと思ったんで、つい……」
香子は、今にも泣きそうな声でつぶやいた。
「香子さん、今は団体戦、チームワークが必要なんです」と、真樹が泣く子の頬をはたく勢いで言った。
「そして、今は天使様の指示で、私が第1ピリオドのグループリーダーに任命されてるんですよ。行動指示は私が出します。私に従って下さい」
「私は……良かれと思って……」
香子の釈明は、真樹には反抗的な態度を取っているように見え、真樹の怒りはますます加熱した。
「さっきは黙って聞き流しましたが、『私が皆さんを守ります。だから、皆さんは攻撃に徹してください』と言ってましたよね。私は隊列をくずさないように指示しているのに、それを無視して、なぜ勝手に行動しようとするんですか?」
「私は……ただ……」
香子は、まだ何か言いたげに唇を震わせていた。
「何や……キュア凶子ってのは……」
控室にいる段 深緑がイラ立ち気味に言った。
「しょうもないヤツやな」
「言葉がはしたないわよ、段ちゃん」
と、そばにいたアド・ブルがなだめた。
「私たちと年齢が一回り違うお姉様よ」
「そやかて、矢吹パンナを倒した言うから、戦いぶりを参考にさせてもらおうと思てたんやで。そしたら、自分勝手をヤラかして、何やガッカリやわ」
傍で聞いていた梨菜がクスリと笑った。
ピリピリピリピリ……
震えるような音色のホイッスルが鳴り響いた。
反則の宣告。
『弓術家星』側に、バトル・ポイントがさらに2点加算されて、4点となった。
決勝リーグでは、攻撃行為をしないで試合時間を消費させることを禁止した『時間稼ぎ禁止ルール』が試合開始から始まっており、予選リーグの時のように1分間の猶予は設定されていない。
「あああもう!」
真樹が発狂気味に叫び声を上げた。
「隊列をくずさずに敵との間合いを詰めて、攻撃のタイミングをきちんと計画してたのに狂ってしまったことよ」
「すぐにバリケードを解除します」
香子が慌てて硬化させていたMEへの『意志』を緩和しようとした。
「待て、凶子!」と、オイゲンが止めに入ったが、香子のバリケードはキレイに解除された。
そこへ、第4星がタイミングを図っていたかのように矢を射った。
矢はまっすぐにオイゲン……ではなく、ミキミキに向かった。
突然、現れたバリケード。
突然、消えたバリケード。
突然、現れた自分に向かってくる矢。
ミキミキは、その変化を認識できなかった。
彼女が繰り出していた『予測』にも、それは全く想像できていなかった。
矢は、ミキミキの左胸を貫通し、前後の長さを均等に分けあった中間で止まった。
「……」
ミキミキは悲鳴も上げず、そのまま背後に倒れた。
床に背中が着いた衝撃で、胸に刺さっていた矢の貫通した長さの分だけ手前に押し戻された。
その拍子で、真っ赤な鮮血が床に散らかった。
『時間稼ぎ禁止ルール』の反則時に聞いた震えるような音色のホイッスルが響いた。
真樹は、茫然とミキミキが倒れる様子を見ていた。
そして、すぐに事態を認識し、全身から大量の汗を噴き出しながら、ノドが裏返るほどの声で悲鳴を上げた。
「いもうと!!」
ミキミキは、仰向けに倒れ、下が直線の分度器のような目を開いたまま、ピクリとも動かなかった。




