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レモンティーン  作者: 守山みかん


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五十八

「バトル・ロイヤル!」

と、声を張り上げたのは真樹だった。

ビール・タンブラーに口を付けたばかりで、クリーミーな泡が上唇にチョコンとトッピングされていた。

場所は、滞在ホテルのラウンジに設置されたナイト・カフェ。

メンバーは、梨菜、レナ、真樹とミキミキの4人。

真樹以外は未成年なので、真樹の同伴者ということにしていた。

もっとも、真樹自身も、見かけを梨菜にそっくりにしているだけに、入店時に未成年ではないかと疑われたが、運転免許証の提示で、入店許可を得た。

成人と証明されてしまえば、もうこっちのモノと主張せんばかりに、ビールを注文したというわけだ。

そして、10人分のテーブルを確保し、今は奥側の隅に陣取って、待ち人が来店するのを待っている状況である。

配置は、奥から梨菜と真樹、その正面にレナとミキミキである。

「4人対4人のバトル・ロイヤルなら、私たち3人だけじゃ、あと5人足りないことよ」

「うん、そう」

梨菜は、ふわっとそう答える。

ちなみに彼女の前に運ばれているのは、アイスミルクティーとミックスベリータルトである。

決勝リーグの説明をさらりと終えて、タルトの半分を最初の一口でいっぱいにして、今しがた飲みこみ終わったところだった。

「それで松川専務が、これからそのメンバーを連れてくるというわけで」

「大きなテーブル席を選んだのは、そういうわけなんですね」

レナががっかりした顔で言った。

「広いテーブルいっぱいにご馳走を並べて、4人だけで大祝賀会するのだと思っていました」

「きゃはあ。レナすわんは食いしんぼ」

「ご馳走が並ぶのは間違いないね。これから来る新しい選手たちの紹介が終われば」

「じゃあ、今、私たちが食べてるこれは……」

と、レナは、梨菜に追随して注文したアイスミルクティーとミックスベリータルトで、やはりタルトの半分を一口でやってやった状況をまじまじと見つめながら言う。

「それは『つきだし』というのでし」

ミキミキが右手の人差し指を立て、得意顔で説明した。

「つきだし……」と、レナはつぶやいた。

(もし、メインメニューで、同じようにアイスミルクティーとミックスベリータルトが出てきたら、それはもう『つきだし』ではありませんわ)

(たとえ『つきだし』と同じモノが出てきても、それは『メインメニュー』という名前に変わっていますの)

(そして、デザートでも同じようにアイスミルクティーとミックスベリータルトが出てきたら、それはもう『メインメニュー』ではないのです)

(たとえ『つきだし』や『メインメニュー』と同じモノが出てきても、それは『デザート』という名前に変わっていますの)

「レナすわん」と、ミキミキが真顔でレナを見る。

ミキミキの真顔というのは、直線が上側の分度器のような目と、直線が下側の分度器のような口になっている顔である。

言うまでもないが、普段は逆の形状になっているのである。

「レナすわんに、これだけは伝えておきたいのでし」

「何でしょうか?」

レナは、キョトンとした顔で、ミキミキの方を見た。

「……デザートは別腹(べつばら)……」

ミキミキのつぶやきに、レナはハッとした。

「天使様……やっと二人きりになりましたね」

と、真樹が梨菜にピッタリとくっついて言った。

「……?……すぐそこに二人いますけど……」

梨菜は、正面に座るレナとミキミキに(あご)の先を向ける。

「私には天使様しか見えませぬ」

「ツッコミ役がいないから、ボケ放題になってるけど」

「天使様、口の周りが汚れています」

真樹は、しみじみと梨菜の唇を見つめる。

リップクリームでテカテカになった唇に、ミックスベリータルトの粉状のカスがついている。

「今すぐ、お風呂に行きましょう。私がキレイに洗って差しあげることよ」

「あと5分くらいで、松川専務たちが来ますよ」

「構いませぬ。お風呂だと伝えて、待たせておけば良いのです」

「あ……いたいた」

不意に場に入ってくる声。

真樹が何事かと視線を声のした方に向けると、長い黒髪の美少女が、そばに立っていた。

白いフリルネックのブラウスに、ペリドットグリーンのふんわりした(リネン)のマキシスカートという()で立ち。

大人っぽく見せているが、未成年らしいあどけなさを感じる。

背丈は160センチ代の中背で、真樹と同じくらい。

日本人のように見えるが、ちょっとだけ異国の雰囲気。

「やっぱ、(なま)はキレイやね」

流暢(りゅうちょう)な日本語。

若干の方言も含まれているが。

『生』と聞こえたので、真樹は思わず自分のビール・タンブラーを見てしまった。

「お待ちしておりました」と、梨菜は少女に向かってペコリとお辞儀をした。

「お待ちしていたという割には、ラフな感じやな」

少女は、飲食物が散在しているテーブルを見渡しながら言った。

「これぐらい(くだ)けた雰囲気の方が、ちょうど良いかと」と、梨菜は答えた。

「はは……気を使(つこ)たるまでの相手ではないと?」と、少女は不敵な笑みを見せる。

「どう(とら)えようと、そちらの自由です」

「天使様……この子のこと知ってるんですか?」と、真樹が尋ねると、梨菜は抑揚なくこう答えた。

(デュアン) 深緑(シェンリュウ)さんですよ、真樹さん」

「え?」と、真樹は息を飲んだ。

檸檬の天使達(レモンティーン)の一人……」

「あんたのこと、気に入ったで」

段は言うと、梨菜と真樹の間に立った。

「悪いけど、アンタ、場所()けてんか。ウチ、この子と(ひざ)つめで話がしたいんや」

「断ることよ」と、真樹は即答した。

「ここは、私の特等席なの。私の隣から、私越しに天使様に話しかけることも許さないことよ」

「やれやれ」と、段はため息まじりに言った。

「あと10秒でどくことになるから良いか……」

「……?……どういうことよ?」

真樹が首を(かし)げていると、背中からたくましい両腕が現れ、真樹の腕と胸を締めつけるようにガッチリと拘束した。

あまりに突然の出来事に、真樹は悲鳴を上げる余裕も無かった。

「マイハニー」

聞き覚えのある声。

真樹は、ナメクジの大群を目の前にしているくらいにすくみ上がった。

後ろから真樹に抱き着いているのは、予選リーグで対戦したオイゲン(Eugen)だった。

「……オイゲン……」

「ボクを覚えていてくれたんだね。うれしく思ってあげるよ、マイハニー」

「私はOKした覚えは無いことよ……」

真樹は体に巻きついたオイゲンの両腕を振り解こうとしたが、思うように注力の効果が現れず、しかもオイゲンは締めつける力を強くしてきた。

「このボクがプロポーズしてあげたのに、まだそんなことを言っているのかい?」

オイゲンは軽々と真樹の体を持ち上げ、10人テーブルの反対の隅の方に連れて行こうとした。

「二人きりで、これから始まる超ハッピーな未来について、語り合ってあげるよ。もう、ボクはキミのモノになってあげたんだから」

「助けて、天使様!」

真樹は、オイゲンに抱き上げられた状態で足をバタバタさせながら、梨菜に助けを求めた。

「まあ……大人の話なんで……お二人でもっと話し合うと良いよ」

梨菜は、素っ気なく言った。

段は、真樹に向かって手を振り、梨菜の隣の席に座ろうとした。

「ねえ」と、無邪気な女子の声。

そこには、身長140センチ弱のアド・ブル(Add Bull)がいた。

闘技の時に着ていた青いキャミワンピの色違いで、今は赤色を着ていた。

その姿は、まるでムーミンに登場するリトルミイのようだった。

「私も、パンナちゃんのお隣に座りたいわ」

「アド・ブル、あんたも矢吹パンナの隣に座りたいんか? ここは早いモン勝ちやで」

「ねえ。私ね、イス取りゲームが得意なのよ。すでにイスを取られていても、どかすことなんか簡単にできちゃうんだから」

アドは右手に持っていた傘の先を、ゆっくりした動作で、天井に向けて構える。

「あんた、こんなところでバトルやろうっちゅうんか。望むところや」

段も、両手を前に出す構えをし、にわかに指先から熱気を発し始めた。

「こうしましょう」と、梨菜が立ち上がった。

「段さん、その席を向こうに一つズレて下さい。段さんが今いる席に私が座ります。そしたら、お隣が二つできます」

梨菜の提案に段はうなずき、言われたとおりに席を一つ隣に移動した。

梨菜も一つズレて、空いた角席にアドが座った。

「ねえ、パンナちゃんには、ずっと私の方を向いててほしいの。パンナちゃん、こっち向いて」

「アド・ブル! ウチは、矢吹パンナと膝つめの話し合いをする()うたやろ。矢吹パンナ、そっちには背中向けたらええねん。こっち向きや」

「私ね、段ちゃんの頭にだけ雷を落とすことができるのよ。やっちゃって良い?」

「ええ度胸や。ウチも10メートル先のモンを跡形も残らんようにできるミサイル(だん)撃てるで。やっちゃってええんか?」

「こうしましょう」と、梨菜が割りこんだ。

「私、ずっと正面向いてますから。お二人は、横から私に向かって話しかけて下さい。どんどん話しかけてもらっても大丈夫ですよ。二人同時に話をされても、私、識別できますから。質問とか、ちゃんとお答えしますよ」

「さすがパンナちゃん、素敵よ。私はそれで構わないけど、そちらの熱いヒトはどうでしょうね」

「ウチは……」

段は不満顔だが、表に出した灼熱をたちまち冷却させ、気持ちを落ち着かせた。

「……それでええわ。チームメイトになるんやから、話くらいいつだってできるやろうし……」

「チームメイト!」

正面にいるレナとミキミキ、そして離れた席に連れこまれた真樹が、一斉に声を上げた。

「じゃあ、新しくメンバーになるヒトたちって……」

「何や、周知されてへんのか……だっさ」と、段はあきれ顔で言った。

「遅くなってごめんなさい」と、松川(まつかわ) 貴代子(きよこ)の声が響くと、一同がそちらに視線を向けた。

「みんな、もう集まってますよね。私は、どこに座ろうかしら?」

「ミキミキの隣が安全です」と、梨菜が案内した。

梨菜が導くままに、席に向かう貴代子。

そして、その後に続く二人の女子。

ここまで無感情だった梨菜が、急に感情を表に出した険しい顔つきになった。

貴代子の隣に着席したのは、キュア凶子こと葉島(はじま) 香子(きょうこ)

梨菜の視線は、香子に向けられていた。

すぐにそれを察知した香子は、梨菜とは視線を合わさないようにした。

そして、その隣にはジャッキー(Jackey)ロワイヤル(Royal)が着席した。

ジャッキーは、相変わらずの『どブスオーラ』を周囲に()き散らし、結果的に正面の席になってしまった真樹とオイゲンに断続的な嫌悪感を与えていた。

「これで全員」と、貴代子は声高らかに言った。

「決勝リーグに向けて、新結成した『強天使』のメンバーよ」


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