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レモンティーン  作者: 守山みかん


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五十七

梨菜は、神妙な顔をして、美園(みその) 仄香(ほのか)(ここでは、あくまでも外見で、その実は西藤(にしとう) 有利香(ゆりか))の話に耳を傾けていた。

場所はO市内にある『強天使』チームが滞在しているホテルで、仄香が泊まっているロイヤルスイートの応接室(スペアルーム)である。

梨菜も同様の部屋を借りているが、角部屋(コーナールーム)を仄香に譲ったため、こちらの部屋の方が料金は高い。

「梨菜さんのおかげで優勝できました。ありがとうございます」

仄香は起立し、両手をそろえて丁寧なお辞儀をした。

これがスポーツ要素の(ねぎら)いならば、「私のおかげではありません。チームのみんなで勝ち取った優勝です」という返答になるが、梨菜はそのようには返さなかった。

一応、この会合は非上場の株主会議(オーナーミーティング)の体をなしていた。

故に、成果は皆の協力ではなく、リーダーである梨菜の成果ということになる。

「決勝リーグは、予選リーグ優勝4チームの総当たり戦になります」

仄香の説明を、梨菜は相づちも打たず、うなずきもせず、ただ黙って聞いている。

「闘技方法は、4人対4人のバトル・ロイヤル戦を2回戦行い、勝敗を決めます。つまり、必ず全員の選手が戦闘に加わる展開になります。予選リーグの私のように、第4ピリオド専用の出番のほとんど無い選手はいないということです」

梨菜は無反応。

ただ仄香の話を聞いている。

「そして私ですが、他に役割がありますから、決勝リーグには参加いたしません。つまり、『強天使』は最低5名の選手が不足の状態にあるということになります。でも、梨菜さんは心配しなくて良いですよ」

梨菜は、なおも無反応。

「5名の補填に関しては松川さんにお願いしてあり、すでに契約が完了してます。ここまでが、私の責任範囲です」

仄香は、そこで笑顔を見せる。

梨菜は、相変わらず無反応。

「事業開始のスターターとしての私の役割は終わり、当初、予告していたとおり、『強天使』株式の7割を、あなたに譲ります。あなたのリーダーとしての成果を高く評価した判断ですよ。今後、『強天使』はあなたの判断で動かして下さい。あなたが経営権を握るんです」

「ありがとうございます」

ここで、初めて梨菜に笑顔が浮かんだ。

「ご期待に沿えるよう、努力します」

そして、ソファーに座ったままだが、形の良いお辞儀をした。

「私は、闘技には加わりませんが」と、仄香。

「あなたのそばにいますよ」

「安心しました」

梨菜は、緊張から解けたように表情を緩ませた。

「それが一番気になっていました」

「補填するチーム員が誰かということは?」

「あ……それも気になっています……」

梨菜は、話題に飛びつこうとしたが、すぐに動きを静めた。

「……」

仄香は、突然静まってしまった梨菜を楽しむように見守った。

「……チーム員が誰か……そう言いましたね……」

「……」

仄香は、何も答えない。

「つまり……私の知っているヒトたちなんですね」

満足げに微笑む仄香。

「近々、お披露目会をするから楽しみにしてて下さいね。それから何でしょうか?」

「え?」

突然の仄香の問いかけに、梨菜は少しうろたえた。

「何でしょうか……というのは?」

「『それも気になっています』と、さっきあなたは言いました。他に気になっていることがあるのではないですか?」

「あ……」と、梨菜は(くち)に手を当てて、おどけ気味に舌を出した。

「『予言書』の『原本(オリジナル)』の件です。新谷を倒しましたけど……その後にどうなったかと思いまして……」

「柴田に接触を指示しました」と、仄香は答えた。

「『強天使』と『(Scarlet) (Devil)』が対戦する前に『干渉』させたのです。賭けに負けた新谷は、(いさぎよ)く有りかを白状しました。まもなく入手できると思います」

「まだ手に入ってないんですね」

「今頃は、もう一人の被疑者と共に、警視庁の貸し切り送還船の中で、水野警視監から厳しい取り調べを受けてるはずですよ」

「じゃあ……もう手に入れたも同然なんですね」

「あなたに解いていただきましょうか」

仄香のアーモンド型の瞳がいたずらっぽく輝く。

「『予言書』がどこに隠されていたのか?」

梨菜は、すぐに両目を閉じて、思案を始めた。

「プレッシャーをかけさせていただきますが、博士はすぐに解答してくれました」

「『はかせ』がすぐに解いたなら」と、梨菜は両目をぱっちりと開いた。

「私にも解けました」

仄香はニンマリと笑い、梨菜の解答に期待した。

「新谷のアジトは国内外すべて家宅捜査しましたが、『予言書』は見つかりませんでした。ところで『予言書』がどんな形をしていたか……それは、『ディスク』と呼ばれる容器に『情報』として保存された形を新谷が持ち出したことから、その本質は『情報』であり、形がありません。つまり、何らかの記録媒体(データメディア)に保存されていた、ということになります」

梨菜は、そこで一息入れる。

仄香の笑みは変わらない。

「新谷は、私たちが葉島(はじま) 香子(きょうこ)さんの練習場を訪れた時には、すでに国内には不在でしたから、その時には、『予言書』はどこかに隠されていたのでしょう。さて、それがどこかというと……」

梨菜の黒瑪瑙(くろめのう)のような瞳がキラキラと輝いている。

「……もう一人の被疑者……か……」

その輝きが解答にたどり着いたことを示しているのは明らかだった。

「現在、同じ船で送還されているオカダイの脳内ですね。それも潜在領域で、本人も気づかない内に、記録媒体にされていたんです。面会した弁護士に手渡していた『炭素触媒素材』の紙の中に……いくつかに分割して……仕込んでいたんです」

「素敵ですよ、梨菜さん」

梨菜の推理に、仄香は賞賛した。

「さすが『強天使』のリーダーです。リーダー相応の資質を拝見させていただきました」

静香(しずか)さんに()められると、とてもうれしいです」

うっかり名前の言い間違いがあると、仄香は苦笑に変わった。

「すみません……」

「今は良いですよ。でも、人前では間違わないで下さいね」

梨菜は、またもやおどけ気味に舌をペロリと出した。

「静香さんがそばにいてくれると、とても安心できるんです。まるで、お姉さんとか、お母さんみたいに……」

「私は、いつも梨菜さんのそばにいますよ」

優しく振る舞う仄香の瞳の輝きに、若干の(あや)しさが混じっていた。

「この先もずっと……私はそばにいますよ」



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