五十三
《決勝・第四ピリオド》
強天使
→ホノ(女43歳)
紅魔
→悪魔の所有物(男41歳)リーダー
ウルムス・リーグの最終決戦に登場したのは、WGBG開戦から一度もバトル実績が無い二人の選手だった。
ブックメーカーは当然に揺れ動き、矢吹パンナとキュア凶子の第三ピリオドと同様、激しい競り合いを見せている。
だが、ブックメーカーの動きとは別に、業界をにぎわせている話題は、IMEAを構成する五芒星の一人、美園 仄香がバトルに参加していることである。
年齢に不相応の美貌の持ち主と、一兆円超の巨大企業の最高責任者とくれば、ジャーナリストたちの想像力を刺激するには十分な素材であり、サクセス、ビューティ、ピース、ヘイト、ラブ、エロスと様々な展開を見せる小説まがいの記事となって、彼女のことを書き立てていた。
「騒々しいわね」
と、仄香は肩をすくめる。
「まあ……話題の中心は、私にあるようね。黒ずくめにコスプレした中年男に、話題性を求めても意味が無いわ」
対して、新谷は身体中の穴という穴から、ため息がもれているようなあきれ顔をする。
「やれやれ……自分の置かれている立場を理解していないな……観衆は期待してるんだよ……IMEAの役員が惨殺される場面をね」
「惨殺ね……」
仄香もまた全身の穴という穴から、大きなため息がもれたような苦笑を浮かべる。
「アナタは、やれると思ってるわけね」
「私は、何年もかけて、この時の準備をしてきた……」
新谷は、革製の腰ベルトに着いたホルスターから、細長く伸びたアルファベットの『F』のような形をした『光弾銃』を取り出し、その銃口を仄香に向けて、両手で構えた。
「これは『光弾』のみを発射する通常の『筆』と違って、炭素素材でできた『芯』に臨界させた『ME』を付着させ、発射するタイプの銃だ……」
「説明無用」と、仄香は新谷の話を遮った。
「ウチの技術よ。開発段階の武器だけど、今さら驚かないわ。さっきから見てると、アナタの周りには、ウチからの盗品が多いわね。何年もかけて……なんて言ってるけど、何年もかけてるのは、ウチの研究部と開発部で、アナタは、何らかの手段で横取りしただけじゃないの?」
新谷は、何も言葉を返さず、いきなり仄香の右膝をねらって、『光弾』を発射した。
仄香は、そつの無い早さで右足を上げて、難なく弾を避けた。
新谷の両眉が上がった。
「エネルギー体の『光弾』と違って、意志の強い相手に力で跳ね返されたり、『横取り』されることなく、MEをまとった炭素素材で相手に物理的なダメージを与えることができる……」
新谷が再び仄香に向けて、『光弾』を発射する。
仄香はヒラリと全身を回転させて、それを交わし、何事も無かったように話し続ける。
「炭素素材は高密度に圧縮されたカートリッジになっていて、一本のカートリッジで一万発以上の弾を撃てるの。言わば……」
新谷の三度目の攻撃も、あっさりと避けられてしまう。
仄香はニンマリと笑って、新谷を見つめる。
「……枯れない銃弾……まさに、それだわ」
新谷は、さらに十数発連続で発射させるが、すべて交わされてしまう。
「……なぜ当たらない……」
新谷の顔に動揺が見える。
仄香は、不敵な笑みと共に、取り出した『カラム』をすばやい動作で新谷に向けて構え、わずかな躊躇も見せずに『光弾』を放った。
新谷は、避ける素振りも見せずに、眉間の中心で弾を受ける。
空気の中から金色に輝く膜が仄香の『光弾』を包みこみ、新谷に届くことなく、正確に仄香に向けて跳ね返す。
仄香は承知していたかのように、返ってきた『光弾』を避ける。
「全部、ウチの技術だわ。それも、ごく最近に情報を入手してるわね。技術の模索に関しては、良くできてると評価できる。試作品の質が高いわ」
「……なぜだ……どういうことだ?」
新谷の動揺は、さらに増していた。
「なぜ『予測』どおりにならないのか……」と、仄香が新谷が抱く疑問を代言する。
新谷は固唾を飲む。
「ことごとく『予測』が覆されてしまう理由は、ただ一つよね」
「……ありえない……いや……ありうる話か……」
新谷は、仄香の顔をまじまじと見つめる。
幾分か冷静さを取り戻していた。
「『予測』を覆すには、それを上回る『予測』を繰り出せなければならない……それは、つまり……」
「……」
仄香は口をつぐみ、何も語らない。
「あなたが『予測』を使える……それが前提となる……」
「……」
「私が知る『あねさん』は、『予測』が使えないはずだ……この場合、考えられるのは二つ……あなたが新たに『予測』の能力を身に付けたか……あるいは……」
「……」
仄香は、なおも無言で、新谷の話に耳を傾けている。
「……あなたが『あねさん』ではない別人であるか……」
そこで、仄香はフンと鼻で笑う。
だが、やはり何もコメントはしない。
「……仮に……別人であるとしたら、いったいあなたは誰なのか……」
仄香は、また新谷に銃口を向ける。
「私を上回る『予測』を繰り出せる人物……いるとしたら、それは……存在しうる中では、たった一人だ」
新谷の目がキラリと光る。
「西藤所長……あなただったのか……」
「結論が出たようね」と、仄香は言い切る前に『光弾』を発射させた。
ところが『光弾』は、新谷の右側へ大きく逸れ、ゆるく弧を描きながら、新谷の背後に通り過ぎた。
「何のマネだ?」
仄香は嘲笑のまま、目を細める。
「『予測』できるんでしょ? 自分で確めてみたら?」
新谷は、後方に行ってしまった『光弾』に注意を払いながら、自身に起きうる脅威について考察した。
あの『光弾』が、この後、大きな軌跡を描いて、私の背後から攻撃しようとするなら、相当に速度を落とす必要がある。
速度の低下は、威力の低下となる。
新谷は、ニヤリと笑う。
「『超小型保護具』をまとっているのを見ていたはずだ。そんな攻撃に意味はない」
「……」
仄香の嘲笑は消える気配は無い。
『光弾』は、目で追える程度の速度で、ようやく新谷の後方数メートルの位置にたどり着き、あとは直線的に新谷の背中を撃ち抜こうとしていた。
「何とも……のん気なものだ……」
警戒心を働かせた金色の膜が、徐々に近づく『光弾』を包みこもうとする。
新谷は、F型の銃を仄香に向けて構える。
ナノプロテクターは攻撃を認識し、攻撃行為者である仄香に向けて、『光弾』を弾き返す。
だが、その弾道に新谷がいた。
『光弾』は、後ろから新谷の左胸を貫いて、仄香に向かった。
仄香は、当然に『光弾』を避ける。
「ぐっ……」
新谷のうめき声が耳に届いたのは、その後だった。
AI審査が新谷に対してダメージレベルDを認定し、仄香にバトルポイント8点が加算された。




