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レモンティーン  作者: 守山みかん


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50/136

五十

矢吹パンナ(羽蕗 梨菜)とキュア凶子(葉島 香子)の後半戦。

前半戦終了時のバトルポイントは、梨菜が先制攻撃で与えたダメージレベルAの1点のみがカウントされて、1対0となっている。

もちろん、これはどちらかが床に足の裏以外の部位を接触させる、いわゆる『一本勝ち』が決まらずにタイムアウトした場合に有効になる優位性に過ぎない。

WGBGでは、ほとんどの試合が前半戦の『一本勝ち』で決着しており、後半戦が実施される展開に及んでも、タイムアウトに至ったケースは、これまでの全リーグの全試合記録を確認しても、わずか2試合しかなかった。

それでも、梨菜はタイムアウトに持ちこまれることを覚悟していた。

頑強な香子を転ばせたり、吹き飛ばしたりするのは不可能と悟った。

できるだけダメージを与えて、バトルポイントを稼ぐしかない。

小技を数多く繰り出して、どんな小さな傷でも良いから、ダメージ認定を集めること。

試合開始のホイッスルに合わせて、梨菜はすばやく香子に近づき、胸の中心を狙って、渾身の突きを繰り出した。

対する香子は、前半戦での武器を落とすヘマを二度するようなこともなく、強固な構造の十字棍を組み立て、梨菜の速攻に備えた。

香子の両腕は、まっすぐに頭上に上げられ、十字棍の先端は下向きになる構えを取っていた。

臨界したMEを先端まで流すための構えだが、梨菜としては、その武器が完成体となる前に崩してしまいたかった。

梨菜の剣先がねらうのは、十字棍の交わる接続部分である。

全力で押しこむように繰り出される突きは、弾丸のような速さと鋭さを備えていた。

「やはり、交差部分をねらってきましたね」

と、香子は言った。

「わかってましたよ。私の武器のこの部分をねらうだろうと」

「わざとねらわせたというのかな?」

「完成した私の武器に弱点はありません」

「そういうのは試してみなくちゃね」

ガツン!

梨菜の剣先と香子の棍の交差部分が激しく正面衝突する。

その衝撃はお互いに跳ね返り、三メートル程度の間合いを導く。

「やはり無理だったか⋯⋯」

「交差部分がねらわれるのは承知です。この武器の素材は『意志』の伝導性が高く、すぐに完成体にできるのです」

「私のもだよ。短時間のバトルでは発汗による伝導を待っていられないからね」

「棍は大型ですが、5秒以内に全体に意志が行き渡ります。特に重なりのある接続部分は強固になるというわけです」

「わかってたよ。だから、速攻をかけたんだ」

「わかってた?……『予測(プレディク)』ができるなら、跳ね返されるのもわかってたんじゃ……結果がわかってるのに、攻めるのは無駄な行動です」

「私は無駄だとは思わない」

梨菜は、剣先を正面に向けて握り、右腕もまっすぐに伸ばす。

そして、左腕は肘を曲げて垂直に立て、手の平は指先までまっすぐに伸ばし、やや腰を落として、後ろ側に重心を傾ける。

まるで、フェンシングのような構えである。

「気に入らない」

梨菜は伝えると、香子を細い目でにらみつけた。

「試合の展開がですか?」

香子は尋ねるが、梨菜は首を横に振った。

「私と同じ材質の武器を使ってる」

「最新のトレンド素材です」

梨菜はさらに首を横に振った。

「最新ではあるが、トレンドじゃない」

「何が言いたいのですか?」

「ウチの研究部が開発した素材だよ。極秘扱いのはず」

「私は何も知りませんが、バトルとは無関係です」

(せき)を切ったように、梨菜の突きが香子を襲う。

剣先は、十字棍の隙間をねらっているのだが、棍に満ちていたMEが(まく)状になって梨菜の攻撃を吸収し、トランポリンに正面からぶつかったように、自分が発した攻撃がそのまま反射された。

梨菜は、紙一重でそれを()けた。

「『超小型保護具(ナノプロテクター)』……それも、ウチの技術だよ……極秘のはずだけどね……」

「防御は最大の攻撃なり」

香子は、梨菜に対して、初めて笑顔を見せた。

「あくまで私の場合です」

「気に入らない!」

梨菜は、もう一度、突き攻撃をした。

反射されるのは『予測』できていたので、それもあっさりと避けた。

「私への攻撃は全て無駄です」

「バトルをやってんだ。攻撃を止めるわけにはいかないだろ」

「私は何もしなくても、あなたを倒せます」

「AI審査が認識するかな?」

「これまでの試合で検証済みです。私への攻撃は私からの攻撃になるんです」

「にくたらしいね」

梨菜は、唇をキュッと引き締める。

「受け身姿勢で生きてきて……それが戦闘姿勢にも表れているよ」

「あなたに嫌われても、何ら応えるモノはありません。無駄な苦労なんて、する方が悪いんです」

「初めて会った時に……キミの、その中身を確認させてもらった……やはり、キミとは仲良くなれそうにないね」

今度は、香子の方が唇を引き締め、さらに眉間(みけん)にシワを寄せた。

「年下のクセに……私をキミ呼ばわりして……生意気なヒトです」

「私を()らしめようと言うんだね。やってごらんよ」

香子は、試合開始時間を示すデジタル表示に一瞬だけ視線を向け、

「1分を過ぎました。頃合いです……」

と言うと、十字棍を地面に垂直に立てた。

高さは2メートル弱。

186センチの梨菜の身長よりも高い。

当然に、梨菜は警戒した。

「こんなモノを……重さだって、けっこうありそうなのに……よく振り回していたもんだね」

暴風火炎(ファイアー・ストーム)

香子の詠唱の後、梨菜に向かって、獰猛(どうもう)な十字型の火炎が放射される。

梨菜は、すばやく避けて、香子の側面に回ろうとする。

香子も素早い動きで、梨菜に向けて、常に正面を向くよう維持する。

「練習場で見せてもらった炎とは、次元がちがうね……強力な炎だけど、こんな勢いでMEを消費したら枯渇(こかつ)するよ」

「棍に注入した分をここで消費してるだけです。割りと、蓄積されてると思いますよ。そして……」

香子は、左手を梨菜が見えるように前に出し、臨界させて輝くMEを披露した。

「私の体内にも十分なMEが蓄えられています。つまり、キミ(・・)からの無謀な攻撃に対する応戦も可能なわけです……キミ(・・)は手も足も出せません」

梨菜は、炎を前にして、有効な攻撃方法を探ってみたが、香子の言うとおり、手も足も出せなかった。

(下手に手を出せば、小さな火傷でもダメージ認定されてしまう……いや……多少のダメージを受けても、強引に押しこんで、相手を倒すしかないかも……)

この時の一瞬の迷いが、梨菜に決定的なダメージを与えることになった。

ピリピリピリピリ……

震えるような音色のホイッスルが鳴り響いた。

(しまった!)

梨菜には、その音色の意味がわかっていた。

『時間稼ぎ禁止』の違反通告。

香子側にバトル・ポイント2点が加算された。

これで1対2で、香子が優勢となった。

そして、残り時間は30秒あまり。

香子の業火は、未だ収まりを見せていなかった。

梨菜のこめかみから頬にかけて、幾筋もの汗の(しずく)が流れ落ちた。


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