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レモンティーン  作者: 守山みかん


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四十八

「天使様が()けたことよ」

と、真樹が目を丸くしながら言った。

「攻撃を受けて立つ姿勢(スタンス)の天使様が……」

「確かに」と、日向(ひなた) 夕子(ゆうこ)も続いた。

「絶対的な強さの『意志』を持つ矢吹さんが受け止めきれないと判断したわけですよね」

「梨菜ちゃんは、自分の力を絶対的に強いとは思っていないわよ。でも、この状況は……微妙なのかもしれないわね」

仄香の見解に対して、日向は不思議そうな顔をする。

「どういうことですか?」

と、日向が尋ねても、仄香は何も答えなかった。

梨菜は、香子の攻撃を交わした後、一呼吸入れて気持ちを落ち着かせた。

そして、香子を真正面から見るように両足を左右に広げて立ち、長剣をまっすぐに構えた。

香子も、それに応えるように長めの細い(こん)の先端を梨菜に向け、梨菜と向き合った。

(私の方が『意志』が強い……そうあってくれれば良いんだけど……それを試してみる方法が一つある……)

香子は、そこで試合時間のカウンターをチラリと見る。

一分を経過……

(この棍に注力した『ME』を全解放して爆発させてみる)

(一度、全解放しても、すぐに同じ量を注入できるだけの温存はある)

(もし、相手が(ひる)めば、速攻で連続攻撃を仕掛けられる)

(勝算が少しだけ見えたかも)

(最悪でも、何とか前半戦をしのいで、後半戦は完全な武器の形で(いど)みたい)

香子は、右足を一歩前に出し、左上から下を向くように棍を構え直した。

臨界させた『ME』が棍の先端に向けて流れ始めた。

梨菜は、香子の右前足の動きに合わせるように左足を一歩後ろに下げた。

「爆発」

香子の詠唱と共に、下向きに流れていた『ME』が一斉に爆発した。

梨菜も自身の爆発を起こすことで、香子からの強力な爆圧から逃れようとするが、巨大な岩石をも土俵外に押し出しうる力を正面からまともに受けては、後ずさりをせずにはいられなかった。

それを、香子は『意志』の勝利と確信した。

押され気味の梨菜に対して、香子は棍の先端を胸の中心に押し込むように突きを繰り出した。

(羽蕗さんは『予測』しているはず)

(この正面からの攻撃は、右か左に向きを変えて交わすだろう)

(すかさず私は横向きに棍を振り抜く)

(羽蕗さんは避けきれない)

香子の予想どおり、梨菜は突きを体を右側に向けて交わした。

香子は上唇をなめる。

突くと見せかけた棍を、今度は円を描くように横向きに振り抜いた。

梨菜は、棍の動きに合わせて長剣を八双(はっそう)の構えに変え、香子の攻撃を受け止めた。

ドン、と重い爆発音が(とどろ)き、その振動が棍を通じて、香子の両手に届いた。

とても重い振動。

香子は衝撃で棍を落とさないように、力強く握りしめた。

「棍を使った『ツバメ返し』か……良い攻撃だね」と、梨菜は感心する。

「私の方が『意志』が強いと思ったのに……」

香子は悔しそうにしながらも、棍を梨菜の方に押しこもうとする。

まだ諦めていなかった。

「残念だけど、あなたの『意志』には、ばらつきが見られるね。安定してないんだ」

「それを『予測』したと言うんですか?」

「受け止められるとわかれば、避ける必要がないからね」

梨菜は、押してくる棍に(やいば)を食いこませ、そのまま先端部分の四分の一程度のところで、まるでニンジンのようにさっくりと切り落とした。

「前半戦終了まで、あと二十秒……その棍で、どこまで闘えるかな?」

香子は短くされた棍を正面に構え、なおも攻撃姿勢を見せる。

「今の状態を言うとね」と、梨菜は余裕を見せながら言う。

「あなたの攻撃は、一切、私に届かないね。先程までの強靭な『意志』は見られなくなってる。疲れか……集中力の乱れか……原因は、いろいろあるだろうけど」

梨菜の話に耳を傾けながらも、香子は攻撃姿勢を緩めることはなかった。

梨菜の長剣の先端部分に、『光弾(バレット)』が集まり始める。

「これが私の前半戦最後の攻撃。もし、これから逃げられたなら、勝負は後半戦にお預けだね」

そう言い終える前に、梨菜は『光弾』を香子に向けて発射させた。

香子は、短くされた棍の先端で『光弾』の中心を狙って、前に突き出した。

『光弾』は、棍で突かれた部分から分裂し、八方に散ろうとしたが、再び一つに集まり、香子の正面に迫ってきた。

「爆発」

香子は、全身に蓄積していた『ME』を解放し、梨菜の『光弾』を吹き飛ばそうとした。

そのタイミングに合わせて、梨菜の『光弾』も激しい爆音を起こして、破裂した。

細かく砕かれた破片のような『光弾』が、なおも香子に襲いかかった。

香子は、『ME』を使いきってカラカラに渇ききった棍を使って、火の粉を振り払うように、細かくなった『光弾』を撃ち落とした。

そこへ、強靭な『意志』の接近を感じ取った。

いつの間にか、梨菜が(ふところ)に入りこみ、臨界の輝きに満ちた回し蹴りを香子の左耳の後ろに繰り出そうとする寸前だった。

長めのホイッスル。

梨菜は姿勢を戻し、残念そうに肩をすくめながら、香子から離れた。

香子は、ホッとため息をついた。

「後半戦」と、梨菜は『接続室(ジョイント・ルーム)』に向かいながら、香子の方を振り向かずに言った。

「対戦相手の武器が整わないチャンスを逃す形になったけど、私は負けないからね。大好きなヒトが見てる前なんだから」

梨菜の声は、耳の奥までこだまするように響き渡った。

香子は、全身で深呼吸を一回した後、クルリと背を向けて、『接続室』に向かった。



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