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レモンティーン  作者: 守山みかん


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39/136

三十九

『強天使』が全勝で決勝進出。

しかも、アド・ブル率いるD国のエースチーム『青い稲妻(Blau Blitz)』を相手にして、WGBG開戦初の『ショートV(第二ピリオドで決着させること)』を決めるなど、当初フロック視されていたイメージは払拭され、その実力たるは、今や業界での話題を飛び越え、脅威とされる存在に至っていた。

また、他のリーグに関する話題として、マロニエ・リーグでは、アンナ(Anna)リリーホワイト(Lillywhite)デュアン(Duan) 深緑シェンリュウ(ShenLiu)を破り、『永久凍土(パーマフロスト)』が決勝に進出したこと。

そして、プラタナスとテルミナリアの両リーグでは、決勝まで残ったのは、全てC国所属のチームだという点が挙げられた。

「乾杯!」

O市内のとあるレストランにて、女色の漂う声が上がる。

長細いテーブルを囲み、色彩豊かな衣装をまとい、色とりどりのグラスを持ち上げている男女は、奥から仄香、梨菜、オカショー、真樹、レナ、水野警視監、手前で折り返して、奥に向かって、日向、柴田、ミキミキ、貴代子、蛭沢桃(ピンク)と並ぶ。

「まだ決勝戦が残ってるんですよね」と、水野が乾杯の後に言う。

「祝賀会じゃないわ」と、仄香は返す。

「とりあえず、このタイミングでみんなが揃えたこと。ショーちゃんも来てくれたしね」

仄香と梨菜は、オカショーの方を見て、にっこりと笑顔をシンクロさせた。

「それにね、この時点で三億円の賞金がもらえることも確定したのよ。『強天使』プロジェクトとしては、好調な滑り出しと言っても良いでしょう」

「まあ……つまり、祝賀会と言うことですね」と、水野は言って、にんまりと笑う。

乾杯の後は、しばしのイートタイム。

食欲が満たされた後は、思い思いの組み合わせと共通の話題を分かち合う歓談となるのは、自然な流れ。

「ぱんぱかぱーん」と、ミキミキが立ち上がり、口を大きく開けて、ハート型の『のどちんこ』を披露する。

「きゃはあ。まきねが、『青い稲妻』のオイゲンにプロポーズされたのですわん。きゃはあ。報告おわり」

「いもうと!」と、真樹が焦り気味に、斜め向かいのミキミキを抑えようとする。

「勝手に()き散らさないことよ。本気かどうか、わかってないんだから」

「マジで!」と、叫び声を上げたのは柴田だった。

「うう……先を越されたあ……」

右腕で両目を押さえて鳴き始めたので、仄香が両目を丸くした。

「柴田クンが、真樹ちゃんに目を付けてたなんて、初めて知ったわ」

「い……いえ……部長はただ……」と、日向が釈明を始める。

「気に留めた女子には、一度はアタックしてみようという主義らしくて」

「無差別攻撃か……いつからテロリストになったの?」

仄香の冷えた言い回しを聞いて、飲み物の入ったグラスに唇を付けていた梨菜がプッと吹き出した。

「あ……羽蕗さん、それは……」と、ピンクがそわそわする。

「本気かどうか、わかってないってことは……」

レナが興味津々と輝く両方の瞳を時計回りに動かしながら言う。

「本気だとわかったならオッケーするってことですか?」

「レナちゃん!」

真樹が顔を真っ赤にして、口を尖らす。

「一回対戦したというだけで、何もわからないヒトと……いきなり結婚なんて……それに、私には……」

チラリと梨菜の方を見る。

「大好きな天使様がいることよ……」

「オイゲン……と言えば」と、貴代子が話題に入り込んでくる。

「D国、バンクス社幹部の御曹司ってウワサされてるイケメンね。WGBG選手の個人情報は秘密にされているけど、その男子は、業界ではかなり有名なヒトよ」

「うわあ。真樹さん、玉の輿(こし)じゃないですか」

レナの瞳がギンギンに輝きを増している。

「まあ、梨菜ちゃんへのリスペクトは続けても良いと思うけど」と、仄香が言う。

「梨菜ちゃんは、真樹ちゃんのおムコさんにも、おヨメさんにもなれないわよ。それとは切り離して検討してみたら良いんじゃない?」

「美園会長……」と、真樹は小さな声でつぶやき、視線を明後日の方に向ける。

「そんな風に言われると……ちょっと淋しいことよ……天使様が遠くに行ってしまうみたいで……」

そこで、梨菜が突然立ち上がり、オカショーの背中を通り過ぎて、一つ離れた席にいる真樹のそばにつかつかと歩み寄り、遠慮無しに真樹の膝の上にお尻を乗せて座った。

「て……天使様……何を?」

これには、真樹も驚いた。

隣のオカショーも当然だが、場にいた全員が面食らった。

「真樹さん、私は重いですよね」

梨菜は、しゃっくりを交えながら、真樹に向かって言った。

「梨菜ちゃん……あなた……」

仄香は、自分が頼んだワインのグラスが空になっているのに気がついた。

「酔ってるわね……いつの間に……」

「羽蕗さんが、自分が頼んだグレープジュースと間違えて飲んだみたいです」

仄香の前に座るピンクが、申し訳なさそうに説明する。

「真樹さん、答えて下さい。私は重いですか?」

梨菜は弾むような声で、なおも問いかける。

「天使様……やめて……」

真樹は、苦しそうな顔で言う。

実際に、七十キロの梨菜が載っかっている膝への圧迫は尋常じゃなかった。

「私は重いんです。でも、真樹さんから離れませんよ」

梨菜は言うと、両手を真樹の頭の後ろに回して、自らの頬を真樹の頬に押し当てる。

「誰も私から逃げられないんです。私が逃がしませんから……真樹さんが結婚したって……私から逃げられませんよ」

「天使様……」

「梨菜ちゃん、やめなさい」

仄香の冷えた注意が入った。

梨菜は、ピシャリとムチを打たれたように全身を波打たせ、真樹から離れた。

真樹は、それほどイヤがっていたわけではないが、酔いのせいで明らかに普通じゃなくなっていた梨菜が離れてくれて、ホッとした。

梨菜は落ち込んだ様子で、今度は隣のオカショーの膝の上でふさぎこみ、大声で泣きながら「ごめんなさい」を連発し始めた。

「まあ、ショーちゃんに甘えるのはオッケーね」と、仄香は笑顔を見せる。

「ショーちゃん、ヘマって落ちこんでる梨菜ちゃんを慰めてあげてね」

「まあ……」と、オカショーは頭の後ろを掻きながら、苦笑する。

「パンナさん、今みたいなのは、いつボクにしてくれるんですか」

こちらもハイボールを三杯あけて、酩酊の入口付近をうろうろしている柴田が割りこんできた。

「柴田、オマエは黙ってろ!」と、すかさず仄香に釘を打たれる。

ワッと泣き出した柴田は、隣の日向の膝の上でふさぎこみ、「ごめんなさい」を連発し始める。

「ちょっと……部長……イヤだ……誰か助けて……」

日向が突然の不幸に見舞われたような悲鳴を上げる。

「話は変わるけど、次の対戦チーム」と、貴代子が生真面目な表情で話題を変えてきた。

おふざけの要素が入りそうにない雰囲気が感じられ、柴田は日向の膝から離れ、キリリと姿勢を正す。

梨菜を除いた一同は神妙な面持ちになる。

「『(Scarlet) (Devil)』チーム。B国所属となっているけど、明らかに新谷(しんたに) (こう)が率いるチームであることは、わかってるわ」

「新谷 紅……」

敏感に反応を示したのは、水野だった。

貴代子は、水野のデリケートな反応に気づいていたが、そのまま話を続けた。

「出場実績があるのは、キュア(Cure)凶子(Kyoko)ジャッキー(Jackey)ロワイヤル(Royal)サーヴァント(Servant)マスター(Master)の三人。リーダーは新谷だけど、出場実績は無いわ。そして、全勝で勝ち上がってきてる。ウチと同じよね。リーダーの設定は違うけど、ホノちゃんまで回ってないっていう点で」

「羽蕗さん、専務の話聞こえてる?」

未だふさぎこんでいる梨菜に向かって、オカショーが優しい声で問いかける。

「ごめんなさい……ごめんなさい……」

梨菜は、涙をポロポロ流しながら、頭を左右に振って、さらに泣き出す始末。

酔いの深みと共に、その顔はさらに赤みが増していた。

(可愛い……天使様……)

真樹は、胸をドキドキさせながら、梨菜の様子を眺めていた。

「ヨッちゃんがここに来た理由は、きっと新谷のことを嗅ぎつけたからよね」と、貴代子が尋ねると、水野はフウと大きく吐息を漏らした。

「まあ……そうなんですがね……」

「思惑どおりに行かなさそうね」と、貴代子が察した。

「この施設には、B国政府の統治権が強力に働いてまして……我が国の司法が介入できる余地は無さそうです」

「警視監ともあろうお方が、犯罪者を目の前にして、手も足も出せないと」

貴代子が皮肉混じりに言う。

「そもそも、このWGBGの開催趣旨は」と、水野が時おり下唇を噛む仕草を交えながら話す。

「高額報酬の設定により、反社会的組織を含めて、投資意志を根こそぎ集めることで、『ME』に係る事業の悪用を防止するということですよね。つまり、言い替えれば、犯罪組織に対しても利益供与を認める仕組であり、司法権の行使から保護されることを担保しているということです」

「私も『IMEA』の会員」と、仄香。

「その趣旨を承認した一人。WGBGの目的は、世界平和よ」

「世界平和とは、大義名分ですが」と、水野はさらに言葉を繋げる。

「実際にやっているのは、若い女の子たちを巻きこんだバトルショーじゃないですか。彼女たちは、命懸けですよ。それを大人たちがよだれを垂らして見物してる。ル・ゼ・ジャセルの……あの詩のとおりに……」


(少女は、高架橋の真ん中を大股で歩き、レモンを絞る)

(大人たちは、汗だくになりながら、橋脚を建設し、少女の行く道筋を延伸する)

(少女は、構わず大股で歩き、レモンを絞る)

(大人たちは、その果汁を奪い合い、さらに橋脚を組み立てる)


「ルが私に贈った詩……」

仄香は、ゴクリと音を立てて、唾を飲みこんだ。

「彼女たちは」と、水野はキョトンとしているミキミキや、ふさぎこんでいる梨菜に視線を向ける。

「大人たちになり代わって、戦争をしてるのです」

一同は静まりきって、水野の話に耳を傾けた。

梨菜の泣き声と「ごめんなさい」だけが、辺りに響いていた。




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