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レモンティーン  作者: 守山みかん


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三十六

接続室(ジョイント・ルーム)』には小さなシャワー室があり、真樹の足はまっすぐにそこへ向かった。

発汗で湿り気を帯びた戦闘服を脱ぎ、二丁のククリナイフと共にシュート(Shute)に投げ入れると、全裸になっている真樹に向かって、天井から勢いよくシャワーが降り注がれた。

『WGBG』の規定では、前半戦で使用した戦闘服や武器を後半戦で使用することはできない。

そして、二十秒間の『強制シャワー』を浴びることを義務づけている。

つまり、前半戦で残留した『ME』を含む汗を完全に除去し、後半戦に持ちこめないようにしている。

シャワーが終わると、今度は圧力のある風が真樹に降りかかる。

『強制乾燥』である。

これが十五秒間。

真樹のヘアスタイルは、梨菜に合わせてショートヘアにしているので、乾きは早い。

ちょっと髪の間に指を入れて、撫で回す程度で、髪はすっかり乾く。

ちなみに、この乾燥機は、腰まで伸ばしたロングヘアでも乾燥を完了させられる威力がある。

『強制乾燥』が終わったら、真樹はシャワー室から外に出て、新しい戦闘服を着用する。

休憩時間(ハーフタイム)』とされている一分とは、シャワー室から外に出てからカウントが始まることになっている。

着替えは、その一分以内に行わなければならないということである。

真樹は、三十秒以内に着替えを済ませ、残り時間を休憩用ソファーに腰かけて、試合開始を待つ余裕があった。

ポーンと、呼び出しのチャイムが鳴るのに合わせて、真樹は立ち上がり、『闘技場』に移動する。

対戦相手のオイゲンも、身なりを整え直して、入場してきた。

二人は、拍手と大歓声に包まれる。


《準決勝・第一ピリオド・後半戦》

強天使

ハーモニー(Harmony)真樹(Maki)(女24歳)

青い稲妻(Blau Blitz)

オイゲン(Eugen)(男29歳)


「このボクを相手に」と、オイゲンが口を開く。

「後半戦まで持ちこめたのは、キミが初めてだ。ここは、キミの強さに敬意を表してあげる」

「……」

真樹は、相変わらず唇をつぐんだまま、何も応えない。

長めのホイッスル。

オイゲンは、右手を前に突き出すように構えた。

右の拳を包みこむような籠手(ガントレット)をしており、明らかに前半戦とは異なる武器に変えている。

規定では、前半戦と後半戦で、継続して同じ武器を使用することは禁じているが、形の異なる武器を使用することについては妨げていない。

オイゲンが気合をこめると、右手を包む『牙獣(biter)』がスイレンの花を象った、凶暴な開花状態になった。

「これで、キミの肌を切り刻んであげる」

真樹は、二丁のククリナイフを正面に出し、人差し指と中指だけでクルリと器用に回転させて『臨界』させると、斜め四十五度に傾けて構える。

今度は、オイゲンの方から真樹に向かって先制攻撃を仕掛ける。

真樹は、ククリナイフを握る両手に力を注ぐ。

オイゲンは、真樹の胸元を狙って、スイレンの『牙獣』をまっすぐに押しこんでくる。

真樹は、二丁のナイフの刃先を揃えたまま頭上に振り上げ、オイゲンとの間合いを読んで、タイミング良くその姿勢を維持したまま振り下ろす。

二丁の刃先が合わさり、オイゲンの『牙獣』を受け止める。

刃先は、スイレンの花びらの隙間に入りこみ、真樹のナイフに噛みついて離れまいとする。

だが、真樹の攻撃を抑えることはできなかった。

真樹は、両手に力をこめて、そのままオイゲンの『牙獣』を切り裂こうとする。

刃先は、そのまま突き進み、まるでローストビーフを切り裂くように、スムーズに鋼鉄製の花びらを削ぎ落とした。

「バカな……」

オイゲンは、悲鳴を上げる。

床上に削がれた『牙獣』の破片が散らかり、剥き出しにされた右腕からは(おびただ)しい流血が見られた。

AI審査がオイゲンへのダメージ・レベルBを認定し、真樹にバトルポイント2点が加算された。

真樹が前半戦で受けたダメージは切り傷程度のレベルAだったのに対して、それよりも重いダメージを与えたと判定されたわけだ。

つまり、バトルポイント上で、真樹が逆転したことになる。

「単純な原理なんだけど」と、梨菜は真樹の活躍に満足そうな笑みを見せる。

「攻撃の向きを揃えることで、その力は二倍になる、ということだよね。むしろ、オイゲンさんが、そのことを意識していなかったというのが意外な感じ。真樹さんを甘く見てたのか、それとも自分の力を過信してたのか、わからないけど、まともに攻撃を受け止めようとしてたね」

「くっ……」

オイゲンは、ダメージを受けた右手をかばいながら、悔しそうに歯ぎしりをした。

流血はすでに治まり、キズ口も回復し始めていた。

真樹は、同じように二丁のナイフを並べて構えた。

「情けない……」と、オイゲンはつぶやいた。

「キミの力はわかっていたのに……ボクの中で……心のどこかで、新しい武器と自分の『意志』を過信していたのだと思う……情けないの一言だよ」

オイゲンは、左手側の『牙獣』を真樹に向けて構える。

こちらは、前半戦に使用したモノと同じ型である。

「これからが本番だ。もう、ボクは油断しないであげる」

真樹は、表情を変えない。

再び、オイゲンの方が先制攻撃を仕掛ける。

真樹は、両刀を振り上げ、オイゲンが近づくタイミングで同時に振り下ろす。

オイゲンは、『牙獣』のウロコを開かず、強固に閉じた状態で『臨界』させ、真樹の攻撃を受け止める。

「硬化!」

オイゲンは、渾身の『意志』を注ぎこんで、『牙獣』を固くする。

真樹は、更に両刀をオイゲンに押しこもうとする。

オイゲンは籠手で真樹の攻撃を受けたままで、一歩だけ後退する。

真樹のナイフが籠手に接着し、真樹もまたオイゲンに引きずられるように、一歩だけ前進する。

オイゲンは、ニヤリと笑う。

(足を残した状態で、上半身がボクの方に引っ張られている)

(このまま彼女を引き寄せれば、床の上に突っ伏してあげられる)

オイゲンの全力を注いだ敏捷性を駆使した、この上なく爽快で、豪快で、愉快な動きの『いなし』が仕掛けられ、真樹の体が前のめりに倒れかける。

真樹は、『いなし』に逆らう動作を取る間もなく……いや、逆らう動作を取ろうともせず……いや、むしろオイゲンに飛びかかっていったと言う方が正確か……

ナイフから両手を離し、その両手はオイゲンの胴に絡みつき、背中に回されていた。

オイゲンは驚き、強引に抱きついてきた真樹と視線を合わせた。

真樹は、まるで天使のような愛らしい笑顔を浮かべ、黒瑪瑙(くろめのう)のようにキラキラと輝く瞳で、オイゲンを見つめ返した。

(な……なんて可愛いヒトなんだ……いつか、きっと……このボクのカノジョに……してあげるんだ……)

ゴン!

固いモノ同士がぶつかったような音。

背中に広がる冷たい感触。

後頭部からジワジワと額あたりに伝わってくる痛み。

そして……遠くなっていく意識……

長めのホイッスル。

試合終了の合図。

オイゲンの上に覆い被さっていた真樹は起き上がり、勝利判定が自分に示されたことを確認する。

大歓声が真樹に向けられる。

『強天使』の人気は、梨菜一人に向けられているモノと思っていたが、割と自分も人気があるのではないかと思った。

真樹は、疲労もあったせいか、ボンヤリとしながらも、観客たちに向けてぎこちなく手を振り、ゆっくりした足取りで『接続室』に戻った。


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