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レモンティーン  作者: 守山みかん


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35/136

三十五

《準決勝・第一ピリオド》

強天使

ハーモニー(Harmony)真樹(Maki)(女24歳)

青い稲妻(Blau Blitz)

オイゲン(Eugen)(男29歳)


オイゲンは百九十センチ超の長身で、筋肉隆々の引き締まった体格に整った顔立ちの組合わせの、いわば世界公認とも表現できるイケメンである。

彼の出でたちは、体格に隙間なく合ったビキニパンツと、両腕にはめた銀色の細かなウロコ模様の入った籠手(ガントレット)部分以外は、日焼けした肌が露出しており、いかにも格闘系の戦闘員であると想像できる。

「美しいヒトだ……ボクが、そう思ってあげる」と、オイゲンは真樹の容姿を褒め称える。

真樹は、なびく様子すら全く見せず、口元を引き締めて、オイゲンを見つめ返す。

(この女子は……)と、オイゲンは考える。

(ボクの褒め言葉に反応しないな……)

通常と異なる反応を示す真樹に対して、不安と屈辱感が起きる。

割合で言えば、不安30%、屈辱感70%といったところ。

(このイケメンのボクが、美しい、と言ってあげたんだぞ。少しは照れとか、謙遜とか、あるだろ)

「私の美しさは……」

オイゲンの思考内容を読み取ったかのように、真樹は口を開く。

「天使様を模したもの。だから、私への褒め言葉は、天使様への褒め言葉。私は嬉しいけど、それは当然のことよ」

「……」

長めのホイッスル。

試合開始に合わせて、二人は戦闘態勢を取る。

オイゲンは、銀色の籠手に臨界させた『ME』を流し込み、まぶしく輝かせる。

そして、装飾に見えたウロコ模様の一枚一枚が手首方向に開き、鋭い(やいば)となる。

「これでキミの美しい肌をキズつけてあげるのは気が引けるが」と言って、オイゲンは右腕を水平に構える。

切れ味の良さそうなウロコ状の刃が整然と斜めに立っている。

「このボクが切ってあげるのだ。覚悟したまえ」

「……」

真樹は無言で二本のククリナイフを立てるように構える。

そして、人差し指と中指だけを使って、両方のナイフを前方向に回転させ、元の通りに戻ったタイミングで『臨界』させた。

流れた汗は回転させるわずかな間に、刃先まで通わせていた。

「真樹ちゃんも、武器の扱いに慣れてきたわね」と、仄香が感心する。

「夕べ、ずっと練習してたのですわん」と、ミキミキ。

「きゃはあ。できるようになったのは、今朝なのですわん。おわり」

「あ、そう……」

仄香の声がトーンダウンする。

真樹はククリナイフを十字に構えた姿勢で、オイゲンに向かっていく。

オイゲンも両腕を十字に構えて、真樹を迎え撃とうとする。

真樹は、オイゲンとの間合いを見ながら、タイミングを見計らい、右手のナイフを振り上げる。

オイゲンは、左手を前にして、籠手で真樹の攻撃を受けようとする。

真樹は、躊躇することなく、ナイフを振り下ろす。

その攻撃をオイゲンは籠手の開いたウロコ部分で受け止める。

真樹のナイフは、ウロコの隙間に入り込んだ形で止まる。

続いて、真樹は左手のナイフを同様に振り下ろす。

オイゲンもまた、もう一方の籠手で、攻撃を受け止める。

やはり、ウロコに噛みつかれたように、真樹のナイフは止められる。

真樹がウロコの間からナイフを引き抜こうとしても、ウロコが力強く締め付け、渾身の力を入れても抜けなかった。

真樹は、ナイフに注入した『意志』を解放した。

すると、油でも差したかのように、ウロコからナイフが、するすると抜けた。

真樹のガードが緩んだ隙を狙って、オイゲンは右腕の籠手を真樹にぶつけてくる。

鋭いウロコ状の刃先が真樹の胸元を襲う。

真樹は、とっさに上体を捻らせ、その攻撃を交わそうとするが、左胸の上の部分をかすめ、細長い切り傷を残し、鮮血が流れ出す。

すかさず、AI審査がダメージを認定し、オイゲンにバトルポイントが加算される。

「『意志』を解放したから、防御力が弱まったね」と、梨菜は言って、舌を鳴らした。

「胸のキズを癒すのに『ME』も消費する。真樹さん、旗色が悪いな」

「大きな胸が(わざわい)したな」と、オイゲンは嘲笑する。

「もう少し小さければ、ボクの『牙獣(biter)』でケガをさせてあげることはなかった」

真樹は、すぐに『治癒(ヒール)』を施していたので、胸の切り傷は痕跡も残らないほどキレイに消えていた。

「私の胸は」と、真樹は無表情を維持したまま言う。

「天使様を模したモノ。大きさも、形も、そのままのことよ。私の胸を侮辱するのは、天使様への侮辱」

真樹は、再び両手のククリナイフを構え直し、オイゲンに向かっていく。

オイゲンも、真樹の攻撃に備える。

「牙獣」

ウロコの刃が『臨界』によって輝き、真樹の肌を食いちぎろうと、大きく開く。

真樹は発汗を伴って『臨界』させた左手を挙げて脇を開き、籠手による攻撃を避けると、その脇でオイゲンの右腕を挟み込んだ。

武器を用いない体術を使ってくる展開に、オイゲンは驚いた。

そして、その状態で彼の左肩を切り落とさんと右手のナイフを振り下ろしてくる攻撃に、さらに驚いた。

(くっ……)

とっさにオイゲンは左手の籠手で、ナイフでの攻撃を受け止める。

先ほどと同じように、ウロコの間に真樹のナイフが挟まり、抜けない状態になる。

「間近で見てあげると」と、オイゲンは真樹と数センチ程度まで顔を近づける。

「可愛いヒトだと言ってあげよう」

真樹は、力ずくでナイフを引き抜こうとするが、やはりびくともしなかった。

「無駄だと、言ってあげるよ。キミが『意志』を解放しなければ、ボクの『牙獣』は、噛みついたモノを絶対に離さない。そして」

真樹の脇に挟まれたオイゲンの右腕から、カシャッと音がした。

今まで手首側に開いていたウロコの刃が、逆に肘側に向かって開いた。

「この状態で、ボクが右腕を引き抜いてあげたら、どうなるかな? キミのキレイな肌をズタズタに引き裂いてあげられるよね」

真樹は、オイゲンの言葉など気にもかけず、さらに左脇に力をこめる。

オイゲンの口元がひきつり、右腕を強引に引き抜こうとする。

ところが、オイゲンの右腕はピクリとも動かすことができなかった。

(これは……)

オイゲンは、歯を食いしばるくらいに、右腕に力を注入するが、真樹の脇の下にがっちり挟まれた状態を崩すことはできなかった。

(『硬化』させたのか……)

オイゲンは、真樹のナイフが食いこんだ側の籠手の『ME』を『爆発』させる。

その衝撃で、真樹の右半身が突き飛ばされるが、左脇はオイゲンの腕を挟んだままの状態を維持した。

(クソ、外れない……この女子、強い……)

長めのホイッスル。

前半戦が終了した合図。

真樹は脇の力を緩め、オイゲンは真樹を傷つけないようウロコを閉じて、ゆっくりとした動作で籠手を引き抜いた。

両者は背を向け合い、それぞれの『接続室(ジョイントルーム)』に戻っていった。

「ここまで来ると、さすがに簡単には勝たせてもらえないね」と、梨菜は言って、ため息を漏らす。

「初めての休憩時間(ハーフタイム)。真樹さん、後半戦はどう出るかな」

「まきね……」

ミキミキは、心配そうに、真樹のいる『接続室』に向かって、両手を合わせていた。


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