二十八
梨菜は、柴田が開発した長剣を右手で握り、『接続室』から闘技場に入場した。
その瞬間から会場から大きな歓声が爆発した。
長身の美しい姿をした少女の登場に、場内が驚きと興奮に包まれた。
《第三ピリオド》
強天使
→矢吹パンナ(女18歳)リーダー
春夏秋冬
→ワルタ・ウルフ(男46歳)リーダー
ワルタは、親しみのこもった笑顔を梨菜に向ける。
「キミのことは、噂で聞いていた。想像以上の美しさだ」
「ありがとうございます」
梨菜も微笑みを返した。
「それに、『意志』の強さも凄まじい……アンナ・リリーホワイトには次元の違う強さを見せつけられたが、キミもそれに劣らない……もしかしたら、それ以上の強さを持っていそうだ。チームメイトの強さも素晴らしい。『GBG』の経験は私の方が長いが、この場では、私の方が挑戦者と認めざるを得ないな。よろしく頼むよ」
梨菜は、そこで剣を右手で持ちながら、背筋を伸ばして気を付けの姿勢をし、ワルタに向けて、丁寧な最敬礼をした。
「こちらこそ、よろしくお願いします」
先輩闘士に向けた梨菜の礼儀正しい振る舞いに観客たちは胸を打たれ、ドーム内の二人に大きな拍手を送った。
「こういうところ、パフォーマンスじゃなくて、素でやれる真面目さが梨菜さんらしいですよね」と、日向が感心する。
そこへ、『接続室』から真樹が戻ってきた。
淡いグリーンと白のボーダーのニットシャツに、水色のフワッと膨らんだ膝上丈のスカート、ミキミキとは同デザインだが色違いの服に着替えていた。
「きゃはあ、まきね、お疲れ様なのですわん」と、ミキミキが駆け寄る。
「ああ……」と、真樹は小さくため息を漏らす。どことなく焦点の合っていない、トロンとした顔になっている。
「天使様に、すれ違い様にハグされたの。とっても幸せな気分よ。力強くて、いい香りがして……私も、天使様が帰ってきたら、お返しのハグをしてあげることよ」
「きゃはあ、私も、まきねにハグしてあげるのですわん」
「いもうと!」と、真樹はミキミキのハグをピシャリと拒否した。
「天使様の余韻が残ってる内は、ハグ禁止にすることよ」
「とほほう……」
ミキミキがガッカリして引き下がると、レナが近づいてきた。
「ミキちゃんも頑張ったもんね。私がハグしてあげますよ」
「れなすわん」
ミキミキは、両目を潤ませて、レナとハグした。
「みんな、仲が良いわね」
仄香が、ややあきれ気味の笑顔を見せる。
試合開始のホイッスル。
一同は、ピタリと静まり返り、試合中継に注目する。
梨菜は、右手に長剣を握ったままで両足を開き、両手を下に伸ばす姿勢で全身から発汗させ、『ME』を 『臨界』させる。
ワルタは、鎧型の『光弾砲』から、梨菜に向けてミサイルのような『光弾』をまっすぐに撃ち放つ。
梨菜は、長剣を正面に構える。
ワルタは、一発目から少し間を置いて、二発目の『光弾』を発射させる。
梨菜が一発目の『光弾』を『臨界』させた剣先で受けようとした瞬間、ワルタは意図的に『爆発』させる。
爆風が強烈な圧力となり、梨菜を押し出そうとする。
梨菜は、剣先で『臨界』させた『ME』を『爆発』させ、ワルタの爆圧に対して爆圧で返し、襲いかかる攻撃を相殺させる。
ワルタの二発目がその後の『爆発』により、休む間もなく梨菜を襲う。
梨菜は、全身に行き渡った『ME』を球状に強大な『爆発』を起こし、ワルタの体ごと吹き飛ばそうとするが、二発目の直後に発射させていた三発目の『光弾』をすぐに『爆発』させ、梨菜からの攻撃を阻止する。
連続する『爆発』でドーム内は煙に包まれ、観客たちのテンションは最高潮に盛り上がる。
ワルタは、視界が悪い中でも、ミサイル級の『光弾』を梨菜に向けて放ち、届く前に『爆発』させるという攻撃を繰り返す。
梨菜は、小刻みに『ME』を『爆発』させて回避するという、防戦一方の状況だが、ワルタの限界量とされる五発を撃ち終えるまで、ひたすら堪えていた。
そして、その五発目が発射され、同じように爆圧から堪えきると、梨菜は剣を両手で垂直に構えて、ワルタに突進した。
ワルタは、たくましい腕に取り付けられた砲口に、六発目の『光弾』を練り出し、梨菜に向けて、ニヤリと微笑んだ。
「アンナ・リリーホワイトとの前哨戦を見ていたな。五発が私の限界だと、キミは思い込んでいたようだ」
ワルタのこれまでと遜色ない威力を持つミサイル級の『光弾』が、容赦なく梨菜の胸元に向けて発射された。
梨菜は、とっさに剣から左手を放し、向かい来る『光弾』を左手だけで鷲掴みにする。
たちまちワルタの『光弾』を『横取り』した梨菜は、大きく上半身を捻り、その反動を利用して、バネのように『光弾』をワルタに投げ返した。
ワルタは、ただ茫然と、自分に戻ってくる『光弾』を見つめていた。
『光弾』は、ワルタの胸骨に接触する直前に『爆発』し、その巨体を後方へ吹き飛ばした。
とっさの防御策で、胸骨へのダメージは軽減できたが、爆風による物理的な力は対処できず、為す術もなく、ワルタは闘技場のサークル外の堀まで飛んでいった。
勝敗が決した時の長めのホイッスル。
だが、ドーム内は、まだ白い煙が充満していて、観客たちには、何が起きているのか、まるで状況が掴めなかった。
やがて煙が晴れ、闘技場の中央に立つ梨菜と、堀に着水したワルタの姿を見て、どちらが勝利したのかを認識した。
「ふう」と、ワルタは自力で堀から戻った。
「やはり、敵わなかったな。キミたちの今後の活躍を祈るよ」
梨菜は、開始前と同じく、両手をまっすぐに伸ばして、ワルタに向かって最敬礼をした。
「ありがとうございました」
割れるような大歓声に場内は包まれた。
控室でも、チームメイトたちが大はしゃぎした。
「『強天使』のグッズ販売ブースに、客たちが殺到しているそうです」
日向が興奮気味に報告した。
「まずは一勝」と、仄香は満足げな笑顔を見せた。
「これからが本番よ。私たちの存在を世界に知らしめるの」




