二十七
「きゃはあ」と、着替えを済ませて、ピカピカに肌を輝かせているミキミキが、控室に戻ってきた。
「早いね」と、梨菜が声をかける。
早いという評価は、決着の早さではなく、着替えの早さのことである。
「きゃはあ。『接続室』に入ったら、天井からシャワーが降ってきたので、そのまま『戦闘服』を脱いで、着替えてきたのですわん」
今のミキミキの格好は、水色と白のボーダーのニットシャツに、淡いグリーンのフワッと膨らんだ膝上丈のスカートである。
『脱ぐ』というキーワードを聞いて、柴田の耳がピクリと動く。
「『事前説明会』で聞いてます」と、日向 夕子が話し始める。
「とにかく発汗が要のバトルで、終了後に臨界したエネルギー粒子を残した状態は危険ですから、自動的にシャワーで流す仕組みにしてあるそうです。ねえ、柴田部長」
話題をフられて、柴田は戸惑い気味に頭を掻いた。
「えっと……そんな話あったっけかな?」
「ありました!」と、日向は声を上げる。
「やっぱり、説明会の時、ずっと寝てたんですね。部長は、こういう話があると、シャワールームに隠しカメラとか設置しに行きそうなんで注意してたんですが、全然動かないから、これはきっと寝てたなと思ってました」
「あのね、キミは、ボクのことを何だと……」
「あ、第二ピリオドが始まりますよ」
「……」
柴田は、口を尖とがらせて、黙る。
日向は、いたずらっぽい目をして、柴田を横目で見る。
梨菜と仄香は苦笑する。
《第二ピリオド》
強天使
→ハーモニー真樹(女24歳)
春夏秋冬
→ドゴール(男22歳)
ドゴールは、全長百五十センチメートル、重量二十五キログラムの棍棒を両手で握り絞め、軽々と胸の高さまで持ち上げて見せる。
前哨戦にて、パーシャ・ミシュレとの対戦で使用したモノとは異なり、握り部分を除いたほぼ全部の表面に菱形の鋭く尖った鋲が付いた金砕棒に似た造りで、体術で攻撃を受け止めるのは厳しく思える。
対して、真樹は両手にククリナイフを握り、両腕をまっすぐに前に伸ばして、両刀の刃先を相手に向ける。
「真樹さんのククリナイフは」と、柴田が解説する。
「刃先と峰に細い溝が通ってて、発汗させるとその溝を通って、先端まで流れるようになってる。『ME』を流動させるための発熱を抑えられるので、体内に蓄積した『ME』の消費を節約できるってことだよ」
「真樹さんは、ミキミキを上回る身体能力の持ち主だけど、『情報側面』はあまり得意な方じゃないんだ」
と、梨菜が補足する。
「ドゴールの『意志』の力を推定できない状況で、相手の攻撃を武器でまともにガードするのは得策じゃない。ましてや、ドゴールは前哨戦の時よりも強化した武器を持ち込んでる」
早口で畳みかけるように言うので、皆の不安を煽っているように聞こえるが、梨菜はそこでニッコリと微笑んだ。
「ここは、真樹さんのトレーニングの成果を見てみようよ」
長めのホイッスル。第二ピリオドが開始した。
真樹は、武器を持つ両手を横に広げた姿勢で、ドゴールに向かって駆け寄っていく。
ドゴールは、低い球を打つバッターのように、重い棍棒を右下から左上にスイングさせる。
スイングの途中で、棍棒は熱く燃え上がり、激しい熱気が真樹に襲いかかる。
「熱い」と、真樹は叫び、ドゴールの前で立ち止まる。
ドゴールは、ニヤリと笑い、スイングしきった棍棒を逆方向に振り下ろしてくる。
真樹は、紙一重に攻撃を交わし、隙ができたドゴールの左肩に目を向ける。
ドゴールは読んでいたかのように、振り下ろした棍棒を両手でスライドさせ、真樹の顎を狙って、突きを繰り出す。
「まきね」と、ミキミキが叫ぶ。
真樹は、その攻撃も紙一重に交わすが、鋭い熱気が研ぎすまされた剃刀のように白い頬を切りつけ、鮮血が飛び散った。
ドゴールは棍棒を持ち替え、真樹の両足を払おうと、低めにスイングさせる。
真樹はジャンプして、それを交わす。
一分経過のチャイムが鳴る。
ここからは、『時間稼ぎ禁止ルール』が発動する。
二十秒間、攻撃を仕掛けずに逃げてばかりだと、相手にバトル・ポイントが加算されてしまう。
ドゴールは、攻撃の隙を与えまいと、間髪いれずに攻撃を繰り出してくる。
真樹は、器用に体をくねらせて、全ての攻撃をぎりぎり交わす。
ポーンと警告音が響き、ドゴールのバトル・ポイントに2点が入る。
「真樹さんが反則を取られちゃったね」と、梨菜は言って、下唇を噛み締める。
この後も、攻撃行動が見られなかったら、十秒毎に反則を取られる。
ドゴールは、勝ち誇ったような笑みを見せ、今度は真樹を遠ざけようと、胸の辺りの高さで水平にスイングさせる。
真樹は、このタイミングを待ってましたとばかりに、両手をまっすぐに伸ばし、ククリナイフの刃先を棍棒に押し当てる。
ここで垂直に当てていたら、頑強な棍棒に武器をへし折られていただろうが、ククリナイフの曲がりを利用して、斜めに刃先を当てていた。
棍棒の横方向の動きによって刃先がスライドしたところで、真樹は地面を蹴り上げる。
身長百五十九センチ、体重四十九キロの小柄な体が浮き上がり、ドゴールの棍棒を振り抜く力で、更に高く舞い上がる。
真樹は、ドゴールの頭上で宙返りし、棍棒を振りきった姿勢で、隙ができている右肩を目がけて、両手のククリナイフを振り下ろす。
回転と落下の力が加わり、刃先がドゴールのたくましい肩にすんなりと切れ目を入れる。
ここで真樹は、刃先で『臨界』させていた『ME』を『爆発』させる。
その衝撃で、棍棒を振り抜いて前傾姿勢になっていたドゴールの巨体がうつ伏せに吹き飛んだ。
真樹は、更に体を一回転させ、地面の上にキレイに着地した。
「まきね……」
ミキミキは、満面に笑みを浮かべ、胸の前で両手を合わせる。
右目から、涙が一滴、頬を伝って、顎まで流れ落ちた。
「さすが真樹さん。身体能力が優れてるね」と、梨菜が褒め称えた。
長めのホイッスル。
ドゴールは、地面に両手をついていた。
勝敗判定は、真樹の勝ちとなった。
場内は、またもや、どよめきに包まれた。
多くは重連式くじを外した者たちの声だった。
「これで二連勝」
仄香は、満足そうに微笑んだ。
「勢いに乗ってきたわね」
「次は私」と、梨菜が立ち上がる。
「会長……」と、レナが心配そうに瞳を潤ませている。
梨菜はベンチコートを脱ぎ、それをレナが受け取った。
手入れの行き届いた素肌、均整のとれた身体が露になり、まばゆいばかりの輝きを放っていた。
「行ってくるよ」
梨菜は微笑み、ゆっくりとした動きで、背中を見せた。




