二十六
《第1ピリオド》
強天使
→ミキミキ(女16歳)
春夏秋冬
→イセラ・サック(女26歳)
イセラ・サックは、やや縮れさせたロングの黒髪で、『キル・ビル』に出てきたユマ・サーマンの髪を黒く染めたような容貌をしており、前哨戦でR国のラスカー・タムによって瞬殺されたフレア・サックの姉である。
イセラの手には、細い銀色のワイヤーを束ねた鞭のような武器が握られ、両腕から滲み出てきた『臨界』させた『ME』により、目に刺さりそうな輝きを放っている。
そして、電気エネルギーの選択により、バチバチと弾ける火花を鞭の先端まで通じさせた。
イセラは、上半身を九十度近くまで捻らせ、戻りの反動で、電気を帯びた鞭を大きな円を描くように振り回した。
鞭の先端は、ミキミキの足元までは十分に届き、ミキミキは器用に飛び越える。
「きゃっ、きゃっ」
イセラは、両手で鞭を掴み、回転する力を利用して、さらに猛然とミキミキに鞭を振るう。
今度は足元ではなく、ミキミキの胸元を狙う。
ミキミキは、それを上半身を反らせて、リンボーダンスのように下側を潜り抜けてかわす。
イセラは、重ねて勢いをつけ、鞭を持つ両腕を回転させる。
その姿勢は、まるでハンマー投げに似た動きだった。
イセラの口元に笑みが浮かぶ。
一本だった鞭が突然二つに分かれ、ミキミキの胸元と足元を同時に襲う。
「いもうと!」と、真樹が叫ぶ。
「きゃはあ」
ミキミキは、カプセルトイのプラスチック製容器に水が満たされたようなボールを二つ、両手の人差し指と中指の間に挟んで持ち、イセラの鞭に投げつける。
カプセルの中に流し込んだ『ME』が瞬時に『臨界』し、光り輝く『回転球』となる。
「あの容器は、『炭素触媒』を混合させた特殊素材でできてるんだ」と、柴田が得意顔で説明を始める。
「『ME』の吸着力と浸透力を高めた素材にしたんだ。それと、電気エネルギーを選択する工程支援も考慮してね、水素に分解しきれずに残ってしまう水の問題を解決したんで、今までミキちゃんが自作してたカプセルより、格段に威力が上がってるはずだよ」
「それに加えて、今の相手は電気エネルギーを選択する戦闘方法……好都合だね」
梨菜は、ニヤリと笑う。
ミキミキが投げつけた『回転球』は、分離した鞭の真ん中にそれぞれぶつかり、爆発する。
その爆風により、イセラの鞭を持つ両手が押し戻され、体制を崩す。
背中を見せたイセラに向けて、ミキミキはさらに『回転球』を投げつける。
ミキミキの素早い動きに、イセラは完全に意表を突かれ、『回転球』を避けることができず、攻撃をまともに背中で受けた。
二度目の爆発により、イセラの体は前のめりに突っ伏して、地面に思い切り腹部をバウンドさせ、次に臀部を地面に付けた。
AI審査が鋭く察知し、長めのホイッスルを鳴らした。
「ふん」と、真樹は鼻を鳴らし、微かに笑みを浮かべる。
「別に心配したわけじゃなくってよ」
「ミキミキ~!」
場内スピーカーから勝利者が告げられ、ミキミキは爪先立ちでクルリと回転して、喜びを表現した。
会場から大きな声援と、そしてどよめきが同時に沸き起こった。
割合的には、どよめきの方が大きかった。
日本から、ただ1チームだけの参加となっている『強天使』は、当然に知名度が低く、ブックメーカー方式で発券されている公営くじでも、配当は高く設定されていた。
つまり、期待されていなかったのである。
今の第1ピリオドの配当では、イセラが1.1倍に対して、ミキミキは5.4倍の高配当だった。
あの『こけし人形』のような顔をした女子は何者だ?
どよめいていた多くは、専門のスポーツライターたちの声であった。
「これだから、世界は面白い」
闘技場オーナーのウィリアム・ゴースワンは満面に笑みを浮かべ、祝福を伝えるために『強天使』の控室に向けてコールボタンを押す。
《はい》と、梨菜がコールに応じる。
「ミス・リナ、初勝利おめでとう」
《ありがとうございます》
「さっそく初勝利記念を届けますよ」
《まだ勝負はこれからですよ》
「それは心強い」
ゴースワンは梨菜との通話を切り、ブックメーカーを呼び出す。
「第2ピリオドの倍率は?」
《『春夏秋冬』が1.1倍、『強天使』が5.9倍です。フロック視が強いですね。次はドゴールが出てくると読んで、二度は無いと》
「重連式は?」
重連式とは、全ピリオドの勝者を正確に予想するくじである。
ゴースワンは、『強天使』の全勝(三連勝)に5本を投じている。
ちなみに、ゴースワンの1本は標準通貨単位の百万倍である。
《39.5倍です》
「『The LARGE』の状況は?」
《順調です》
ゴースワンは通話を切断し、満足げに微笑んだ。
「世界は順調に流れている」
第2ピリオドの様子が室内の大型ディスプレーに映し出された。
巨体のドゴールが、画面からはみ出しそうなくらいにクローズアップされていた。
対する『強天使』の方は、真樹が登場し、小柄だが美しいプロポーションを披露した。
二メートル超の身長を誇るドゴールと対比すると、まるでライオンの檻に投げ入れられたウサギのようである。
ドゴールは同情する目つきで、真樹を見る。
「何なら逃げても良いんだぜ」
「第1ピリオドを勝ったのは、私の妹」と、真樹は毅然と言い返す。両手にはククリナイフが握られ、『臨界』させた『ME』により、光り輝いていた。
「そして、次は私の強さを味わうことよ」




