二十五
B国O市内にある『ラズベリーパーク闘技場』にて、『WGBG』の開会イベントを終えて、『強天使』のメンバーたちは、出場前選手たち専用の控室にて賑わっていた。
引き続き『WGBG』の開幕戦となり、初戦は第五回戦目に予定されていた。
『強天使』はウルムス・リーグ所属となり、対戦相手は、前回の視察時に試合を観覧した『春夏秋冬』チームである。
定員七名の控室に収まったのは、
・羽蕗 梨菜
・美園 仄香
・三木 真樹
・三木 美樹
・汐見 レナ
・柴田 明史
・日向 夕子
最後の二人は、研究開発のためのデータ取りが目的の参加で、戦闘要員ではない。
戦闘員たちは、露出度の高いキラキラした『戦闘服』を装備し、唯一の男子である柴田は目の奥にハートが現れっぱなしになっていた。
汐見レナは、控室の隅の方に個人の好みで持ちこんだパイン材のデスクに、縦書きに『予測係』と書かれた正四面体の机上札を配置し、両目を閉じて、口をクチュクチュと動かしていた。
自己流の精神統一方法で、『のど飴瞑想』と個人的に呼んでいた。
つまり、口に入っているのは、のど飴である。
レナは、梨菜が率いる『北高』の生徒会メンバーで、事務局の役割を担っている。
梨菜とは同学年で、現在は十七歳。
校内では、梨菜を凌ぐトップクラスの成績の才女で、頭の回転はかなり早いが、天真爛漫な性格から、時々、天然な性質に由来するすっとんきょうな行動が見られる傾向がある。
『強天使』での役割として、『予測係』を自ら引き受けると言い出し、ほんの数日前に『才能』を導入してもらったばかりである。
「れなすわん」と、ミキミキが近づいてきた。
「その先は言わないで下さい」
レナは、両目を閉じたまま、ミキミキに両手の平を見せた。
「?」
ミキミキは、首を斜め十五度に傾げる。
「ミキちゃん、あなたは」と、レナはやはり両目を閉じたまま語り始めた。
「私ののど飴を狙っていますね」
「きゃはあ」
レナは、デスクの引き出しから個包装されているフルーティーな味ののど飴を取り出し、ミキミキの前に置いた。
「そして、感謝感謝なのですわん、と言いますね」
「そうなのですわん。よくわかりますでしね」
ミキミキが嬉しそうに言うと、レナの眉間にシワが寄った。
「ミキちゃんが『感謝感謝なのですわん』と言うはずの未来が変わってしまいました。『予測』は失敗です」
「それが『干渉ずれ』だよ」と、梨菜が割りこんできた。
「『予測』の対象となっているヒト(モノ)に干渉することで、微妙に状態が変化してしまうんだ。今の例だと、大きな変化ではないから、その先にさらに『予測』をしていたとしても、影響は無いね」
「……わかってます……そういうのは」
レナは、頬を膨らませ、唇を尖らせる。
「せっかく『予測』しても当たらないんじゃ悔しいじゃないですか」
「今の『予測』は当たってたと思うよ。ミキミキも認めてるし」
「きゃはあ」
「私は、正確な『予測』をしたいんです」
レナは、さらに不満そうに言う。
「それが私の役割なんです。ハズレる『予測』をする『予測係』なんて……意味ないです……」
「昔の梨菜ちゃんもそうだったわね」と、仄香も会話に入ってきた。彼女も、柴田がデザインした露出度の高いキラキラ光る『戦闘服』を装備しているが、柴田のゲリラ撮影の回避策として、今はベンチコートで肌を覆い隠している。
拘置所での事件で、オカダイから受けたダメージから完全に回復した……というのは、本人主張であるが、梨菜は、仄香の状態を盛んに気にかけている様子だった。
「梨菜ちゃんの場合も、『予測』がうまくいかないことを気にして、不眠症になったり、精神が不安定になったり、していたわよ」
「会長もですか……」
レナは、信じられないというような目で、梨菜を見つめた。梨菜は、頬を少し赤く染めた。
「それも工程の一つ」と、梨菜が言って、右手の人差し指を立てた。
「そもそも『予測』の精度をどこまで求めるかなんだけど、お互いが干渉し合う状況下では、ハズレる想定もいるってことね。そこを受け入れるか、どうかが工程の最後だよ」
「ハズレたら、『予測』をする意味が……」
「ハズレた場合の対処も考えれば良い。別に事後でも問題ない。ここを忘れたらいけないよ。つまり、目的は当たる『予測』を練り出すことじゃなくて、向かってくる問題を解決することだってことにね。『予測』は手段であり、必ずしも的中させることが求められているわけじゃない」
「レナちゃんの役割はね」と、仄香が梨菜の後に繋げてくる。
「相手メンバーの出場順の『予測』だけど、お互いが『予測』をぶつけてくるから、『干渉ずれ』は免れないわ。だから、気楽に考えてもらって良いのよ。当たっても、ハズレても、私たちが勝つことが大事なんだから」
「今日が初めてなんだから」と、梨菜が、レナの肩に手を添える。
「本当はね、有利香さんとキミの二人体制にしたかったんだけど、この控室の規模では、同一意志を持つ仄香さんと『相殺干渉』が発生するおそれがあるから、やめたんだ。とにかく、『強天使』の『予測係』はキミ一人。キミが『予測』した結果を教えてほしい」
「私の『予測』は……」
レナは、タブレットを撫で、自らの予測結果を表示させた。
①イセラ・サック(女26歳)
②ドゴール(男22歳)
③ワルタ・ウルフ(男46歳)リーダー
④フレア・サック(女23歳)
「的中率は、九十三パーセントだと思います」
「自信無さげでいて、割と自信満々じゃない」と、梨菜はにんまりと笑う。
「こちらは予定どおりに行こう」
スピーカーからベースの旋律。
テーマソングの『Lemon』のイントロが流れ、大型ディスプレーに『強天使』のプロモーション映像が流れる。
グッズ販売を想定した映像で、当然にこれも『強天使』がらみの事業展開の一環である。
「始まるよ」と、梨菜の口元が引き締まる。
第一ピリオドは、レナの『予測』のとおり、イセラ・サックが登場した。
対して、『強天使』の戦闘員は……
「じゃーん」
栗色のマッシュルーム、下が直線の分度器のような目の女子が真上を向き、上が直線の分度器のような口からハート型の『のどちんこ』を見せ、両腕を横にまっすぐに伸ばし、両脚を交差にして、ポーズを決めている。
「美少女イリュージョニスト、ミキミキの登場でーす」
ミキミキはつま先立ちでクルリと右回りに回転して、キリリと停止させる。
「ミキミキを楽しんで下さいね」
風変わりな女子の登場に、会場は大歓声に包まれた。
対戦相手のイセラは、フンと鼻を鳴らし、嘲笑を浮かべていた。




