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レモンティーン  作者: 守山みかん


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23/136

二十三

柴田の両目は、とにかく目一杯開き切っている。

そして、口元は、とにかくだらしなく緩んでる。

彼の目の前では、新しい『戦闘服(バトルスーツ)』を着用した梨菜と三木姉妹がサイズや着心地の確認と、デザインに対する批評を交えながら、楽しそうに騒いでいた。

WGBGワールド・ギフターズ・バトル・グランプリ』用の『戦闘服』は、全身発汗を促進させる趣旨で、露出度が高いデザインとなる傾向がある。

つまり、ビキニ型が最適ということになる。

『強天使』のイメージカラーは、ゴールドとした。

キラキラ輝いている若い女子メンバーには、キラキラ輝く『戦闘服』が似合っている、と発想した柴田によるデザインである。

もちろん、そこには、彼が崇拝する『矢吹パンナ』に着せたい服としての妄想から出てきた趣味の領域が、ふんだんに盛りこまれているのは言うまでもない。

大きめの胸、引きしまった身体、長い脚の梨菜は、体のラインが完全に露出しているにも関わらず、まったく恥じらいを見せることなく、柴田の目の前で、その美しい姿を披露した。

「キツイところとか、ありませんか?」

『戦闘服』の設計開発をアシストした日向 夕子が、はしゃいでいる女子たちに訊ねる。

女子たちは声をそろえて、「大丈夫でーす」と返事した。

「柴田さん、日向さん」と、梨菜は、すぐそばで着用の具合を確認している日向と、だらしない顔になっている柴田の両人に視線を向ける。

「私たちのために、ありがとうございます」

梨菜にお礼を言われて、日向はふんわりとした笑顔になり、柴田の顔がキリリと引きしまる。

「ボクは、アイドルとしての矢吹パンナを創作したいんだ」

柴田が妙ちくりんなことを言い出したので、梨菜の笑顔が苦笑に変わる。

「その『戦闘服』はね、新開発した合成生地でできてるんだ。装着者の体内に、特殊なイオンが放出されて……まあ、面倒な説明はいいか……要するに、『蓄積型(アキュムレイティブ)』ほどではないけど、『ME(マジック・アイ)』の吸着性が高まる状態になるってことだよ……いやいや、そんな仕掛けが無くたって、パンナさんは、きっと優勝して、最強の天使に君臨する……」

「胸まわりが少しキツそうですけど、本当に大丈夫ですか?」

悦に浸りながら話し続ける柴田をよそに、日向が梨菜を様々な角度から確認しながら、最終調整の問いかけをする。

「柴田部長ったら、最初はヒモみたいなデザインにしようとしてたんですよ。肌に食いこんで、着心地が悪くなるって注意したら、このデザインになったんです。それでも、かなり細いですよね」

「……パンナさんこそ、最高の美の化身であり……」

「割と余裕があります」と、梨菜は脇の下あたりを通うベルト部分に人差し指と中指を差しこんで見せる。

「『3Dスキャナー』でしたっけ、体形を正確に測っていただきましたから、本当にピッタリしてて、最高の着心地です」

「良かった。縫製は、私が担当したんですよ。できるだけ測量結果との誤差が出ない縫製マシンを自作して、できたのがこれなんです。真樹さんと美樹さんのも同じマシンで作りました」

「……このスーツには、ボクのパンナさんに対する想いが目一杯つまって……」

「生地さえあれば、たいていの服が作れますよ。裁断も、裁縫も、プロセスを全部自動化したんです」

「日向さんってスゴイですね。そういう機械を自作しちゃうなんて」

「……覚えてますか。ボクとパンナさんが初めて出会った日のこと……」

「私、以前は背中と左腕に『彫り物(タトゥー)』があったんです」

「その話は聞いてます。梨菜さんもツライ時期があったんですね」

「でも、美園会長のおかげで、キレイな体になれたんです」

「良かったですね。私も、美園会長に認められて、研究部でのびのびと仕事ができるようになったんです」

「……あの劇的な出会いがあったからこそ、このボクも岡産業に入社し……」

「美園会長の容態は、どうですか?」

「秘書の桃ちゃんの話だと、意識は戻って、会話ができるくらいまで回復したそうです」

「良かったです。お見舞いに行けそうですか?」

「たぶん大丈夫だと思います。今度、桃ちゃんとお見舞いに行くつもりなんですが、梨菜さんも一緒にということで伝えておきます」

「ぜひ、お願いします」

「……そして、パンナさんが『WGBG』に参加するという展開に、ボクも一肌脱がないわけにはいかないと思い……」

「シューズの履き心地はどうですか? こちらは、構造的に私の手に負えなくて、外部業者に製造委託してしまったんですが……」

「すごく良いですよ。違和感も無いし、まるで自分の足の一部みたいです」

「私も」と、三木姉妹も会話に割りこんできた。

「天使様と同じデザインで、とてもうれしいことよ」

「きゃはあ」

「……パンナさんの体に完璧にフィットした『戦闘服』を完成させるために……」

「バトル向けの武器も製造を進めています。今日用意できなかったのは残念ですが、来週くらいには、何とか」

「ありがとうございます。どんなのができてくるのか、楽しみです」

「一応、皆さんの要望どおりのモノができてくる予定です。梨菜さんが長剣、真樹さんがククリナイフ、美樹さんがスピンボール」

「私の強さを味わうことよ」

「きゃはあ」

「……とまあ、こんな経緯で、このボクが完璧なデザインを……」

「美園会長が元気になったら、桃ちゃんとこの女子メンバーだけで快気祝いをしましょうよ。せっかく同じ会社にいるんだし、結束力を強化する意味でも」

「ぜひ、やりましょう!」

「良くってよ」

「きゃはあ」

「……ということなのです。パンナさん、ボクの想い、伝わったでしょうか」

「はい、よくわかりました」と、梨菜は快活に返事した。

「私もです」

「きゃはあ」

三木姉妹も、柴田に向けて、二人同時にペコリとお辞儀した。

「うう……やったぞ……やったぞ……パンナさんに喜んでもらえた……生きてて良かった……」

柴田の両目から涙があふれていた。

「柴田部長、良かったですね」

日向は、ニッコリと微笑んだ。彼女の笑顔もまた、天使のように輝いていた。


* * *


「妙だ……」と、新谷 紅はつぶやく。

B国にある彼の事務所にて。

革製の一人掛けソファーに腰を埋め、向かいに座る人物に対して責めるような視線を投げている。

「なぜ『強天使』は、動きを止めないんだ」

「私は、やるだけやったわよ」

対面で応じたのはオカダイだった。

「十分程度の時間しかなかった中でね。ああ」

オカダイは、うっとりした目で(くう)を見つめる。

「もっと時間がほしかったわ」

「私は、アネさんを殺してくるよう依頼したはずだが」

新谷は、冷たく言い放つ。

「私欲優先で、後で大きなリスクを生まなきゃいいがな」

「相変わらずカタイわね」

オカダイは鼻で笑う。

「相当の手負いのはずよ。私の用が済んだ後に、メッタメタにぶちのめしたから、少なくとも『戦闘』には出られないわ」

「だが、『強天使』は出場を取り止めていない」

新谷は語気を強める。

「『強天使』は脅威だ。四人の戦闘員のうち、唯一と言える弱点がアネさんだった」

「だから、そこを潰したんじゃない」

オカダイは、ドヤ顔で言い返す。

「四人目が不在の『強天使』よ。その内、参加を取り下げるわよ」

「三人目までに勝ちを決めれば、四人目のメンバーは強弱を問わない」

「『幻影(フィギュア)』を送りこんでくると言うの?」

「『意志』の強さが検査による規定値を超えなければ参加資格はない。ましてや『意志』を持たない『幻影』は論外だ。それは無い」

「何にしても、『強天使』を負かすだけの戦力を用意しないとね」

「対策は準備してある。あくまでも目標の一つだが、賞金が魅力だからな」

「私は、家族も、国も捨てて、ここへ来てるのよ。これから生きていく道筋を用意してもらわないとね」

「他力本願のようだが、道筋ができるかどうかは、キミの活躍にもかかっている」

「あの羽蕗 梨菜を攻略しないと、賞金なんて、とてもムリよ」

「……手強いムスメだ。だが、対策はある」

「あの女子のせいで、私は追放されたのよ。仕返ししてやりたいわ」

「そもそも、羽蕗 梨菜の今の状態を生み出したのは、キミのこれまでの振る舞いのせいではないのかな。私には、自業自得にしか見えないが」

「うるさい!」

オカダイは、鼻の上に止まったハエを追い払いでもするように、唇を激しく動かした。

新谷は、視線が目の前のオカダイではない別の位置に向けられ、焦点が合っているのか、合っていないのかわからない目をしていた。


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