十七
第1回戦は、『永久凍土チーム』と、『春夏秋冬チーム』となっている。
「本日は、開催2日目の決勝戦。昨日の予選で勝ち残った六チームとシード、ゲスト各一チームによる勝ち抜き戦です」と、ゴースワンは説明する。
「第1回戦の『永久凍土チーム』は、マギーレイン率いるR国からのゲスト参加です。WGBG開催に先駆けてのプレ参加ということになります」
《第1ピリオド》
永久凍土
→ラスカー・タム(男28歳)
春夏秋冬
→フレア・サック(女23歳)
「対戦に男女区別は設けておりません。あと、年齢制限もありません。力量に差が無いからです」
各選手の名前が進行役によって声高々に名乗られ、両選手が東西に繋がっている接続室からドーム内に入場する様子が大型ディスプレーに映し出される。
観客席は、ほぼ満席状態で、大勢の歓客で盛り上がっているようだが、防音設備が完璧な個室内では、それらの騒音は届かず、まるで居間で映画でも観ているような雰囲気である。
「ピリオドは、2ラウンド制で、各ラウンドの制限時間は2分間です。ラウンド中に、直径20メートルのバトル・サークルから相手を外に出した場合、またはフィールドに相手の肩、背中、腰、膝を着けた場合に勝ちが決定します」
第1ピリオド開始のホイッスルが鳴り響く。
「始まるようです。観戦しましょう」と言って、ゴースワンは口を閉じる。
ラスカー・タムは、両手を前に出し、腰を引いた構えをする。
全身が筋肉で被われた頑丈そうな男子だが、顔つきは、イケメンのアイドルグループのような優しい顔をしている。
武器は持っておらず、格闘で挑む模様。
すでに両手は『ME』を『臨界』させ、光り輝いている。
対して、フレア・サックは、黒髪をショートボブにした小柄の体格で、顔つきは、『パルプ・フィクション』に出てきたユマ・サーマンに、ちょっと似ている。
フレアは、『筆』をラスカーに向け、いきなり『光弾』を発射する。
ラスカーは、左手側からの『爆発』により、向かってくる『光弾』を跳ね返すと、猛然とフレアに向かって、突進する。
フレアは、さらにラスカーの眉間に向けて、『光弾』を発射する。
ラスカーの右手が『光弾』を包み込むように動き、『爆発』を繰り出す。
前方に向かう衝撃波により、フレアの身体を大きく後方に吹き飛ばす。
フレアは、為す術もなく、バトル・サークルを囲う水槽に着水する。
「バトル・サークル外には、ご覧のように水が張られています。つまり、濡れれば負けです。接続室からサークルに掛かる長さ3メートルの『橋』に触れても、同様の判定となります。ちなみに、勝敗の判定および評価は、全て人工知能による『審判システム』が行います」
「審判結果に対する不服申し立ては、できるのですか?」と、貴代子が訊ねる。
それに対して、ゴースワンは、「できません」と、すげなく答える。
「『審判システム』の判定に従う旨に誓約していただくことが、『GBG』の参加要件となっています」
「……」
貴代子は、何も言葉を返さなかった。
ゴースワンは、優しげに微笑んだ。
「誤審は、今までありませんでした。人間よりも公正で、正確だと評価されています」
ホイッスルが鳴り響き、ラスカー・タムの両腕が上がった。
「第1ピリオドの勝敗が決しました。これで『永久凍土チーム』に勝ち点が1点入ったわけです。『意志』の差が如実に表れた対戦でしたね。ところで、こんなアイテムがあるのですが」
ゴースワンは、ジャケットのポケットから、丸い輪のようなモノを取り出した。
輪の一部が銀色のグリップになっていて、小さな液晶画面が付いている。
一見して、握力か体脂肪の測定器のように見える。
「これは『意志』の強さを数値化できる測定器で『ビスケータ』と呼ばれています。精度については、まだ改良の余地がありますが、けっこう楽しめますよ」
ゴースワンは、測定開始の緑色に光るボタンを押し、銀色部分を握りしめる。
すると、ビープ音が三回鳴った後に、液晶画面に『87』と表示された。
「私も『擬似権限者』でしてね。自慢できる数値ではありませんが、『意志』が検出されました。数値が高いほど、『意志』が強いというわけです。皆さんも試してみますか?」
一同は、ためらいがちにお互いの顔を見合わせたが、まずは、ミキミキが手に取ってみた。
「やり方は簡単です。その緑色のボタンを押したら、画面にカウントダウンが始まりますから、ゼロになったら握りしめて下さい」
「きゃはあ……」
ミキミキは、両目を真ん中に寄せながら、『ビスケータ』を握りしめる。
ビープ音が三回。
表示された数値を確認すると『783』と出ていた。
ゴースワンは、目を丸くして、「……スゴイ……」とつぶやいた。
「きゃはあ、協会長すわんより、大きな数字が出たのですわん」
ミキミキがはしゃぐ。
「いもうと、私にも貸すことよ」
真樹がミキミキから『ビスケータ』を取り上げ、同じように測定を始める。
数値は『769』と出た。
「きゃはあ、マキねに勝ったのですわん」
「ウソだぁ。もう一回……」
真樹は、悔しそうにしながら、再チャレンジする。
今度は、『802』だった。
「本気出せば、こんな感じのことよ」
真樹の鼻がツンと上を向く。
またもや、ミキミキが試してみて、『803』が表示され、大騒ぎが始まった。
「精度が今一のようですね」と、梨菜はクスクス笑う。
「しかし、『GBG』選手の平均が『250』から『300』ですからね。コンスタントに、このような数値が出てくるとは……いや、驚きました」
「天使様も、やってみることよ」と、真樹が梨菜に『ビスケータ』を突きつける。
「きゃはあ、会長すわんの力をみたいのですわん」
「私は、やらない」と、梨菜は、あっさりと拒否する。
「私も、ぜひ拝見したいですな」
ゴースワンも、興味津々と両肩が上がる。
「第2ピリオドの対戦が発表されましたよ」
貴代子の知らせで、一同の注目が、ディスプレーに集まる。
《第2ピリオド》
永久凍土
→パーシャ・ミシュレ(女21歳)
春夏秋冬
→ドゴール(男22歳)
「『永久凍土』のパーシャは無名ですが、第1ピリオドのラスカー・タムの一戦を見ると、侮れない存在です。ドゴールは、個人ランキングで30位内に入る強者です。先ほどのフレア・サックも、決して下位の選手ではないのですが、あっさりと敗れてしまいました。『WGBG』に対するマギーレインの本気度合いがうかがえますな」
各選手が入場する。
パーシャは、長身で筋肉質のガッチリとした体格で、キラキラした金髪の美しい女子。
ドゴールは、2メートル超えの大男で、全身筋肉の、犬飼 武志に似た雰囲気の男。
かなり重量がありそうな鉄製の太い棍棒を抱えている。
「さて、バトル・ルールについて、もう少し、お話しましょう」と、ゴースワンが語り始める。
「ピリオドは2ラウンド制と説明しましたが、ラウンド間に1分間の休憩が入ります。バトル・ポイントについては、相手に転倒には至らないが肉体的なダメージを与えた時、あと相手が『時間稼ぎ』などの反則行為をした時に加点されます。2ラウンド内に決着しなかった場合は、このバトル・ポイントの高い選手が勝ちとなります」
第2ピリオド開始のホイッスルが響く。
ドゴールは、太い棍棒を両手で持ち、流れ出る汗を全体に行き渡らせて、直ちに『臨界状態』にする。
対して、パーシャは、両手を斜めに上げ、左足を膝あたりまで垂直に上げる。
その構えは、まるで、羽を広げた丹頂鶴のように見える。
彼女が着ているのは、ビキニ型の簡素な戦闘服で、肌の露出が多い。
先のラスカー・タムも露出が多く、『永久凍土』は、格闘中心のチーム構成のようである。
全身からの発汗による輝きに包まれ、彼女もまた『臨界状態』となる。
ドゴールは、光る棍棒を肩より上まで振り上げ、パーシャに向かって猛進する。
パーシャは、構えたまま動かない。
勢いに乗せてドゴールの棍棒が、パーシャを打ち砕くように振り下ろされる。
パーシャの左足がまっすぐに伸び、足の裏でドゴールの棍棒を受け止める。
「普通の人間なら、足が粉々になりますよ」と、ゴースワンは言って、息を飲む。
ドゴールは、そのまま棍棒を振り抜こうとするが、前に進むことはできず、硬直した状態となる。
パーシャがニヤリと笑い、がら空きになっているドゴールの右脇腹に向けて、右の拳による突きを繰り出す。
ドゴールは、とっさに腰をくねらせて、突きを交わそうとするが、パーシャの拳は容赦なくドゴールの腰に触れ、『爆発』による衝撃を受ける。
ドゴールの巨体が揺らぎ、そのまま背後に倒れて、フィールドに背中が着く。
ホイッスルが鳴り、パーシャ側に拍手が沸き立つ。
「ドゴールの攻撃をまともに受けた選手を初めて見ました。やはり、世界が相手だと、国内リーグは、まだまだ井の中の蛙です。これで、『永久凍土』の勝ち点は、2点となりました。さあ、次の第3ピリオドは、リーダー戦になると思いますよ」
ゴースワンに促されたように、第3ピリオドの対戦がディスプレーに表示された。
《第3ピリオド》
永久凍土
→アンナ・リリーホワイト(女18歳)リーダー
春夏秋冬
→ワルタ・ウルフ(男46歳)リーダー
「アンナ・リリーホワイト……」と、梨菜は、その名をつぶやき、唾を飲みこむ。
「松川さん、この名前……」
「ええ……私も、ホノちゃんから聴いてるわ」
貴代子も、何度も唾を飲みこみながら、答える。
「『予言』に登場する四人の名前の一人ね……」




