百十四
先制攻撃は、ダイヤモンドによる上段からの切りこみだった。
狙いは、梨菜の額の中心。
薪のように左右真っ二つに割ってやろうという勢いで大剣を振りおろしたが、梨菜は左側にあっさりと避けた。
ダイヤモンドが床に大剣を叩きつけ、両腕が下向きにまっすぐ伸びているところへ、今度は梨菜が剣を振りおろす。
ダイヤモンドは、剣刃が肌に接触するタイミングで硬化を作動させて防御し、瞬時の『治癒』によって跡形も無く回復させる。
ただし、AI審査によるダメージ認定はAを評価した。
そこへルビーが拳鍔を装着した右拳を、梨菜の眉間のあたりに撃ちこんでくる。
すかさず、段がルビーの右腕を右脚の蹴りで受け止め、さらにルビーの体ごと梨菜から引き離そうと蹴りを振り抜く。
ルビーは、すぐに背後に飛び退き、段のキックの軌跡から外れる。
右脚をスイングさせた影響で、段の身体バランスに乱れが生じるのを見極め、サファイアが落雷攻撃を仕掛けてくるが、それは香子が施した『糸状防御』がタコの足のように段の頭上を覆い、完璧にガードした。
アドは、敵側のガードを崩そうと、エメラルドに向けて落雷を起こした。
エメラルドは、自らにバリアを張り、難なくガードした。
ここまでが、各選手たちの1フェーズの戦闘内容だった。
各選手は、スタートポジションに戻り、再度フォーメーションを形成して、2フェーズ目に備えた。
「あのダイヤモンドの振り、避けて正解やったな。あんなん、まともに剣で受けたらエラいことになっとるで」
「『ビスケータ』は、10万を超えていました」
「測っとったんか」
梨菜は左上腕を、段は右上腕をぴったりと密着させ、敵陣をにらみつけながら、内密にMEを通わせ、次のフェーズを検討した。
《おそらく、私たちが取りうる行動パターンの全てに対策プロセスが用意されています》
《でも、ボスがダメージ与えたで。あれも想定内か》
《自分たちが受けるダメージなど気にしていないと思います。私たち全員を抹消することしか考えていないでしょうから》
《抹消………ウチらは、存在もさせてもらえんのか》
《自分たちと私たちを置き換えるのが目的ですから》
《次どないする》
《様子を見ましょう》
ダイヤモンドの大振りが再び梨菜を襲う。
梨菜は、今度は左側に避け、前フェーズと同様にダイヤモンドの両腕に向けて、剣を振り下ろした。
ダイヤモンドは、やはり同様に皮膚の硬化で、梨菜の攻撃を凌ぐ。
ルビーは、先ほどと左右は違うが、全く同じ攻撃を梨菜に仕掛けてくる。
段が、今度は左脚の蹴りで阻止しようとし、ルビーを引き離す。
後衛部隊では、サファイアが今度はアドに向けて落雷を仕掛けるが、香子が防御する。
アドは、梨菜から離れた直後のルビーを狙い、エメラルドが阻止する。
2フレーズ目が終了。
成果は同様、ダイヤモンドに与えたダメージAで、『強天使』のバトルポイントは2点となった。
《展開、あんまり変わらんかったな》
《微妙に攻撃対象が違ったくらいですね》
《次どないする》
《もう少し様子を見ましょう》
結局、ダイヤモンドの大振りで始まって、アドの落雷で終わる展開を2回繰り返した。
《同じの繰り返しやな》
密着会話で段が嘆く。
《ポイントが稼げるのはエエけど、このまま終われるとは思えんわ》
《どこかで変化があるはずです》
《何の意味があるんやろか》
《変化があった時の対応が重要です》
《何が起きようと、ウチはどうということ無いで》
《こちらには、変化対応の鈍い人材が一人います》
段はハッとして、後方をチラリと見た。
《……香子はんか……》
《適切に応戦できれば、何の問題もありませんが、繰り返しに慣らされた思いこみで防御対応が遅れたら、守るべき対象が致命的なダメージを受けます》
《敵の攻撃は、どれもキツそうやからな》
《葉島さんの立場ならば、防御を任されたのに失敗した時の精神的な落ちこみは激しく、その動揺によって、一度に2人を失うことになります》
《ウチらのことをよう調べとる。油断できんな》
5フェーズ目、ダイヤモンドの大振り攻撃が始まった。
このフェーズも同じ繰り返しとなり、全員が機械的な動作で役割をこなした。
《私に作戦があります》と、梨菜。
《何とか後衛の二人にも伝えたいのですが》
《アドへはウチが対応できるけど、香子はんへはキビしいな》
《ちょっと荒っぽい方法ですが、私がやります》
《わかった。さっそく作戦の内容を教えてや》
次のフェイズも、ダイヤモンドの大振りから始まったが、梨菜は敵の腕ではなく、大剣に向けて攻撃を仕掛けた。
梨菜の刃は、ダイヤモンドのME製の武器を削り、その破片は『光弾』となって、香子の方へ勢いよく飛んだ。
チーム員への攻撃阻止ばかりを意識していた香子は、自分への攻撃は想定していなかった。
サファイアによる段への落雷攻撃は阻止できたが、自分に飛んできた『光弾』は避けきれず、左肩に着弾し、小さく爆発した。
ダメージ認定はB。
梨菜の行動由来であるため、まさかのオウンダメージに、会場は騒然となった。
「ふふふ」
と、宋 鵬はほくそ笑んだ。
「羽蕗 梨菜が、たった今、ミスをしたぞ。平静を保っているように見えても、やはり動揺を隠せていない、と見た」
パーヴェル・シュトキンは、注意深く宋の行動を眺めていた。
(今、得ているのは視覚情報だろう。闘技場内にいる誰かの視界だ)
パーヴェルの右拳に力が入る。




