百十三
《決勝リーグ・第3回戦・第2ピリオド》
強天使(ウルムスリーグ優勝チーム)
→矢吹パンナ(女18歳)
→段 深緑(女19歳)
→アド・ブル(女19歳)
→キュア凶子(女30歳)
姫檜扇水仙(テルミナリアリーグ優勝チーム)
→ダイヤモンド(女18歳)
→ルビー(女18歳)
→エメラルド(女18歳)
→サファイア(女18歳)
「よろしくお願いします」
『強天使』側から元気な声がドーム内に響き、多くの観客は中継画面越しに拍手を送った。
対して『姫檜扇水仙』側は静かな入場で、どんよりと重苦しい雰囲気に包まれていた。
ところ変わって、オーナー向けの観覧席ロイヤルルームにて。
松川 貴代子は、同室に招いた仏頂面の水野 佳人に視線を向けては、何度もプッと吹き出していた。
「今ので4回目です。キヨさん」
水野は下唇を前に出し、まるで駄々をこねる子供のような顔をした。
「だって、こんなにウケる状況で、笑うなって方が無理よ」
喜代子は、容赦なくケラケラ笑った。
「ああ、もう結構ですよ。ボクはピエロ。どんどん笑って下さい」
水野は言って、ソファに埋もれるくらい大きくふんぞり返った。
WGBGにおける犯罪取締は、対象が強暴な『権限者』であることを鑑み、派閥主義が顕著な国際警察刑事機構には任せず、各国から熟練の『権限者』を収集し、マトリクス的に構成された特別組織が担うこととされている。
組織名は、『国際権限者取締機構』、通称IGGO。
水野が、その局長を兼務していた。
「ボクは、羽蕗さんに何でも任せっきりにしているのがイヤなんです。元々、WGBG出場にも反対でしたから」
「ヨっちゃんは、梨菜ちゃんの育ての親でしょ。今の梨菜ちゃんの状況は、あなたがきっかけになり、導いたことでもあるのよ。それに、子が親に従わないのは、よくあることよ」
水野は、フウと小さくため息をもらした。
「真っ暗な中で、苦しそうにうずくまっていた羽蕗さんに声をかけたのが、彼女との出会いでした。まだ、4年くらいしか経っていないんですよね。あの頃の羽蕗さんはか細くて、力を入れ過ぎたら折れてしまいそうな感じでした。今の姿からは信じられなくなりましたね。
………できれば、彼女に協力したかったんです。ダイヤモンドは、人間らしい思想を持たない非人です。殺戮マシンと言っても良い」
「非人か………ルチルの戦いぶりでは、人間らしい側面も見えてたんだけどね。宋 鵬は、得体の知れないモノを作り上げたわね」
「そんな得体の知れないモノに、一人で立ち向かわせたくなかったんですけどね」
そこで、またもや喜代子がプッと吹き出した。
「5回目」と、消えかけていた水野の仏頂面が戻ってきた。
「梨菜ちゃんを制御しようなんて無駄、無駄。みんなわかってるのに、ヨっちゃんだけがわかっていない。今のヨっちゃんを、ホノちゃんにも見せたいわ」
水野はムウと唸り声を上げ、それっきり黙りこんでしまった。
闘技開始のホイッスルは、すでに鳴り響いた後で、サファイアがMEを固体化、エメラルドが武器を創成、ダイヤモンドとルビーが前衛を担うという、第1ピリオドと同様の展開から始まった。
想定していた展開に対して、梨菜たちも指を加えて見過ごすはずがなく、アドが雷玉を打ち上げ、創成組の2人に落雷を仕掛けようとする。
打ち上げてから最短で3秒程度で落雷できるが、ルビーがアドに向けて発射した『おべっか』レベルの阻止弾を払いのけるために、落雷が2秒遅れた。
サファイアがエメラルドに固体化した大量のMEを手渡すのに3秒、その後、すぐに頭上に防御壁を張り、落雷によるダメージを回避した。
エメラルドがダイヤモンドとルビー用の武器を造形し、二人に手渡すのに3秒。
ダイヤモンドは長剣を正面に構え、ルビーは拳鍔を装着し、『強天使』の面々と向き合うまで、闘技開始7秒で完了させた。
「意外とチームワークになっとるやんけ」
梨菜と並んで前衛に位置する段が感想を述べた。
「いいえ」と、梨菜はそれを否定した。
「決まりきった初動手続を行っただけです。チームワークの良し悪しを評価できるものではありません」
「ウチらに攻撃も仕掛けてきおった。敵ながらセンスの良い『予測』やったと思うで」
「それは同感です」
梨菜は言うと、ニヤリと笑みを見せた。
「そつの無い合理的な初動プログラムだったと思いますが、この後、想定できない展開が連続してもなお、あのそつの無さが維持できるかは疑問です。みんなで協力して、本当のチームワークを見せつけてやりましょう」
一同は「はい」と返事をした。
香子は、梨菜との確執に悩まされ続けていたが、ここで挽回せんと気合が入っていた。
そこへ梨菜から「葉島さん」と声がかかり、思わず背筋が伸びた。
「これから、私と段さんで強気の攻撃に出ます。防御をお願いします」
梨菜の指示を受け、全身に震えが起きた。
「はい、頑張ります」
一際大きな声が梨菜に届いた。
香子の左頬を一筋の涙が流れ落ちた。




