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レモンティーン  作者: 守山みかん


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111/137

百十一

御神(MIKAMI)という名札を胸に掲げている女性が、闘技場に入場し、すぐさま梨菜に近づいていく。

彼女は、IMEA加盟各社から派遣された運営委員会のメンバーの一人で、所属は岡産業株式会社総務部、役付けは次長である。

姓名に由来して、『マザーゴッド』のニックネームが付いているが、年齢は28歳の独身。法学系の高度な専門知識と厳しい倫理観の持ち主で、きりりとした細い眼と固く結んだ唇からも、その内面の厳格さが表れていた。

だが、梨菜のそばまで来ると、その厳格さに緩みが生じ、柔和な表情が浮かび上がった。

「羽蕗社長、大丈夫ですか?」

「御神さん、大会運営のご対応お疲れ様です」

梨菜は、御神に向かって、ぺこりとお辞儀した。他の『強天使』メンバーもそれに(なら)った。

「あれがすぐに拘束されないのは」

御神は、梨菜に向けた視線とは明らかに異なる敵意に満ちた鋭い視線でダイヤモンド(Diamond)(The) ノナ(Nona)を一瞬だけにらみ、すぐに柔和な表情に戻して、梨菜を見つめた。

「闘技場内では、委員会と司法官庁とで締結済の大会協定に基づく、選手に対する不逮捕特権が発動しているからです」

「なるほどな」と、そばで話を聞いていた段がうなずいた。

「そやかて、殺人の現行犯やからな。警察が放っておくわけないわ」

「水野警視監が、大勢の手()れの『権限者(ギフター)』たちを集結させて、闘技場出口に待機しています。そして、WGBGの継続判断に関してですが」

そこで、御神は、ふぅと小さなため息を挟み、話を続けた。

「破壊されたのが『姫檜扇水仙クロコスミア』側の控室のみで、第2ピリオドの参加メンバーが全員存在していますので、状況的に闘技の継続は可能と思われます。ですが、継続するか否かの判断は、参加チームに委ねるそうです。ただし、『姫檜扇水仙』は、加害側であるため、その協議権を失いました。つまり、継続の可否は、『強天使』だけで判断できます」

「……」

梨菜は、無言で御神の話に耳を傾けていた。

「羽蕗社長が、継続しないことをご判断したら、ダイヤモンドへの不逮捕特権はただちに解かれ、この闘技場内に水野警視監たちの部隊が押し入り、取り押さえられるでしょう」

「ダイヤモンドが、大人しく捕まるとは思えんな」

と、段が言った。

「きっと、思いきり抵抗してくるやろな」

「段さんは、ダイヤモンドをご存知ですか?」

御神が段の方に視線を向けた。

「ウチが『紅芙蓉(ルブラ)』にいた頃の話やな。同じC国でも、『姫檜扇水仙』のメンバーとの交流は、ほとんどあらへんかった。同僚意識が薄かったどころか、人間扱いもされてへんようやった。みんな同じ顔して、無表情で、気味悪かったしな」

「『姫檜扇水仙』には、段さんと同じ名前のメンバーがいます。『意志』の合成プロセスで、段さんの遺伝子情報の提供とか、何か協力されてますか?」

御神の問いかけに対して、段は瞬間的に記憶を手繰り寄せてから、こう答えた。

「ルビーのことやな。ウチに覚えは無いし、口も聞いたことない……ウチの弟妹(きょうだい)たちのことは知らんけど……」

そこで、しばしの沈黙。段は、レナに声をかけられ、会話から離れていった。

「羽蕗社長、闘技継続のご判断、いかがなさいますか? 委員会は、中断を推奨していますが」

「闘技中断になれば、ダイヤモンドさんは、すぐに逮捕される、ということですね」

「そのとおりです。段さんが言うように、激しく抵抗してくる可能性はあります。ですが、水野警視監ら精鋭部隊が加わって対処できます。私も中断された方が良いと、委員会と同意見です」

梨菜は、ダイヤモンドの方に視線を向けた。梨菜の視線に気づいたダイヤモンドは、無表情こそ変えていないが、身構えたように、両拳に少しだけ力をこめて握りしめた。

梨菜は、再び御神と向き合い、こう答えた。

「闘技は継続します。ダイヤモンドさんたちの闘志は、拘束で抑えきれるものではないでしょう」

「おっしゃるとおりだと思います。ですが、『強天使』だけで問題を抱えることでもありません。警察の力を借りれば、事態収束の難易度は下がります」

「ダイヤモンドさんには」

と、梨菜はもう一度、ダイヤモンドに視線を向けた。

「屈辱と敗北感が効果的です。WGBGで私に敗ける経験がなければ、無限に抵抗を繰り返すでしょう。ダイヤモンドさんの心に、私に対する心的外傷(トラウマ)をしっかりと刻みこんでやるのです」

梨菜の瞳の奥に、悪意のある鋭利な輝きが見いだせた瞬間、御神の背筋の下から上に向かって、冷たい感触が走り去った。

「そうすれば、ダイヤモンドさんも大人しくなるでしょう?」

梨菜は、優艶に笑った。

非情さを含んだ意思を露見させながらも、天使のような笑顔を見せる梨菜に、御神は恐怖心を抱きつつも、にわかに魅了されていく自らに歯止めをかけることはできなくなっていた。

「ですから、闘技は継続でお願いします」

梨菜は、改めて御神に向かって、ぺこりとお辞儀した。

たしか、C国は、梨菜の婚約者(フィアンセ)である岡常務を誘拐し、心理的不安を起こさせる弱化をたくらんでいたはずなのだが……

今の梨菜には、弱化の効果らしき様相が微塵も見られなかった。

「承知しました、羽蕗社長」

御神も、梨菜に向かってお辞儀をし、そそくさと闘技場内から去っていった。

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