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レモンティーン  作者: 守山みかん


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110/137

百十

(そう) (ほう)は、右手の親指と人差し指で下顎を撫でながら、(おか) (まさし)の正面のソファに腰を落とした。

二人の視線は、まっすぐに相手の目を捕らえていた。

「『不老不死』の権限か……」

まず、宋が小さなため息を混じえながら言った。

「それは、まさしく我々が手に入れたい重要な権限だ。WGBGという手段を用いて、こうしてヒト騒ぎを起こしている状況も、その権限を手に入れたいがためなのだよ」

将は、無言で宋の話に耳を傾けていた。

あとのメンバーは、二人を囲むように立ち、見守っていた。

「言い換えれば、『不老不死』が手に入るならば、こんな回りくどいやり方など、今すぐにでもやめてしまって良いと思っている。だが、ボクの立場では、その実現が(かな)うには、相当困難であることも認識している」

そこで、宋は言葉を切り、じっと将を見つめた。

将は、ただ愚直に、宋の目を見つめるばかりだった。

「つまり、我々には、今まさに動かしている交渉術に頼るしか選択肢が無いことを、キミには理解していただきたい」

「宋閣下」と、ラスカー(Lasker)タム(Tam)が口を開いた。

「いかにも、現行動を正当化したい主張に聞こえるが、『軟禁』という倫理から外れた手段を用いての交渉が、公正であると評価されることはない、と改めて伝えておきたい」

「キミの言うとおりだ。ボク自身も、ボクの、この倫理から外れた行動に、正当性が認められることを期待していない」

宋は、毅然と言い返した。

「この行為に関するお(とが)めなら、この後に謹んで受けようじゃないか」

「交渉の効果は期待できないと思います」

今度は、将が言った。

「先ほども申し上げましたが……」

「『不老不死』であるからには、キミは死なないし、人質としての効果は薄い。キミはそう言いたいのだろうが、ボクには、羽蕗(はぶき) 梨菜(りな)は、かなり動揺しているという情報が届いている」

「かなり現場に近い情報だな。それは、つまり、『強天使』チーム内に情報提供者がいる、ということか?」

すかさずパーヴェル(Pavel)シュトキン(Syutkin)が追求を試みる。

宋は、パーヴェルの問いに対して、全く無反応で、まばたきですら動揺を見せなかった。

「キミは、『生来個体ヴァージン・ガジェット』だろ?」

宋の問いに対して、将も無反応で返した。

彼の場合は、戦略的な行動ではなく、宋が口にした趣旨を理解できず、返答(レスポンス)に困っていた、というのが、正直な状態だった。

「羽蕗 梨菜は、すでに『生来個体』を失い、意志を転送させた『疑似個体(インダストリアル)』として生き続けている。おそらく『生来個体』に対するこだわりは、相当強いのではないかというのが、ボクの見解だ。つまり、キミが『生来個体』を失ってしまうかもしれない危機を恐れているのだよ」

「『生来個体』であろうと、『疑似個体』であろうと、羽蕗さんは羽蕗さん。何ら変わりはありませんよ」

将は、すかさず反論するが、宋の不敵な笑みは消えなかった。

「はたして、そうだろうか。羽蕗 梨菜の今の動揺は、キミの『生来個体』を心配してのことであるならば、ボクのこの交渉術は、一定の成果をあげているということになる」

「たとえ、今は動揺していても、そんなのは気持ちを切り替えられるかどうか、割り切れるかどうかの問題じゃないですか。大した問題じゃありません。羽蕗さんは、本番に強いヒトです。交渉は失敗に終わります」

「キミは若いのに、なかなかどうして、大した度胸の持ち主だね」

宋は、感心した顔で、将を見つめた。

「ボクは、キミのような優秀な若者を尊重したい主義なんだよ。ここにいる(リュウ) 梓朗(ズゥラン)も優秀で、エイシード社の責任者(CEO)を任せている。今回の交渉術では、キミに乱暴を働いたことを深くお詫びしたいと思う。

さっきも伝えたけど、キミの身体の無事は、必ず保障するよ。今は、このボクのわがままを許してほしい。ボクには、選択肢がこれしかないんだ。こう見えてもね、かなり必死なんだよ」

「仮にWGBGで『強天使』に勝利できたとして」

抑揚のない口調で、ヴィタリー(Vitaly)コロソフ(Kolosov)が会話に加わった。

「宋閣下、あなたの目的が達成できるのですか?」

「ボクの目的について、キミたちがどの程度まで理解しているのか計り知れないが」

宋は、穏やかな口調でヴィタリーに返した。

「この際、秘密にしておく必要はもう無いだろうから、正直にすべてを話しておこう

ボクの目的は、『檸檬の天使たち(レモンティーン)』を全て『姫檜扇水仙クロコスミア』のメンバーたちに置き換えることだ。

『ル・ゼ・ジャセルの予言書』に記されているのは、長期予測が可能なシステムに関する計算技術(アルゴリズム)と短い詩、そして四人の少女の名前だ。四人は名前だけで、固有の存在を特徴づける説明は何も無い。つまり、名前さえ一致すれば、任意の人物を『檸檬の天使たち』に仕立てあげることが可能である、と考えている」

「名前の一致だと?」

ラスカーが眉をしかめた。

宋は、ニヤリと笑みを見せた。

「第2ピリオドに出場する

ダイヤモンド(Diamond)(The) ノナ(Nona)

エメラルド(Emerald)(The) ウンデカ(undeca)

ルビー(Ruby)(The) デカ(deca)

サファイア(Sapphire)(The) ヘキサ(Hexa)

この4人には、『(リアリティ)』を与えてある。

それぞれの氏名は、『檸檬の天使たち』と同じだ。

ちなみに、ダイヤモンドの本名は『羽蕗 梨菜』だよ」

将の顔色が真っ青になり、今にも気を失いそうになった。

すかさず、ラスカーが将の背後に回り、両肩をささえた。

「本人との置き換えか……それは『強天使』のメンバーを抹殺するということか?」

ラスカーの問いに対して、宋は唇をへの字に曲げた。

「『不老不死』の権限が与えられているのなら、彼女たちを殺すのは不可能なのではないかな?

ボクの当面の目標は、あくまでもWGBGを優勝することだ。まずは、『予言』の対象に乗っからないことには、元もこうもないからね」

「ボクは大丈夫です。ありがとう、ラスカーさん」

将は、ラスカーに笑顔を見せた。


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