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レモンティーン  作者: 守山みかん


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109/137

百九

「闘技が中断だと!?」

(そう) (ほう)は、握りしめたスマホに向かって、怒りをむき出しにした大声を張り上げていた。

「闘技場が爆破……誰の仕業だ?」

その後、しばらくは相手側からの一方的な聞き手に徹し、宗の口は閉じたままの時間が過ぎた。

「……ダイヤモンド ザ・ノナ……9番か……あれの仕業だと言うのか?」

その問いかけが一旦入り、その後は再び聞き手に回った。

「……わかった……」

宗は、うろたえ気味に電話を切り、その後に深いため息をもらした。

「何があったのですか?」

と、(リュウ) 梓朗(ズゥラン)が宋に尋ねた。

その瞬間、宋のノドの奥から、強烈にこみ上げてくる感情めいた何かがあったが、その場にいた(おか) (まさし)やラスカー・タムら敵陣の前で狼狽する姿を見せたくなかったので、渾身の力をこめて、沈静化を図った。

「9番が事件を起こしたらしい」

宋は、努めて平静に答えた。

「闘技場の控室を爆破させたそうだ。控室には4番、5番、7番、8番がいて、爆発の巻沿いにあった、と思われる」

「……」

劉は言葉を失い、両肩を震わせていた。

「闘技場の損壊により、闘技は一時中断。このまま中止になる可能性がある

もし中止となれば……我々の計画は意味を持たなくなる

つまりは……失敗ということだ……」

「ならば」

と、部屋の隅のソファに腰を埋めていたヴィタリー(Vitaly)コロソフ(Kolosov)が声を張り上げて、会話に入りこんできた。

「我々がここに留まる理由が無くなったわけだ。まさしクンを連れて帰るが良いか?」

「ダメだ。キミたちを、まだ帰すわけにはいかない」

宋は、何ら躊躇せず、そう言い放った。

「闘技は一時中断だ。中止の可能性はあるが、継続する可能性もある。これは、歴史上、重要な作戦なのだ。簡単にあきらめられることではないのだよ」

「あんたの歴史だろう……」

ヴィタリーの正面に座ているパーヴェル(Pavel)シュトキン(Syutkin)が小声でつぶやいた。

その声は、宋と劉の二人の耳には届かなかった。

「宋閣下が期待されている効果について、ですが……」

次に発せられた声の主に対して、その場にいた一同が驚きの表情を見せた。

声を発したのは、将だった。

「閣下は思い違いをされている、と私は思います」

「何だと……」

宋は、おそろしい猛獣に遭遇したように唇を震わせていた。

「このボクが、思い違いをしている、と言うのか?」

宋の再確認に、将は静かに首を縦に振る。

「私の身柄拘束が、特定の戦闘員に対して動揺を与えられるという効果を期待されていると察しますが、全て無駄に終わるという根拠があります」

将の発言に、宋一人だけが驚きの表情を見せる状況となった。

「それは、どういうことかね?」

宋は尋ね、劉の顔を見た。

劉は、不思議と落ち着き払った表情をしていた。

「私には、『不老不死』の権限が与えられています」

「……!?」

宋の口は、一文字につぐんだままだった。


* * *


「ルチルは、何かを理解した……」

ダイヤモンドは、ささやくようにつぶやいた。

すくそばで、聞き手のルビーが、両耳に集中していた。

「……ここでの闘技の経験を通じて、私では得難い『感覚』を手に入れていた……」

「それは、いったい何?」

すかさずルビーが尋ねたが、ダイヤモンドの口は、しばらく動きに戸惑っていた。

「……うまく答えられない……」

結局、出てきた言葉は、それだった。

「……でも……何となくわかる……それは強くなれる要素……確信はないが……きっとルチルは……この闘技を経て……私より強くなる……と思った……」

「あなたの宿主(ホスト)が教えたのね」

「……宿主……」

ルビーの言葉に、ダイヤモンドは一瞬きょとんとしたが、すぐに頭を横に振って否定した。

「ちがう! 宿主の教えではなく、私が自分で気づいた……私がルチルを見て……私自身が理解した……宿主は関係ない」

「宿主は、あなた自身を司るもの。あなたの思考や行動は、全て宿主の統制下に行われているのよ。それは、決して否定できることではないのよ」

「………」

ダイヤモンドは、口をつぐんでしまったが、しばらくした後、こう切り出した。

「ルチルは……おそらく自分では気づいていなかったのだと思う……宿主が()べる環境から離れ……無能にされているはずの自らの感情を表に出した……自由だ……ルチルは衝動的でも自由に思考し、行動した……」

「宿主を無視できるなんて、有り得ないのよ」

ルビーは、興奮するダイヤモンドをなだめながら言った。

「ルチルが、その方法を知っていたとは思えないわ」

「だが……瞬間的であったかもしれないが……ルチルはやってのけた……と思う……『(リアリティ)』を与えられた我々にさえできないことを……名前も持たないルチルが……どうやったか知らないが……ルチルはやった……」

ダイヤモンドは、汗だくになりながら、そこまで声を積み重ね、最後にふり絞るように、こう繋げた。

「……だから……生かしておけない……と思った……」

無表情で耳を傾けていたルビーのこめかみにも、つつーっと、一粒の汗が流れ落ちた。



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