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レモンティーン  作者: 守山みかん


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108/137

百八

「なんや、ずいぶんと、最後はあっけなかったな」

と、勝敗を決した長めのホイッスルが鳴り響く中で、段が闘技の感想を語り始めた。

「試合開始直後に、マキねとオイゲンはんが一気に攻めて、3人仕留めたまでは良かったけど、ルチル一人で、まさかの3人連続討伐で追いつかれ、こりゃ、とんでもないヤツがいるなと思たけど、ミキミキには全く刃が立たず、一方的にやられておしまい。

なんやろな。

考えてないのが、丸わかりやったな。

正面からぶつかっていくのは、正々堂々としてエエんやけど、ウチなら、もう少し頭使うな」

「得意のヘディングですか?」

と、レナが、からかいを入れてくる。

「そうや!」

段は叫んで、レナの肩をつかもうとした。

レナは、すかさず迫ってくる段から遠ざかる。

狭い控室で、騒々しい追いかけッコが始まるが、他のメンバーは、全くの無関心で、やめなさいの声も出ないので、2人は無法地帯のごとく、騒ぎをやめなかった。

梨菜は、アドと寄り添って、部屋の隅の方で、並んで座っていた。

「ミキちゃんが勝ったわ」と、アドが梨菜に声をかけた。

「………」

「わりと強敵だったんだけど、ミキちゃんが上手に攻略したのよ」

「………」

「段ちゃんとレナちゃんは、相変わらずはしゃぎ回ってる。あの2人、本当に仲が良いのね」

「アドさん、私は大丈夫です」

梨菜の溌剌とした声に、アドの青い目が大きく開いた。

「ずっと私のそばにいてくれて、ありがとうございます」

「パンナちゃん………」

アドが声を上擦らせているところを、梨菜はアドの小さな体を両腕で力強く抱きしめた。

「私のことなら心配いりません。私は、大丈夫です」

「無理しないでね……パンナちゃんには、私たちがいるわ」

梨菜に、がっつりと抱きつかれていながらも、アドは何とか口を外に出し、伝えた。

梨菜は、両腕の力を緩め、アドを解放した。

「みんなで、闘技を決着してくれたミキミキを迎えにいきましょう」

梨菜の声かけで、メンバーは一斉に闘技場に向かった。


* * *


ルチルは、朦朧(もうろう)とする中で名前を呼ばれたような気がして、ハッとした。

視界の真正面に、ダイヤモンドが闘技場のまぶしい照明を背後にして、じっと見つめていた。

「よくやったよ、キミは」

ダイヤモンドの口から、その言葉が発せられた。

(ねぎら)いか………

自分は敗北しているのに……

成果を出したわけでもないのに……

今までに無い雰囲気だ。

敗北すれば、全てが終わりだと思っていたのに。

非常に違和感を感じるが、そのように声をかけられたことに安堵も感じる。

これも、かつて無かった感覚だ。

自分は変わったのではないか、とルチルは自らに問いかけた。

いや………

どうも、それだけではない。

ダイヤモンドも、これまでと違う気がする。

「第2ピリオドは負けられない1戦となったけど、それは想定内だ。キミは、控室に戻って、ゆっくり休んでくれ」

ダイヤモンドが、自分のことを労ってくれることこそ、ルチルには想定外だった。

ルチルは、静かに起き上がり、立ち上がり、自らの身体が完全に『治癒』されていることを知った。

「ダイヤモンド……これは、あなたが?」

ルチルが尋ねると、ダイヤモンドは「わからない」と即答した。

「ここへ来た時に、キミはすでに『治癒』されていた。私ではない」

姫檜扇水仙(クロコスミア)』のメンバー以外で、『治癒』が可能なのは……

ルチルは、ミキミキの方をゆっくりと見た。

『強天使』のメンバーたちに囲まれ、もてはやされているミキミキは、笑顔に満ちていた。

ルチルは、ミキミキに向けて、無言でお辞儀をし、そのまま控室に戻っていった。

「大したヒトやな、あんたは」

と、段がミキミキに言った。

「ウチは、ちゃんと見てたで」

ミキミキは、小さく「きゃはあ」とつぶやき、はにかんだ。

「ルチルさんは、辛い思いと苦労をしてきたヒトだということがわかったのでし。

だから、闘技が終わったら、回復を手伝ってあげようと思ったのですわん」

「差別されとったように見えたな……エイシード社や『姫檜扇水仙』の内部のことはわからんけど、あの(そう) (ほう)がどういうヤツかは、ウチも知っとるで」

と、段が続いた。

「自己中で、自分が決めたことに対する批判を全く許さんようなヤツや。

気に入られたヤツと、気に入られんヤツの区別もよくわからんかったしな

ウチは、明らかに嫌われとったな」

「『姫檜扇水仙』のメンバーって、感情をあまり感じさせない雰囲気ですよね」

と、レナが言った。

「感情的にならないなら、不満とか、悩みとか、無いように思えるんですけど、それなりにいろいろあるみたいですね。

打ち明けられる友だちとか、いたら良いでしょうけど」

「表に出さんようにしとるだけや。宋に不満を持っていないヤツなんぞ、おらんと思うで」

その時、ドンという爆発音が大きな振動と共に闘技場内に轟き、一同を驚かせた。

「何や!何があった?」

灰色の煙が場内に蔓延し、滞在者への避難指示が下された。

「控室が……『姫檜扇水仙』チーム側の控室が……」

レナが声を震わせながら言った。

先ほどルチルが戻っていった控室が、内部から外に一瞬にして弾けるように損壊し、ガラスや壁材の粉々になった破片が煙に混じって、ドームの外側に漂っていた

『強天使』のメンバーは当然だが、『姫檜扇水仙』チーム側も予期せぬ出来事を目のあたりにして、ざわめいていた。

「私たちの控室が………」

「爆発したみたい」

「中にいた子たちは……」

ただ1人、ダイヤモンドだけが平然と無表情を続けていた。


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