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レモンティーン  作者: 守山みかん


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107/137

百七

ルチルは、ミキミキの足元に落ちている使用不能となったダガーナイフをうらめしそうに見つめた。

まだ、MEの『所有権』が有効であるなら、全て再利用したいところだが、期待はできないだろう。

おそらく、硬化させた『回転球(スピンボール)』でガードされたタイミングで、『横取(シーブ)』された、と考えるべきだ。

ならば、取り戻すまではできなくとも、使用不能にするための『封印』くらいはしたいところだが、ミキミキが、それすらも簡単に許してくれるとは思えない。

ルチルは、軽いため息をつきながら、残り時間を確認した。

1分21秒。

反転をねらうのに必要な時間としては、十分だ。

討伐数は、3人対3人の同点。

相手を討伐できれば、事はすべて良しとなるのだが、これまでの成果が、3人とも不意打ちであったことを思うと、同じようなやり方は、もう通用しないだろう。

討伐できる難易度は、かなり高いと感じる。

もう少しハードルを下げての検討を試みたい。

問題は、バトルポイント。

ジェダイトの右腕が切り落とされた時の3点が重くのしかかっている。

これを逆転するには……

仮に、ミキミキに、ジェダイト同様の大ダメージを与えても、同点の扱い。

時間延長に持ちこまれたら、ルールでは、最後まで残った者、この場合、1対1での対決の延長戦となる。

そして、闘技状態はリセットされるので、今の武器は回収され、新たに武器を創出しなければならなくなる。

クリソとラズライト抜きの、単身での武器の創出など、攻撃弱化は免れないたろう。

(そうか……)

そこで、ルチルは、生まれて初めて、謙虚という気持ちを知った。

(今まで、1人で何とかしてきたつもりだったけど、実は、そうではなかった)

(あの子たちのお膳立てがあって、私がこれまでやってこれたのだ)

(失ってみて、初めてそれに気づかされた)

ルチルは、右手に握るダガーと、創出当初よりずいぶんと小さくなってしまったラウンドシールドを見つめた。

(あの子たちから、私に託されたのだ)

(あの子たちの期待に応えなくては)

(このことに、もっと早く気づくべきだった)

(闇雲の攻撃で、大半を失ってしまった……)

(延長線には持ちこませない!)

「じゃーん」

突然、ミキミキの声が場内に轟いた。

横にまっすぐに伸びた両手。

下が直線の分度器のような形に、ぱっちりと開いた両目。

上が直線の分度器のような形に大きく開いた口と、その奥に見えるハート型ののどちんこ。

Xの字に交差に組まれた両脚。

ルチルは、大きく息をのんだ。

これが、ミキミキの攻撃開始を示すポーズであることを理解していた。

「きゃはあ、ミキミキを楽しんで下さいね」

場内から、ミキミキに向けて、大きな歓声が向けられた。

(この場でファンサービス……ありえない!)

(こっちは、必死だというのに……)

ルチルは、決心したように、ミキミキに向かって突進した。

すぐさま、ミキミキは、ルチルから回収した創出武器の主成分であるMEを『所有』し、前方に向けて『爆発』を仕かけた。

巨大な大砲を発射したくらいの、大きなエネルギーが、ルチルに向かっていった。

(しまった……のせられたか……)

(すでに、臨界の準備は済ませていたのか……)

(武器を回収するすきを全く与えなかった)

(この子、強い……)

(全量を惜しまず攻撃として使ってくる)

(とにかく、この攻撃は交わさなければなるまい)

ルチルは、腰を低く落とし、小さくなってしまった盾を正面に構え、猛烈な爆圧から耐えることのみに集中した。

仲間たちが用意してくれた攻撃手段を、みすみすと敵側に与えてしまった見返りを、今、受けている。

軽率な戦闘判断に対する報いだ。

これを耐えきることが、自らへの教訓となる。

ミキミキの強力な『意志』による爆圧は、盾だけでしのげるものではない。

ルチルは、盾を構成するMEを消費しながら、自らが起こした『爆発』で、圧力を押しかえしていた。

反発の効果は、おされ気味ではあるが、何とかしのげているようだ。

つまり、ミキミキとの『意志』の差は、致命的なものではないということになる。

この爆圧がおさまれば、MEの残量を全て使い切るつもりで、一騎討ちで挑むのだ。

身体能力は、おそらく、こちらが勝っている。

俊敏さをもって、敵に攻撃の機会を与えない。

その時、ガンと大きな音が轟くと共に、盾に大きな衝撃を感じた。

(これは……)

ルチルは、盾を持つ手に、さらに力をこめた。

再び、ほぼ同じ位置に衝撃を受ける。

3度目には、盾を突き破って、ルチルの左頬と肩の間をかすめ、勢いよく球が通り抜けていった。

(ミキミキの『回転球』!)

ルチルに驚く隙を与えず、続け様に『回転球』が盾にぶつかってきた。

カチカチに凍らせ、強固な弾丸のような勢いで、ルチルの盾をボロボロに砕いていた。

(あの子たちが作ってくれた盾が……)

ルチルは、自らの窮地よりも、盾の損失の方を気にかけた。

そこへ、ルチルの胸の中央に、ドウっという轟音を伴い、容赦なく硬化させた『回転球』が食いこんだ。

ルチルは、一瞬だけ白目を剥いたが、すぐに平常を装った。

(AI審査のダメージ認定が……)

(何を基準にしているのかは知らないけど……)

(見た目で判断しているとしたら……)

(何も無かったように振る舞えば……)

(見逃してくれるかもしれない……)

(ここは我慢しよう……)

(これ以上……)

(バトルポイントを取られては……いけない……)

(勝ち目がなくなってしまう……)

胸骨が砕け、

内臓がねじれ、

痛みを発信された神経は、まるで弓で叩きつけた弦のように激しい振動を見せ、

それでもルチルは、悲鳴をあげなかった。

涙がこぼれそうになったが、それも堪えた。

さらに、右肩に『回転球』が直撃し、耳元でミシミシと音を立てながら、2センチほどめりこんだ。

その勢いで、握っていたダガーナイフが右手から離れ、後方に吹き飛んだ。

「ううっ!」

ルチルは、声を上げずにはいられなかった。

(武器が……)

(攻撃手段を失ってしまった……)

(……でも、まだ判定されていない……)

(顔に出ないように……)

(痛がっていないように見せるんだ……)

(私はまだ平気……)

(ここで終わったら……私の全てが終わる……)

(……終われない)

さらに『回転球』は、左首の付け根と、右脇腹に2発同時に容赦なく激突する。

ルチルの両目から、堪えていた涙がこぼれ落ちた。

AI審査は、ついにルチルにダメージ認定を下した。

B判定。

『強天使』に、バトルポイントが2点追加された。

(……終われない……)

(……終われない……)

(私はまだ戦える……)

4つの『回転球』は、ルチルの体にめりこんだままだった。

激しい痛みが全身を駆けめぐり、顔を涙まみれにしながらも、それでも、ルチルは、前進することをあきらめなかった。

ミキミキは、笑顔でも、怒り顔でもなく、無表情でルチルの様子を見ていた。

その手には、かたく凍らせた『回転球』が1つ握られていた。

ミキミキは、フウと小さく息をはいた後に、ルチルの右足をねらって投げつけた。




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