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レモンティーン  作者: 守山みかん


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104/137

百四

「行動を(にな)個体(ガジェット)、かつては『幻影(フィギュア)』と呼ばれていた時代もあったが、死という機能停止状態に至ったとしても、直前までその個体に宿っていた『意志』と『記憶』を、次に生を得た個体に正しく転送できれば、その者の持つ知識や記憶、身体能力は『伝承』された、と言えるのではないかな」

淡々と語るゴースワンの説明が進行する。

それを傾聴していたフィッシャーは、段々と動揺の影が表情に表れていた。

「さらには、提供個体の設定年齢が若ければ、最盛期の身体を維持することだってできる。

これが、ホノたちが実現した『不老不死』の仕組だ」

「それが、キミの言う『2つ目の意味』だね」

ゴースワンは、「そのとおり」という意思表示を、大きくうなずくことで表現した。

「永遠に存在することを許可された者、それが現在の『権限者(ギフター)』という呼称の対象者たちだよ」

「キミたちも現在的な『権限者』なのか?」

フィッシャーは、屈託なくたずねた。

少なくとも、外見は落ち着き払っているように見えた。

「私は違う」

ゴースワンは、きっぱりと答えた。

「私自身は、自分の意志が永遠に存続することを望んでいない。

それに、時代の流れも、私の存続を望んではいないだろう」

「『権限』を得るか、得ないかは、自分で決めることができるのか?」

「お金で得られるものではないことはわかってる」

そこで、フィッシャーは、怪訝そうに目を細めた。

「妙だな……

もしかしたら、キミは『権限』を得る方法や条件を知らないのではないか?

IMEAの協会長であるキミでも、及ばない領域が存在するのか?」

「その質問については」

喜代子が二人の間に入ってきた。

「ゴースワン会長は、もちろんだけど、私にも答えられませんわ」

「岡産業株式会社が、牛耳っているわけではないのか……

つまり、『強天使』でもない……」

「『強天使』のメンバー全員は、『権限者』として認定されています。その……」

喜代子は、そこまで言って、おどけたような笑みを見せた。

「つまり……現在的な方です」

「その認定は、いったい誰がしているのか?」

フィッシャーの言い方は、いかにも修羅場を迎えているようだった。

「時代……ゴス、キミは、さっき、そう表現した。

いかにも、時代の流れを管理する者がいるように聞こえる。

確かに、歴史を動かすような重要人物を存続させるか、あるいはさせないかを調整できる『認定者』がいれば、時代そのものを都合の良い状況にできてしまうだろう。

その『認定者』は、神の存在と等しく、世界の支配者とも言える」

「ええ、『認定者』はいますとも」

喜代子がそう答えた瞬間から、フィッシャーの口は一文字に閉じられた。


* * *


「いもうとの状況は?」

と、真樹が控室のモニターに目を向けながら、尋ねた。

「平常だと思うわ」

答えたのはジャッキーだった。

「ミキちゃんのメンタル面の成長は、ステキな状況よ」

「でも、お姉さんの姿をしたヒトが、目の前で殺害されるのは、ショックだと思います」

レナが、会話に入ってきた。

「体を新しくして、こうしてお姉さんが生きているんだし……」

ジャッキーがなだめるように言った。

「確かに、割り切れるかどうかの問題なのでしょうけど……」

「レナちゃん」

ジャッキーは真樹の背後に回り、その両肩に手を添え、肩越しに真顔でレナを見つめた。

「このヒトはだれ?」

「真樹さんです」

ジャッキーの質問に、即座にレナは答え、その直後にハッとして、頬を赤く染めた。

「ごめんなさい……私……真樹さんの気持ちも考えずに……」

真樹は、レナに近づき、優しく抱擁した。

ジャッキーは、ニッコリと笑った。

「ジャッキーさん、ありがとう」

と、真樹は言った。

「私たち親友でしょ。気にしないで」

長めのホイッスル。

中断していた闘技が再開された。

残ったメンバーは、両チームとも1名ずつ。

残り時間は、1分と13秒。

闘技場の中央で、ミキミキとルチルが向き合っていた。

バトルポイントでは、『強天使』側が有利な状況だが、場に残った側が勝者になる点では、有利も不利も無い。

ミキミキは、笑ったり、怒ったりする様子はみせず、いつになく無表情を維持していた。

ルチルは、事前に入手していたミキミキに関連する情報とは異なる様子に、戸惑いを見せていた。

(直線が上の分度器のような目じゃない……)

(つまり、今は、怒りモードじゃないってこと?)

(じゃあ、怒っていない……ってこと?)

(……ありえない……実の姉が目の前で殺されてるのに……)

(怒りモードにして、冷静さを失わせる作戦のはずが……)

(それに……)

ルチルは、『強天使』側の控室に目を向け、窓越しに見える真樹の姿に、思わず息をのんだ。

(あれが、あそこにいるのは……きっと、『認定』されていたってことだよね)

(ハーモニー真樹が『認定』されたのは、『強天使』だから? それとも岡産業だから?)

(……いいえ……ここは逆に考えるべきだね)

(………)

(……私が『認定』されないのは、歴史が私を必要としていないから……)

(そして……(そう)閣下は、歴史を自らが掌握したいと考えている……)

(『予言書』に記されているのは、あくまでも存在の明示であり、『強天使』の個人を特定して示したものではない)

(つまり、私たちが同等か、できれば、それ以上の力を身につければ、『姫檜扇水仙(クロコスミア)』が『檸檬の天使(レモンティーン)』になり代わることが可能だ)

(宋閣下が『認定者』となることが、私が認定される、ただ一つの可能性と考えられる)

(でも……)

ルチルは、深いため息をもらす。

(……時代の置き換えに成功しても、『伝承』されるのは、きっとダイヤモンドたち)

(次点の私のことなんか……宋閣下の視界にも入っていないかもしれない……)

(予選リーグを……ほぼ私一人の力で……勝ち抜いてきた実績も、大して評価はされていないと感じる)

(……私は使い捨ての存在……)

(閣下やダイヤモンドたちを盛り上げるための捨て駒……)

(私には何の希望も無いのかもしれない……)

ルチルは、再びミキミキの方に目を向け、「あっ」と、驚きの声を上げた。

ミキミキの両目から、たくさんの涙が流れ落ちていた。

(何?)

(……何が起きてるの?)

動揺するルチルに構わず、ミキミキは、そっとつぶやいた。

「……かわいそうなヒト……なのでし……」



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