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レモンティーン  作者: 守山みかん


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103/136

百三

「そもそも『権限者(ギフター)』とは、何なんだ?」

と、声を上げたのは、ウィルヘルム(Wilhelm)フィッシャー(Fisher)だった。

場所は、D国にあるバンクス社内の応接室。

時は、バンクス社と日本の岡産業株式会社との統合契約調印の日。

別の言い方をすれば、WGBG決勝リーグ『強天使』と『姫檜扇水仙(クロコスミア)』対決の前夜。

立会者は、岡産業株式会社の専務取締役である松川(まつかわ) 貴代子(きよこ)と、B国ラズベリースケール社の代表取締役、(Inter)(national)マジック(Magic)アイ(Eye)(Associ)(ation)(通称『IMEAアイミア』)協会長、WGBG開催委員長を兼任するウィリアム(William)ゴースワン(Goswan)である。

「何に対する権限を得ているというのか?

確かに、MEが扱えるという状態は、特別な意味を持っている。

が、それも過去の話だ。

かつては、覚醒した『天然の権限者(ナチュラル・ギフター)』のみが扱えるという点で、特別感があった。

人工的に創生した『疑似権限者(インダストリアル)』とは、あからさまな能力差が生じていたからだ。

だが、今では、技術の進歩で、『情報側面(インフォマティブ)』か、『攻撃側面(アグレッシブ)』かのいずれかなどという選択肢は撤廃され、意図的に『蓄積側面(アキュムレイティブ)』を同時に搭載できるなど、『天然の権限者』の能力を上回る『疑似権限者』も登場するようになった。

檸檬の天使(レモンティーン)』の一人として数えられているアド(Add)ブル (Bull)などは、象徴的な例だ。

彼女の場合、『攻撃側面』も『蓄積側面』も後付だ。

つまり、強さを持つ『権限者』は、造ることができると証明できた。

その『権限者』の強さを示す指標とされている『意志』は、鍛錬が可能で、言わば筋力のようなものだ。

すなわち、ここで言う『権限』には、ヒトを選ばずに、何人(なんびと)でも手に入れられることが可能な点で、特別な要素はすでに無く、言葉の意味も失っていることになるのではないのかな?」

ここで、フィッシャーの口が動きを止めた。

語りが熱っぽくなっているのは、ここ2時間以内に飲み干したジョッキ3杯分の黒ビールの影響が強く出た、と思われた。

「『権限者』の範囲を、最大限に広げれば、そういう解釈になります」

と、喜代子が応じた。

彼女は、勧められたアルコールは当然のこと、すべての飲食類に対して、まったく手をつけていなかった。

「我々が根ざす市場(ターゲット)は、もっと狭いものです。

故に、『権限者』という呼称の定義に対しても、フィッシャーさんがお持ちの認識とは異なる認識を持っています」

ここで、喜代子の口が止まり、待ってましたという勢いで、ゴースワンが身を乗り出した。

彼も、アルコールの影響で、燃え上がる赤い色をした頬が、丁寧に磨き上げられた大理石のようなてかりを見せていた。

「ホノのはからいで、私は未だラズベリースケール社の代表でいられているが、すでに私が持っていた全ての権利が、岡産業の支配下に置かれている。

フィズ、キミの疑問は、キヨに向けられているモノと解釈しているが、ここで私が回答することで、その普遍性を証明できると思う。

キヨ、よろしいかな?」

ゴースワンの提案に対して、喜代子は、静かに首を縦に振る。

「結論から言えば、『権限者』とは、死なない権限を持つ者たちのことだ」

「……死なない……」と、フィッシャーは小さな声で復唱する。

その声には、驚きの性質は含まれていなかった。

「その前提条件として、自らに対して『治癒(ヒール)』が使えなければならないが、基本的に、この『才能(アプリ)』は、本能的に発動する性質があり、これが機能している限り、『権限者』は死なないのだよ。

例え、脳や心臓を弾丸で撃ち抜かれ、常人であれば即死するような重傷を負っても、当人に生きたいという気持ちがあれば、再生できる。

それが、『権限者』は死なない、の1つ目の意味だ」

「その場合は、例外がある」

と、フィッシャーが異を唱えた。

「斬首されたり、身体が粉微塵に吹き飛ばされ、『意志』が身体に行き渡らない状況になるか、『枯渇』や『封印』でMEが使用できなくなれば、『権限者』と言えど死ぬ場合がある。

キミの言う『死なない』には、条件が付いている」

「そこで、2つ目の意味が登場するのだよ」

ゴースワンは、愉快そうな笑みを見せる。


* * *


真樹とオイゲンは、静かに『強天使』チームの選手控室に入室した。

控室にいた全員が闘技場内に入り、誰一人残っていなかった。

闘技場には、心臓の中心を貫かれて、絶命した二人を囲むように、チームメンバーが輪になっていた。

「こりゃ、見事に貫かれたな」

と、段が感心しながら言った。

「やり方が卑劣ですわ」

レナは、不服顔で言った。

「通常なら、『治癒』が無意識的に発動するから、絶命には至らないはずです。

それを『封印』までするなんて……

殺すことが目的にしか見えないです」

「まあまあ」と、段がなだめた。

「WGBGは、基本、『すもう』と似たルールやから、ぶん投げたり、吹き飛ばしたり、すっ転ばせたりするような攻撃が中心や。

胸突き刺す、なんて攻撃、瞬間で『治癒』使える相手に、それで転んでくれるかなんてな、可能性低いな。

そやから『封印』して、身動き止めなしゃあないから、やったんや」

「あの……」

と、ルチルが申し訳なさそうな顔で、会話に加わってきた。

「段さんのおっしゃるとおりの事情です。

フォロー、ありがとうございます」

「控室に、真樹さんとオイゲンさんが戻ってきたようですよ」

レナの発した声で、場内にいたチームメンバーの全員が視線を控室に向けた。

「早かったな。じゃ、戻ろか」

段は言うと、ミキミキに向けて、手を振った。

他のメンバーもミキミキに手を振り、ぞろぞろと戻っていった。

段は、立ち去る前に、ルチルを見た。

「あんたは敵や」

と、冷たくつぶやき、くるりと背を向けて、去っていった。

ルチルは、無表情を維持しながらも、段の背中を見送った。

さらに、重たい攻撃的な空気がルチルを包み、そこから生み出された浮遊感により、バランスをくずしそうになった。

明らかに、ヒトから意図的に発せられた、言わば気合いのような重圧が、突然、ルチルの周りに現れたのだ。

ルチルは、ハッとして、その重気圧の発生源と思しき方角に目を向けた。

そこには、ゆっくりした歩調で、控室に戻ろうとする梨菜(りな)の姿があった。

梨菜は、怒るでも、笑うでもなく、きりりとした表情で、ルチルには目もくれずに、前を通り過ぎていった。

《すごい気圧……あれが、矢吹パンナ……》

対して、ルチルの視線は、長身の梨菜に釘づけになっていた。

《あの感じ……ダイヤモンドと同じだ……》

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