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異世界探偵トーヤの推理無双  作者: ことのはひじり
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トーヤと魔法学園女子寮殺人事件 解決、トーヤの過去

事件が解決して、両腕に手錠を掛けられたエステルはボルン警部とアイグナー刑事に連れられて馬車で警察に連行されて行った。

帰り際、二人は関係者全員、特にキャサリンに何度もお礼を言われ、悲惨な事件のあった女子寮、そしてオールドローズ魔法学園を出た。

随分時間が経ったように思えたが、腕時計を見るとまだ昼前であった。

帰り際、恋人を失ったアネルはずっと寂しく項垂れていた。

「アネル、元気出してよ。アネルはイケメンだからまた新しい女の子見つけたらいいんじゃないかな。」

「トーヤ君、あなたは私のことを軽薄だとか女たらしだとか言いますけど、私は恋人になった女性をいつだって一番愛しているのです。でも、恋をした数だけ失恋をしてしまうのです。

今日は、今までで一番悲しい別れをしてしまった。

エステルさんは私を利用するためだけに近づいたのでしょうか。だとしたら、私は…とんだ道化です。きっとあなたも笑いたくて仕方ないでしょう。」

「うーん。」

トーヤは雲一つ無い青い空を見上げて少し考える。

「エステルさんはアネルのことちゃんと好きだったんじゃないかな。」

「え…?」

「これは僕の推理だけどさ、エステルさんが本当に逃げ延びようと思ったらまず寮に帰ってこなかったと思うんだ。

事件の解決があと二日遅れたら彼女は卒業して冒険者になる。そしたらそのままギルドに登録してる他の冒険者とパーティーを組んで冒険に出てしまえば素知らぬ顔で逃げ延びることが出来たはすなんだよね。

アネルもさすがに部屋を片付けるだろうから、睡眠薬入りのコップも無くなってしまっただろうし。そうなると事件は本当に迷宮入りだ。

だけど彼女は戻ってきてアネルのことも含めて証言した。

これって彼女に少しでも罪悪感があったからだと思うんだよ。自分の犯した罪に対してと、アネルをハメたことに対しても。

だから僕は、エステルさんがアネルに近づいたのは利用するためだけじゃなかったと思うんだよなあ。」

「そう…なのですか?」

「今となったら真相を知るすべは無いけどね。まあアネル、元気出して。まだお昼だけど一杯飲んで帰る?僕がお酌をするよ。」

「ありがとう…ございます。トーヤ君は本当に名探偵ですね。事件を解決すると同時に私の心も救ってくれた。」

「そんな大げさだよ。僕は思いついたことを言っただけだし。」

アネルからここまで素直に褒められることは珍しいのでトーヤは少し照れて、それをごまかすように首の後ろに手を掛けて視線を横にずらした。

と、そこで背中側から「おーい!」という呼び声が聞こえてきたので二人は振り返る。そこには息せき切らせたアイグナー刑事が背筋を伸ばしてびしりと敬礼していた。

「アイグナー刑事。ボルン警部たちと警察署に戻ったんじゃないの?」

「はい!自分は署に戻る途中で後でお二人に焼却炉で見つけた証拠品を渡すのを忘れていたことを思い出して追いかけてきたのであります!」

「え、証拠品!?」

トーヤは驚いて身を乗り出した。事件が解決した後で証拠品を見つけてくるとは、無能なのか有能なのかよく分からない刑事である。

「こちらであります!」

びしりと背筋を伸ばしたアイグナー刑事が背広のポケットから一枚のカードを取り出し、トーヤに差し出した。

そのカードを見たトーヤは思わずぎょっとして息を飲んだ。

カードにはピエロのイラストが印刷されており、表面に手書きでこう書かれていた。


親愛なる鏑木塔矢君へ


君の推理が相変わらず鮮やかで私は少し安心した。

私はここで待っている。早く捕まえてみるがいい。

                              

                          怪盗クローウンより


「アイグナー刑事!」

「は、はいっ!」

背筋を伸ばす若い刑事にトーヤは掴みかからんとする勢いで詰め寄った。

「これ、焼却炉で拾ったんだよね!?寮に僕たち以外が入った形跡とか無かったの!?」

「いえ、自分もボルン警部も関係者以外が立ち入った形跡は見つけられなかったであります!」

「僕、戻って調べ直すよ!」

言うが早くトーヤは走ってオールドローズ魔法学園に戻ろうとしたが、アネルにがっちりと腕を掴まれた。

「待ってくださいトーヤ君。そのカード、今回の事件に関係のあるものなんですか?それに今から戻って何を調べようというのです?」

「それは…!」

アイグナー刑事がこのカードを見つけたのはつい先ほど。そして、オールドローズ魔法学園は今朝からずっと封鎖されていた。

その間誰も外から入ってきていないし、それ以前でも不審者が女子寮に入ればそれこそすぐにお縄になることだろう。

しかしそうならなかったということは、もう現場には何も残っていないということになる。

だがカードの口ぶりからトーヤたちは一部始終監視されていた。一体どこから、どうやって?

いくつも浮かび上がる疑問は尽きないが、今は何をしても無駄ということがとても歯がゆかった。

「そのカードがどうかしたのですか?」

「これは…これは、僕の因縁だよ。そうだなあ、アネルにはちゃんと話しておこうかな。」

「ええ、聞かせてください。私はあなたのことを何も知らないのです。これを機会にあなたのことを少しでも知りたい。」

「あの…自分は…りょ、了解しました!ここは空気を読んで立ち去るでありますっ!」

力強く敬礼して元来た道を走って帰る若い刑事を見送りながら、トーヤは小さく息を吐いた。


「信じてもらえるかは分からないけど、僕はこことは違う世界から来たんだ。この、怪盗クローウンを追いかけて。

少し長い話になるからどこか座れるところに入ろうか。」


それは今から4か月前、トーヤが元居た世界ではクリスマスと呼ばれる聖なる夜の出来事であった。

ひとまずこれで最初の事件は終了です。次回はトーヤ君の過去、どうして異世界に来たのかを投稿すると思います。投稿は9月予定。

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