表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界探偵トーヤの推理無双  作者: ことのはひじり
1/6

トーヤと魔法学園女子寮殺人事件 序章

マゼンタ王国王都に程近い街オールドローズの春。

観光事業を展開するこの街は歩き疲れた観光客の目を潤すように石造りの道沿いに特産である色とりどりのバラが植えられ

バラの花壇を区切るように規則的に広葉樹が植えられていた。

また、他の街では機能性のみを追い求められている用水路も

この街では製造に手間とコストの掛かる石のタイル張りで、そのタイルも白を基調に黄色とピンクで丸い幾何学模様が描かれている。

時刻は午前7時。朝の爽やかな日差しと石畳の道路を歩く馬車の蹄の軽快な音で目を覚ました観光客

そして旅の途中の冒険者たちはこの街名物の花の蜜パンと地鶏のゆで卵を求めて街に軒を連ねるパン屋、それからレストランに足を運び始める時間だ。

勿論宿でそのまま朝食を済ます者も多い。

宿で働くものたちは明るい陽射しを受けながら旅人たちに朝食を作っていた。

そんな宿場町からほど近い市場で色とりどりの食材や雑貨を並べた露店で貴族の小間使いの少年少女たちが品定めをし

魔法使いが眠い目をこすりながら古ぼけた売り物の魔導書を天日干しにする。

それを横目に街の外から農夫が収穫したばかりの野菜を荷馬車で持ち込み

すれ違うように街の外にある鉱山に向かって鉱夫を乗せた乗合馬車が子気味よいリズムで駆けていく。

夜が明け、活気づいてきた近代的で風光明媚なこの街の大通り沿いに、一件の小さな探偵事務所があった。


アルノルト探偵事務所。


二階建てのレンガ造りの建物で、一階が事務所、二階を従業員の住まいとして使われている。

従業員はたった二人。

所長のアネル・アルノルトと。この事務所唯一の探偵、18歳のトーヤ少年だけである。

この時間起きているのはまだトーヤだけだ。

外にはねた癖のある茶髪とエメラルドグリーンの瞳で少女のように華奢な体つきの少年だが、顔に童顔な風貌とは不釣り合いな大きな傷跡があり、見たものに強い印象を与える。

彼は二階の共同キッチンで自分のものと所長であるアネルの朝食を作っていた。

メニューはパンとスープだけと簡単なものだ。

パンはそのままナイフで切ってバターを添えた皿に乗せ、既にテーブルの上に置いていた。

スープの具材はキャベツとじゃがいもだ。

この街は養鶏も盛んで、特産の地鶏と卵が有名だが貧乏探偵社に朝からそのような高級食材を使う余裕は無い。

従業員二人の探偵事務所の依頼料は微々たるものだが、文筆業を掛け持っている所長の印税で事務所の収入自体は並以上の水準だ。

だがこの事務所はその所長が世間に見栄を張るため、貴族階級でもないと使用することが出来ないと言われているガスと水道と電話線を引いており

儲かった金をそのまま贅沢な生活インフラ整備に流してしまっているのだ。

貴族のステイタスシンボルであるこの場に似つかわしくないガスコンロに乗せた鍋のスープをスプーンを掬って味見をする。

近所の肉屋から譲ってもらった鶏の骨の出汁が良く出ていてさっぱりとしながらコクのある味わいだ。

「よし、おいしい。」

トーヤはこの探偵事務所で暮らし始めて数か月。

家事全般が壊滅的な所長の面倒を毎日見続けてきた結果、料理の才能に目覚め、彼の焼いたクッキーやマドレーヌを目当てに特に依頼も無いのに事務所に入り浸る客もいるくらいだ。

コンロの火を止め、トーヤは自分の上司であるアネルの顔を思い浮かべる。

朝に弱い自分より5つ年上の雇い主兼相棒兼同居人の所長はまだ起きてこない。

ほぼ毎日この調子だ。そしてトーヤはふとアネルが抱えている二つの問題を思い出して小さくため息をついた。


ジリリリリリリリ。


その時、一階の事務所にある電話がけたたましく鳴り始めた。

トーヤはエプロンを体から引き剥がすように脱ぐと、テーブルに備え付けられた椅子の背もたれに投げ置き、小走りで事務所に向かった。

片づけていない書類と原稿が散らばった所長用のデスクで鳴り続ける電話の受話器を取る。

「お世話になっております、アルノルト探偵事務所です。」

『おお、トーヤ君か!朝早くからご苦労様じゃよ!」

聞きなれた壮年男性の声だった。

「ボルン警部、おはようございます。こんな朝早くからどうしたの?」

軽く挨拶をしながら恰幅のいい地元警察の警部の姿を脳内に描き出す。

「どうしたの?」と聞きつつ、警部の声から緊迫した様子を読み取る。

この壮年警部は何かと厄介な仕事を持ってくることが多いが、こんな早朝から電話を掛けてくるのは珍しい。

『先に要件を言おう。オールドローズ魔法学園で殺人事件が発生した。』

「!」

『君とアネル殿に調査を依頼したい。依頼料は弾みますぞ。』

「……はい、分かりました。所長を叩き起こしてすぐに現場に向かいます。」

オールドローズ魔法学園の場所を思い出しながらトーヤは受話器を置いた。

そしてすぐに事務所を出て階段を上がり、アネルの住居に向かう。

どうせノックしても起きないだろうから合鍵を使って勝手にドアを開けた。

「アネル起きろー!殺人事件が発生したそうだよ!」

開け放ったと同時にトーヤはアネルの寝ているベッドを見てそのまま一瞬だけ固まった。

寝るだけの質素な部屋の奥にあるベッドでアネルがすやすやと寝息を立てている。

だが、アネル一人だけではない。まだ幼さの残る金髪の少女と一緒だ。

しかも二人とも裸で毛布に包まっている。

そう、アネルの抱えている問題点の一つはこれだ。この男はものすごく女癖が悪いのである。

隣で寝ている少女も彼が適当に引っ掛けてきた行きずりの少女なのだろう。

こんなこといつものことなので、トーヤは大して驚くこともせずに出入口のすぐそばにある大きな水瓶からバケツで水を掬うとそのままずかずかと部屋に上がり込み、バケツの水をアネルの顔面にぶっかけた。

「ぶはっつめたっ!」

赤毛の頭から水を被ったアネルが飛び起きた。水しぶきを浴びた隣の少女も目を覚まし、トーヤの姿を見て悲鳴を上げる。

だがトーヤは彼女を無視してアネルに詰め寄った。

「アネル!あんたがどこで何をしようと勝手だけど、事務所をヤリ部屋にするなって何度言わせたら気が済むんだよ!

あんたがいつも違う女を連れ込むせいで事務所の評判に傷がついてるんだよ!僕だってあんたのプライベートにどうこう口出しはしたくないけど、ちょっとは自重してよ!もうちょっと具体的に言うとファン食いをやめろ!」

「何ですかこんな早くから説教ですか…昨日遅かったんだからもう少しだけ寝かせてくださいよ。」

右目は緑、左目が青のオッドアイで非常に整った顔立ちの青年はまるで悪びれる様子もなくそう言いながら、ベッド脇の小さなテーブルに置いてある眼鏡を取ってもたもたと掛ける。

テーブルには黄色い花が飾られた花瓶と水の入ったコップが置かれていた。

「殺人事件が発生したって言ってるだろ!さっさと服着て準備して!」

説教からの用件を手短に伝えるとトーヤは慌ただしくバタンとドアを閉め、事務所に降りてソファーに引っかけている背広を取るとぱんとしわを伸ばして袖を通す。

そして背広を仕立てた時に揃いで買ったハンチング帽を頭に被った。

初投稿になります。本当は別の場所で発表予定の作品だったのですが、作者が小説家になろうにハマったため、急きょアレンジを加えてこちらに投稿させていただくことにしました。よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ