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『瞳に映る歌』すぴんおふ   -お友達編-

 私の名前は『長谷川はせがわ かなで

 聴覚支援学校高等部の2年生。

 ふたご座生まれで血液型はB型。


 『かなで』って名前は私がまだママのお腹の中に居る時からもう決まってたみたい。

 楽器が好きなパパが将来一緒に演奏をしたいからって理由で考えてたんだって。

 でも生まれて間もなく、私の耳はほとんど聞く事が出来ないって分かったの。


 パパは凄く悲しんだらしいけど仕方が無いわよね、私ってあわてんぼだからきっと生まれる前に神様の所に『音』を置き忘れて来ちゃったんだと思うの、ごめんねパパ。


 性格は自分ではよく分かんないけど、人からは『ちょっと大雑把だけど明るくてサバサバした性格』だって言われる……でもそれって褒め言葉なの?

 ……って言うか、サバサバって何? 擬音? 鯖鯖?

 ……

 よく分かんないけど、まぁ別にいいわ。


 好きな物は苺のショートケーキ、シュークリーム、生チョコレート、豆大福、おはぎ、……とにかく甘いもの全部。

 あとはお花とか縫いぐるみとか、綺麗な物やかわいい物も大好き。

 でもやっぱり一番好きなのは心音ここねちゃん!


 ちなみに心音ここねちゃんって言うのは学校の同級生で幼馴染の女の子。

 すごく優しいんだけど、とにかく真面目すぎてキツイ冗談にはキツイ突っ込みを返してくる子。


 以前雑誌を読んでた時に

『無人島に何か1つだけ持って行くとしたら何にしますか?』

って記事があったから、私は迷わず

心音ここねちゃん!』

って答えたの……そしたら不思議そうな顔で

『何で私なのよ?』

って聞いてくるもんだから

『だって寂しい時には一緒にお話をして癒してくれるし、寒い時にはギュッって抱き締めて湯たんぽ代わりに出来るし……いざとなったら食料にできるし……』

って言ったら叩かれた……軽い冗談のつもりだったのに。


 得意な教科は数学。

 歴史なんかは1から10まで全部暗記しないといけないから嫌いだけど、数学は公式を1つ覚えたら応用で3問くらい解けるから好き。


 苦手な教科は『口話法』

 いくら説明を受けても、何度練習をしても上手く唇を読めないもの。

 心音ここねちゃんは結構得意でスラスラと読んじゃうけど、そっちの方が絶対に変だと思うわ。

 だって日本語の口の形なんて大まかに分けて「あ」「い」「う」「え」「お」の5種類しかないんだもん、舌の形とか、発音の前に上下の唇が軽く触れるとか、そんな微妙な違いなんて分かんないって。

 「たまご」と「たばこ」と「なまこ」なんかもう『はぁ?』って感じになっちゃう。


 怖い物は『暗闇』

 これは怖いって人も多いと思うけど、私の場合、幼い頃は目を瞑る事さえ怖かった。

 だから眠る時も怖くて怖くて一人では絶対に無理だったもん。


 人には『五感』って言って感覚が5つあるみたいだけど、私の場合は『聴覚』が無いから『四感』しかないのよ。

 なのに目を瞑ったら『視覚』まで無くなって『三感』になっちゃうでしょ?

 その『三感』だって、寝る時に何か食べてる訳じゃないから『味覚』は無いし、お菓子を枕元に置いてる訳じゃないから『嗅覚』も無いし。

 残る『触覚』だって枕とシーツしか無いから 目を瞑ったらもうほとんど『無』の世界よ『無』、分かる?

 そんなの誰だって怖くなって泣くのが当たり前でしょ?


 でも保育園に通うようになってから……

 心音ここねちゃんと出会ってからは違ったの。


 いつもみたいに怖いからって先生の前で泣いてたら、心音ここねちゃんが近寄ってきて

『私も怖いからお手々繋ご♪』

 って言って微笑んでくれたの。


 2人で手をギュッと握り締めながらお昼寝をしてると、目を瞑っていてもお友達が傍に居てくれる事を感じられて……

 目が覚めてもお友達が居てくれるって安心感があって……それからはお昼寝も怖くなくなったわ。


 心音ここねちゃんのお蔭で眠る事は怖くなくなったけど、今でも停電なんかの急な暗闇は苦手。

 暗闇に目が慣れないって言うのもあるけど、周りの人達が話してる状況説明とか、逃げている物音なんかが全く分からないから軽いパニック状態になっちゃうのよね。

 手話って目で見る言葉でしょ? だから落ち着いた後でも暗闇だと誰ともお話が出来ないし、これが不安を煽る原因の一つだと思うの。


 だから最近、心音ここねちゃんが始めた指点字は凄く興味があった。

 暗闇でも指だけでお話が出来るなんて考えもしなかったもん。


 だけど心音ここねちゃんって今更ながら凄いと思うわ。

 今回の指点字もそうだけど、人とお話をする為の努力は全然惜しまないから。


 私は口話が苦手であまり読み取れないのと同じように、聞こえないお友達はみんな得意な言葉が違うのよね。

 生まれつき聞こえないのか、音を知ってから聞こえなくなったのか、それだけでも全然違うんだけど。

 日本手話が話しやすいって子も居れば、日本語対応手話の方がいいって子も居る。

 また手話は苦手で筆談の方がいいって子もいれば、文字は覚えられなかったから口話の方がいいって子も居る。

 それが当然の事なんだけど、大人たちはそんな個人の差なんて全く考えないで一つの言葉を押し付けようとするのよね、この意思疎通方法の方が正しいとか、この言葉以外は認めないとか。

 でも心音ここねちゃんは全然違ってて、それぞれのお友達が一番話しやすい言葉でお話が出来るようにって考えてるの。

 心音ここねちゃん自身は日本手話が一番話しやすい筈なのに、日本語対応手話を話したり、筆談で話したり、指点字で話したり……本当に凄いと思うわ。

 

 だから心音ここねちゃんと一緒に居ると凄く楽しくて、癒されて……

 そう、私にとって心音ここねちゃんは『空気』みたいな存在。


 この例えを言うとみんな「存在感のないどうでもいいものって意味なのか?」って勘違いするけど、全然違うから!

 『凄く大切な掛け替えの無い存在』って意味なんだからね。


 そりゃ他にも食べ物やお金みたいに大切な物って世の中にはいっぱいあるけど、仮に食べ物なんかが全部無くなっても何日かは生きられるでしょ?

 それに食べ物やお金なんかは、明日もあるのかな? もしかして無くなったりしたらどうしようって不安になったりもするでしょ?


 でも『空気』って違うわよね? 無くなったら1分も我慢できないもん。


 そんな大切な物なのに……

 無くなったら生きてはいけないくらい大切な存在なのに……

 私の周りにあるのが当たり前で……

 無くなったらどうしようとか、無くならないって信じてるって、そんな考えが頭の中に浮かんでこないくらい私の傍にあるのが当たり前で……それが自然な事で……


 心音ここねちゃんもそう。


 もし居なくなったりしたら悲しくて、苦しくて……生きてはいけないくらい大切な存在なのに、いつも私の傍に居てくれるのが当たり前で……

 居なくなったらどうしようとか、居なくならないって信じてるなんて、そんな言葉が頭の中に思い浮かばないくらい私の傍に居てくれる事が当たり前で……それが自然な事で……

 そんな存在かな。


 でも最近、心音ここねちゃんの様子がちょっと変。

 一輝さんって大学生の男性と出会ってからは私にも見せた事のない表情をするようになったの。


 不器用な心音ここねちゃんは必死に誤魔化してるけど、あれは絶対に彼の事を好きになった態度だと思う。

 本当なら『頑張ってね』って応援しなきゃいけないのに、想いが通じ合えたら『おめでとう』って言ってあげなきゃいけないのに、どうしてこんなにも胸が苦しいの?


 私の恋人を他の女性に奪われた訳じゃないのに……

 女の子同士のお友達なんだから、それぞれに彼氏が出来るのなんて当たり前の事なのに……


 心音ここねちゃんの事は私が一番知ってるって……

 私が一番の存在じゃなきゃ嫌だって……

 そんな考えが心のどこかにある……我侭だな私って……


 こんな事じゃいけないのは分かってる。

 心音ここねちゃんと出会えて本当に良かったって思ってるし、心音ここねちゃんには幸せになってもらいたいって心の底から願ってる……

 だから……

 一輝さん、心音ここねちゃんはあなたに任せるわ。


 だけど一つだけ……

 小さな抵抗かもしれないけど、一つだけ私が一番になるからね。


 そう、心音ここねちゃんに赤ちゃんが生まれた時、一輝さんよりも先に私が赤ちゃんを抱っこしちゃうんだから。

 その目的の為に私は全力であなた達を応援してあげるわね。


 これから私は、この計画を実行するにあたり、その全ての行動や考え……


 を・こ・こ・に・き・ろ・く・す・る………っと。


 よ~し! できた~!



かなでちゃん何やってるの? お昼休みになってからずっとタブレットいじってたけど、調べもの?』

『あ、心音ここねちゃん、調べ物じゃなくて、日記って言うか、ちょっと記録しておきたい事があったから書いてたの』

『記録って何の?』

『ふふ~ん、私のこれからの壮大な計画と野望の記録よ! 全てが叶ったときに自叙伝みたいな物も書きたいから』

『何それ? そんな冗談はいいから本当の事を教えてよ』

『分かった分かった、本当はね~……』

『うん』

『 ひ  ・  み  ・  つ  ♪ 』


…………


 今は言えないけどごめん、でもあなたには本当に感謝してるわ。


 心音ここねちゃん、私のお友達になってくれて……

 私と出会ってくれてありがとうね。


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― 新着の感想 ―
[良い点] とても大切なことを、思い起こさせてくださいましてありがとうございます。 [一言] 柔らかい、優しい文章と、テンポが素敵です。 ありがとうございました。
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