出会い
新たな推理物語が、今、始まる。
南鷺県警のとある部署。少人数で構成されているため、皆が毎日飛び回っていた。
新たに一人の男が、この部署にやってくるーそんな噂が、何処からともなく流れた。
そして、そのうわさは・・・本当だった。
その男の名は菊池輪吉。彼の父は、「推理警察」として、その名を轟かせた、菊池聡だ。その名を出すだけで、皆が敬意を表した。
この三日間、南路県警では、菊池の名を聞かない日はなかった。
この南路県警の中でも、菊池が赴任する予定である部署は、「南鷺署」。どの都道府県警にも、それぞれの地名に”署” がついた部署がある。優秀で、行動力があり、1課から3課までの様々な事件をこなす。その部署に、交番からの人間が赴任するのは、史上初だ。「親の顔色を伺っている」という声も上がったが、どうやら、上からの指令らしい。
そして、運命の4月7日。花形刑事に連れられ、緊張した面持ちで菊池はそのドアの前に立った。そのくすんだ青色のドアを開けると、数々の事件を見てきた、ベテランの刑事たちがいた。
「東町交番から着ました、菊池輪吉です!よろしくお願いします!」
まるで二学期から部活に入部した中学1年生のような挨拶だ。
「奥にいるのが宮さん、手前が光さんその隣が岡さんだ。もう一人若い、確か君と同じ、26歳の女性 刑事がいるが、今は、、、外だな。」
女性刑事?僕と同じ年の?最高じゃないか!以上が、花形刑事が話し終わってから、ドアが突然開くまでの0,02秒で菊池が考えたことである。菊池の心の中は、瞬く間に明るくなった。しかし、この菊池の想像は、ばらばらに崩れ去ることになる。
荒い息遣いとともに、若い女が飛び込んできた。
「大変です!糸町でひったくり事件発生です!」
「うむ、じゃあ早速菊池君に行ってもらおう。」
ひったくり?そんな小さな事件に、僕らの部署が携わるのか?交番と同じじゃないか!?
「は、はい、もちろんです。現場はどのような状況ですか?」
「これが資料です。現場に着くまでに読んでおいてください。」
女性刑事は、顔も見ずに口早にそう言うと、そそくさと出て行った。なんなんだあいつは。菊池は顔を(もちろん心の内だけで)しかめた。花形刑事は、それを察したかのように言った。
「すまんな菊池君。あいつにはせっかちな部分があるんだよ。」
「大丈夫です、花形刑事。平気です。平気です。本当に。」
菊池は慌てて弁解した。人間、心の内が読まれると慌ててしまうのだ。
「それからー」
と、花形は続ける。
「この部署では、~刑事や、~警視と相手を呼ぶのはナシだ。慣れないとは思うが、まあ、がんばってく れ。あ、引き止めて悪かった。ほうら、行って来い!」
その声に蹴飛ばされたかのように、菊池はドアの外に出た。
「わっ!危ないじゃないですか。」
ドアの外では、女性刑事が待ち構えていた。
「遅い。」
「待たせてしまってごめんなさい。あ、初めまして、菊池です。よろしくお願いします。」
女性刑事は一言、よろしく。とだけ言うと、車に乗った。
本当に何なんだ、あいつは。本当に同い年か?サバ読んでんじゃないだろうな?と、菊池は考えていた。何で助手席に座らないんだ。隣に座ると、プレッシャーが…。
ふいに、女性刑事がこちらを向いた。
「菊池さん、私は年齢は偽っていませんので、変な詮索は止めてください。全部顔に出てます。」
「すみません。」
「謝った時点で、認めたことになりますよ。それと、資料、早く読んでください。」
「は、はぁ。」
なんて最悪な出会いなんだろう。菊地は心の中で、大きなため息をひとつ、吐き出した。