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「じゃあ私が魔法少女役をするから、お兄ちゃんは魔法少女を捕まえようとする悪役をしてね!」

「なんだよ、俺は悪役かよ」

不満そうな声を出しながら、微笑む俺。

「だって二人とも魔法少女で相手がいないとつまらないじゃない!」

「そうだよな、そうだよな」

十歳離れた妹に、納得したように頷く俺。

「じゃあ開始ね!魔法少女みらくるびーむ!」

「おお、なんの負けてたまるか!」

必死に悪役を演じるのだ。自分自身が悪役だと隠すために。

「お兄ちゃん悪役なのに強すぎ!全然倒せないじゃん!」

「ゲームなんて倒せない位がちょうどいいんだよ」

悪役は全然倒れない。必死に善者に戻ろうとしても、必死に泣き足掻いても悪役は前者にはなれやしない。

「よーっし、これでとどめだぁ!」

「ぐわぁ」

そして倒れた後には何も残らない。残るのは、死だけだ。

魔法少女にやられた俺は倒れて青い空を見つめる。雲一つない青い快晴。

妹がこちらに駆けて来る足音が聞こえてきた。

「お兄ちゃん、白熱の演技だったね」

妹がちょこんと俺の横に座る。

「お前に言われたきゃねえよ」

そして妹は恥ずかしそうに笑った。

「お兄ちゃん、もし私が本当に魔法少女だったらどうする?」

「まずは雑誌記者に売りさばくかな」

ジョークで言ったのだが妹は本気にしたらしく、俺を真っ青な表情で見つめてきた。手を軽く振って誤解を解く。

「一緒に、旅に出たいよな。二人で、二人だけの住家を探す旅にさ」

「…うん」

妹が泣きそうな表情だったので身体を起こして頭を撫でてやる。

「いつか会えるだろ。連絡は取り合えないけど、いつか会える」

「お兄ちゃん、死んだりしたら嫌だよ?」

「自殺…か。…考えておくよ」

「…え?」

「嘘嘘、嘘だよ。一応大学には入れるんだし、後は住む場所さえ見つけれたら良いんだから死ぬほど切羽詰まってるって訳でもないよ」

そして平然と嘘をつく。大学は決まっているのだがこれからの住む宛てが全くないしまずお金もない。

生きるためには、ホームレスか居候しかないのだ。

「まあお兄ちゃんがすぐに住家が見つかることを祈ってる。じゃあまたね、お兄ちゃん」

そう言い残して妹は駆けて行く。

ゆっくりと小さくなっていく背中に手を伸ばしたが、すぐにその手は力無く落ちた。

そして一人残される。

小さな世界に、俺は一人。

誰もいない。誰も助けてくれない。

ただ、俺に見えるのは目前の死のみだった。

「サヨナラ、古稀唖」

見えなくなった妹に向けて口を開く。勿論返事は返って来ない。

それでも十分満足だった。

「魔法少女、か」

立ち上がり、歩き出す。先が見えなくても、足掻こう。

足掻ける限り足掻いて、もがける限りもがいて、死ねば良い。

死にたくない、なんて今更思わない。

しかしまた孤児に戻ってしまった。あの時と、同じだろうか。

奥歯を噛み締めて生きた、あの頃と。

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