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第5話 一時帰還と初修業

 目を開けヘットギアを取って身体を横に向けると雫の姿はない。煌雅はベットから起き上がりゲーム部屋を出て居間に向かう。廊下から焼いてる音が聞こえ居間の扉を開くと砂糖を加えた甘めの醤油と生姜の匂いが鼻孔を擽る。

「豚の生姜焼きか。」

 食器棚から皿と茶碗を二人分取り出す。

「はい、もう少しで出来ますよ。」

「ホイッ、皿。飯は?」

「いつも通りで。」

 雫に皿を渡してご飯を茶碗に装いテーブルに置く。既にテーブルにはだし巻き玉子が置いてある。冷蔵庫から胡瓜、レタス、ニンジン、玉ねぎ、大根を取り出し雫と並んで適当に切っていく。

「ドレッシングは?」

「兄さんと同じ和風で。」

 答えが返ってくると煌雅はボウルに切った野菜を入れてサラダにし、ドレッシングをかけていく。ボウルと一緒に箸を持っていきテーブルに置いて再び冷蔵庫に。野菜ジュースを取り出し二つのコップに注いでテーブルに着く。

 雫も間もなく豚の生姜焼きを乗せた皿を持ってきてテーブルに着く。

「それじゃあ「いただきます。」」

 ここまでの一連の流れは長年一緒に暮らしている家族故か、それとも二卵性とはいえ一緒に産まれた双子の兄妹故か、はたまたその両方であるが故か、全く無駄がない動きであった。


「それでそっちはあの後どうなった?」

 煌雅が食事をしながら雫に近況を聞く。

「悠真君にギルドまで案内して貰ってギルドに参加してクエストを幾つか請けてみました。ただ『まだテイマー初心者のお前はテイマーの何足るかを知らないだろうから俺がしっかり教えてやる!』とNPCの叔父さんの弟子入りする事になりました。色々な情報も貰えたので有意義でしたね。それから宿を取ってそこでログアウトしています。兄さんの方はどうですか?」


「その前にそのNPCのおっさんはどんな奴だ?」

「下心はありませんね。奥さん一筋の人の良い叔父さんですよ。」

 自分の容姿を理解しているので煌雅の心配事が分かり雫は先んじて答えておく。

「そうか、でこっちは山に行くまで散々魔物に襲われて、山に入ってからも魔物に襲われて、噂の仙女に助けられたけど魔物と一緒に殺されかけて内弟子になった。だから、宿をタダで確保出来た。」

 そう言って煌雅は親指を立てる。

「殺されかけたって?」

雫に山での出来事を説明すると

「兄さんもそうですがそのNPCの仙女さんも大概ですね。」

 主に戦闘狂と言う意味で。言葉にはしないが自分の事を理解している煌雅は雫の言わんとしている事が分かった。

「まぁ、その師匠が驚いた時の反応は面白かったな。」


 それは師匠の家に入る時の事だ。

「お主もここに来るまで疲れたろ。今日は仙女の湯浴みをしてから寝るとしようぞ。」

「仙女の湯浴みって普通に風呂に入るのと違うのか?」

「そう大差はないぞ。ただ風呂に使うお湯を薬湯にするだけじゃからな。それと浸かってから暫く出られないくらいじゃ。これは身体の気の巡り或いは魔力の巡りをより円滑にする為の修業の一環じゃ。ただ入るのではなく流れをしっかりと把握し効率良く引き出す練習じゃ。常に【練気】か出来れば【纏魔】を張って行うのじゃ。それじゃあ湯浴みに向かうぞ。」

「あぁ。」

 麗華の後を付いて行くと結構な広さの浴場に着いた。風呂は三つ有り、一つは10人くらいは入れる広さの物でこれは普通の浴場であり、他の二つは別室にあるようでその内の一つに入った。


 その風呂は本当に一人がゆったりと入れる程度の広さの造りで浴場自体も狭い。風呂の中を除けば6人しか入れないくらいだ。如月家の浴場は広いが、一般家庭の浴場ぐらいの広さだろう。

「良し!脱げ!」

「オレに露出癖はないぞ。」

「何を言っておる。同性相手に露出癖も何もなかろう。」

 麗華が手をワキワキさせながら近づいて来る。

「そもそもオレと師匠は同性じゃないから。」

 そう言ってミヤビは上半身だけ服を脱ぎ始める。上半身を真っ裸にしたミヤビを見て麗華はオロオロし始める。

「お主!そんな成りして男かや!」

「だからそう言っただろう。」

「なっ、なんと面妖な。こんな男がおるのか。」

「なかなかの美少女に見えるだろ。」

 口角を上げて言うと。

「ええい、五月蝿い!これを貸すから薬湯を入れるまで服と身体の汚れを落として待っておれ!」

 顔を紅く染めた麗華からタオルのような物を2枚と石鹸を渡されミヤビは浴場から追い出された。守人でもないのに何処から取り出したのか。


 服と身体を石鹸で洗うのは良いとして現実で髪を石鹸で洗うと髪がゴワゴワするのだがこっちではどうなんだろうか。

「やれば分かるか。」

 そんな軽い気持ちで乙女の大事な髪を洗う。見た目美少女でも中身は男なのであまり気にしないミヤビであったが元々の仕様なのか石鹸の効果なのか知らないが洗ってもしっとりしてるし、心なしか美少女度がアップしてる気がする。

「ホレ、ミヤビ薬湯が出来たぞ。」

「はいよ。」

 麗華に呼ばれミヤビは再び浴場に入る。

「布はそのままで構わぬ。とりあえず【練気】か【纏魔】を使ってから入れ。」

 ミヤビは覚えたばかりの【纏魔】を使う。ステータスを見ると【練気】よりはMPの消費が少ないらしい。【纏魔】は一度の攻撃に知力の一部を攻撃力に上乗せする方術らしい。コストパフォーマンスが悪いようだ。言われた通り入ると身体の力が抜けていく。

「これ!意識を保て!気を外に漏らさず体内で廻すのじゃ。」

 麗華の声にミヤビは意識を引き戻す。とりあえず全身に力を入れ、今の状態を保つ。

「そうじゃ、今は力を入れ気を張るのじゃ。この薬湯は意思のない気を奪う物、そこから先ずは自分の気を感じるのじゃ。」

「師匠、漏らさずってどういうイメージですか?」

 苦笑気味に助言を求める。

「己が身体を気で蓋をする事かの。」

 麗華の言葉にミヤビは考える。

(今のオレは恐らく全身から気を外に出しているだけで留めるに至ってないのだろう。自分の気か…先ずは抜ける感覚を見付けるか。)

そしてミヤビは右手の意識を切った。

「何を!?」

麗華は手を伸ばしかけてミヤビの真剣な表情を見て手を引っ込めた。

(何か試しておるのか。)

 ミヤビが意図的に右手の意識を切った途端右手の力が抜けていき、また意識を繋げると右手に力が戻る。そして感覚を確かめるように手を開いて閉じてと繰り返し、再び意識を切る。ミヤビはステータスのMPを確認しながらこれを繰り返している。そしてもう一つ考える事があった。

(そもそも何故【纏魔】を会得出来たのか。)

 それについてミヤビは今の修業の中で自分なりの答えを見付けていた。

 一つは麗華の攻撃が【纏魔】かそれを派生させた技であると言うこと。それを目の前で見せられて何かを感じたのだろう。

 そして二つ目、最初は足も使って身体ごと避けながら麗華の攻撃を捌いていたが徐々に馴れて腕と上半身だけで捌くようになっていた。【練気】を使いながらやっていたので捌く時、弾く時の軽い所、重い所をが分かるようになりそれに合わせて自分で捌きの強弱を付けていたのだと考えている。

(気は見えなくとも同じ気をぶつければ身体で感じる事が出来る。それも踏まえて考えると目に気を集めるとどうなるんだ?)

 ミヤビは湯に浸かっている身体はそのままに浸かっていない顔から目に気を集めてみる。するとあやふやでぼやぼやしてるが自分の身体を覆うものが見える。

(いきなりそこに思い至るか。)

 麗華はこの修業で気を纏う感覚を覚えれば良いと思っていたが気を纏う事による副次的効果を見付けた事に驚いている。

 そしてもっと驚いている事は目に気を集めていながら身体に気を纏っている事だ。多くの者はこれに気付くと目に気を集中するあまり他の気を抜いてしまう事が多いのだ。と言うか麗華自身初めがそうであった。

 その光景を見ている麗華の頬も思わず緩む。今までも入門希望者はいるにはいたが種族としての強さばかりで大した技術もなく入門するに至らず、仕方なしに技術を叩き込む所から始めるも付いてこれた者はおらず無駄に自身の力を付けていたのだが。

(漸くまともな弟子に巡り会えたかの。その上こやつは優秀じゃし儂の力の全てを教えられそうじゃの。)


 ミヤビは気が目に見えるようになって自身の状態を見る。気は不定形で身体を大きく覆い明らかに無駄があることが分かる。気の感覚を掴めていないが目に見える以上ここから掴めば良い。

 全身に入れてる力を抜いていく。目に見えて覆っている気が小さく成っていき全身を厚さ2、3cmで気を留める。そしてその分を目に集めていくと自身の身体の中の状態が見える。身体の中心から全身に駆け巡る気の流れ、これは血の流れと変わらない。中枢が身体の中心か心臓かの違いしかない。

(後はこの気を意識して…)

「そこまでじゃ。」

 気を覆おうとした所、麗華がミヤビの顔を両手で挟んで呼び止める。 突然の事にミヤビは困惑する。

「師匠、どうして?」

「気が枯渇しかけておるよ。」

「えっ?おっ、本当だ。途中から気が付かなかったな。」

ミヤビがステータスを見るとMPが残り僅かであった。

「今は儂が気を譲渡しておるから早く出てくれないか?」

「それは済まない。」

 ミヤビがすぐに薬湯を出ると麗華は顔から両手を離し浴衣のような服と布を取り出してすぐ近くの棚に置く。

「これから毎日寝る前はこれをやるからの。外で待っておるから着替えたら出てくるのじゃぞ。」

 麗華はそれだけ言うと浴場を出る。ミヤビは布で身体を拭き服を着て浴場を出る。

「師匠、洗った服を乾かしたいんだが何処に干せば良い?」

「それも含めてこれから案内するわい。その前にほれっ。」

 麗華がミヤビに近付いて髪に触れると髪の水気が吹き飛んだ。髪を乾かしたらしいが…

「服も一緒にやっても良かったんじゃないか。」

「甘やかし過ぎは良くないからな。ほれっ、付いて参れ。」

 ミヤビが案内されたのは母屋の一室程よい広さで机や椅子、タンスに棚、ベットまで置いてある。母屋を出て廊下を挟んだ隣は庭に見られる。

「お主の服はそこに干せば良いじゃろう。物は置いてあるからの。」

「分かった。」

「それでは今日はもう寝るが良い。お主が思っとるよりも疲れておるだろうからな。お休みじゃミヤビよ。」

「あぁ、お休み師匠。」

 麗華は来た道を戻り、ミヤビは服を干してから部屋に入りすぐにベットに入る。

(別れてから4時間が経っているから現実では12時40分前後か。戻って昼飯だな。)

 そしてミヤビは現実に帰還する。



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