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第12話 滝行

「今日からしばらくは滝行じゃな。」 

 朝食前の狩りでミヤビの種族レベルが上がり、朝食を摂っていると麗華が今日の修業内容を良い言い出した。

(これまた古典的な修業だな。退屈なんだよな。)

 如月家でも精神修業の一環で毎年やっている事であり、煌雅も雫も経験がある。その気になればすぐに集中出来る煌雅は動かず滝に打たれるだけの修業にあまり意義がないと思っている。

「詰まらなさそうな顔せんでも普通の滝行にならんから楽しみにしておれ。」

「はは…」

 表情に出ていたらしく麗華に指摘され苦笑するミヤビであった。


 朝食を終えてミヤビが連れて来られたのは拓けた温泉であった。

「もう今日の修業は終わりなのか?」

「そんな訳なかろう!ここではなくこの上の方じゃ。」

 ミヤビは冗談をツッコまれ、麗華に付いて温泉の元を辿って登っていくと滝が見えた。幅は4、5メートル高さが20メートルくらいになるだろう立派な滝である。

「今日の修業はここで滝行じゃ。自然と一体化する感覚を知ってもらうぞ。」

「いや、無理でしょ!こんな温泉じゃ熱すぎて人じゃ入れないでしょ!」

 ミヤビの言う通り源泉に近いこともあって熱すぎるのだ。滝を落ちて来て温度が下がっている筈なのにそれでも尚、人が入るには熱すぎる。

「そのまま入る訳なかろう。」

「だよな。」

 誰であろうと入れば間違いなく火傷する温度だ。このまま入る訳ないとミヤビが思ったところで、

「温泉が汚れるから服は脱ぐのじゃぞ。」

「そこかよ!」

 思わず突っ込むミヤビであった。

「服を脱ぐのは本当じゃがそのまま入らせる訳なかろう。入る前にこれを飲んでもらう。」

 麗華が差し出したのは紫色と赤色の丸薬である。

「何ですか?これ?」

「今回の修業でしばらく必須の感魔の丸薬と耐火の丸薬じゃ。」


感魔の丸薬

 仙人が修業で用いられる紫色の丸薬。使用者に自然の魔力を鋭敏に感じる効果があり、僅かだが使用者の魔力・体質を変質させる。日に一度のみ使用可能。持続時間は製造者の技量による。効果重複は不可。


耐火の丸薬

 使用者の火・熱に対する耐性を一時的に上げる赤色の丸薬。持続時間は製造者の技量による。効果重複は不可。


 鑑定して見ると麗華の言ったことが分かる。耐火の丸薬がないととても修業にならない。

「感魔の丸薬の意味は?」

 ミヤビが率直に聞く。

「耐火の丸薬だけじゃただの滝行じゃからこれを経験して儂ら仙人が扱う仙術の基礎を教えようと思ってな。先ずは自然の魔力を感じ取ってもらう。これを自然に出来るまでは丸薬を飲んで滝行を続けるからの。」

「分かった。」

 自然の魔力を感じる為に自然と一体化すると言うことなのだろうとおおよその修業の見当が付くとミヤビは麗華から2つの丸薬を受け取り口に含んで飲み込む。

「苦っ……」

 それだけ言葉を溢すとミヤビは服を脱ぎ始める。勿論武器も外して。

「変質者にする気はないから下は一枚だけは構わんぞ。」

「元々そのつもりだ!」

 麗華に突っ込みつつ上半身裸のミヤビが熱湯に向かう。その最中感魔の丸薬の効果がハッキリと見えた(・・・)。足元の地面は黄色に、周囲は緑色と所々に小さく赤色と青色に、温泉は赤色と青色に混じって黄色が少し、そして滝は赤、青、緑、黄色がほぼ均等にミヤビの目には見えている。

 流石に最初はおっかなビックリで温泉に足を付けていたが耐火の丸薬が効いて思ったより熱くないようで滝の元まで浸かっていく。滝の下はミヤビの腰まで浸かった。

 上から落ちてくる熱湯が物理的に地味に痛いがステータス上でHPが減っていないので問題はない。ミヤビは目を閉じ自然体で滝に打たれる。


「それじゃあ儂も準備するかの。」

 ミヤビが滝行に集中するのを見て麗華は更に上に登っていく。登る途中で倒木を集めて一纏めにする。

「本来は自然体で滝に打たれて感魔の丸薬の効果に任せるのじゃがお主には特別メニューじゃ。」

 麗華は独り呟いて倒木を片手で持ち温泉の水面を歩いていく。そして一つの倒木を幾つかに別けて輪切りにして温泉に浮かべていった。


 ミヤビは自然体の感覚に身を委ねている。魔力に関する感覚が鋭くなって落ちてくる滝にと一緒に自然に溶けていくように感じる。

(これが自然との一体化なのか?)

と考えると危険感知が反応した。

(場所は上!?)

 ミヤビは勢いよく上を見上げるが滝の温泉が目に入る。

「いてぇ!」

 ミヤビはもがくが見上げた甲斐もあり滝から落ちてくる物をしっかりと見ていた。

(流木と言うには形が整いすぎだし、切断面が新しい。倒木を切って流してるな。これも修業ってか?いいぜ!)

 落ちてくる倒木を避けると自然体ですぐに集中する。断続的に落ちてくる倒木を感覚で避けていく。

(親父にも同じことやられたな。)


 それはすぐに集中出来てしまう煌雅に対する父親の緊張感を持った修業の苦肉の策であったがこれもすぐに対応されてしまっていた。だが、煌雅の退屈を紛れさせるくらいにはなっていた。


 だが、この修業にも終わりが見え始めていた。

(なんか熱くなってきたな。)

 最初は顔からそして徐々に下へと熱量が上昇しているように感じていた。

「そろそろ上がってこい!丸薬の効果が切れるぞ!」

 いつの間にか近くに来ていた麗華の声でミヤビは温泉からあがる。温泉が熱く感じていたのは丸薬の効果が切れ始めたかららしい。そして麗華があがったミヤビを隅から見ていく。

「ふむ、問題なさそうじゃな。ほれっ、体を拭いたら着替えて昼飯じゃ。」

「その後も同じ?」

「いや、あの丸薬は日に一回しか使用出来ないから無理じゃ。」

「あぁ……」

(そう言えばさっきの鑑定にそう表示されてたな。)

「じゃから道士らしく少し純粋な方術を教えるかの。」

「今までのヤツは何だったんだ?」

「無属性自己強化型じゃの。昼から教えるのは属性近接型の方術じゃな。では戻るぞ。」

 二人は家に戻っていく。

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