第9話 運命の出会い?
ミヤビは道の真ん中で腕を組み、首を傾げて悩んでる。
「ん~、錬金術ギルドって何処だ?」
鍛冶屋を飛び出したは良いが目的地の場所を知らなかったのだ。そこら辺のNPCに聞けば直ぐに分かるだろうが色々な場所を自分の足で歩いて覚えるのも冒険と言うものだろうとも考えていた。ある意味しょうもない葛藤を巡らせてると不意に声が聞こえてきた。
「やめてください!」
「別に良いだろう俺達とクエストくらい。」
「アンタ達と組むつもりないわよ!今は二人で色々やってみたいから邪魔しないで!」
「二人より四人の方がクエストが捗るだろ?」
「そう言う問題ではなく、二人の限界を知る為のパーティだから手出し無用です。」
聞いている感じだと男二人が女二人をパーティ勧誘もといナンパしているのだろう。少し開けた場所で白昼堂々とナンパする勇気は買ってやりたいが相手が断ってる時点で止めるべきだろう。
(見てても面白くないしな。とりあえず助けるか。)
「ちょっとこんな通りで立ち止まられると邪魔なんだが退いてくれないか?」
ミヤビが面倒臭く男達に言う。
「何だ?これまた獣人の良い女じゃねぇか!アンタも一緒にクエストやらないか?」
早速ミヤビに食い付いたナンパ男がミヤビを誘う。
「生憎待ち合わせしてるんだ。他を当たってくれ。アンタ達もこんなのに構ってないでさっさと行きな。」
「おいおい、俺達を相手にこんなの呼ばわりとは言ってくれるね。」
ミヤビの簡単な挑発に引っ掛かる。
「まだゲームを開始したばかりで大して強くもないのにナンパに走るなんて馬鹿がやることだ。」
更に煽って此方に注意してくれれば女の子の方も逃げられる時間ぐらい稼げるだろう。
「へぇ、腕以外の防具が初期装備のくせに随分なこと言ってくれるねぇ。」
「アンタ達みたいに既存品じゃなくてさっき仕立屋に素材渡して頼んだばかりだから仕方ない。明後日には出来上がる予定だしそれまでにやれる事もあるしな。」
「この辺の素材よりも既存品の方が性能が良いのを知らないのか?」
「掲示板は基本的に見ないから知らんし、装備が良くても使い手がカスじゃ意味がないだろう。」
ミヤビは口角をあげて言う。
「人が下手に出てれば良い気になりやがって!」
「別にやりあうのは構わんが来るなら二人同時に来いよ。じゃないと相手にならない。」
目の前の男二人に決闘申請する。
「カッチーン。流石に我慢ならないわ。じゃあ行っちゃうか?」
決闘を受諾した男二人が武器を取る。一人はオーソドックスな剣と盾、もう一人は短剣二本を抜いて構える。
(どう見ても素人に毛が生えた程度だな。試し斬り出来るか?)
ミヤビは背の斧を抜き、柄の中間を持って構えて言う。
「来いよ。遊んでやる。」
「もう許さねぇ!」
剣を持った男が早速斬りかかる。現実の高校生の部活で鍛えた一般的な剣道と同程度の速さだ。だが、ミヤビにはそれでも遅く見えている。
ミヤビの左肩を狙う袈裟斬りを【纏魔】を使った足で手首を狙って腕ごと蹴り飛ばす。男は手首を押さえて呻く。痛覚の設定を高くしていたようだ。
「狙いは良いがそっちの男に気をとられて反応が遅い。」
蹴った直後、ミヤビの死角を突くように短剣の男が迫るが斧を一振りするとすぐに後ろに跳んで距離を取る。その代わりミヤビの一振りは呻いていた男の盾に直撃し、盾ごと腕を両断し、着ていた革鎧もなかば斬られて体を吹き飛ばされた。
「マジ何なのお前?」
避けた男も躱しきれなかったのか革鎧に斬り跡が残りHPバーは四分の一減っている。
「リアルで始めて数時間のただのプレイヤーだよ。どうする?続けるか?」
呻いていた男はHPが残り数ミリの既に死に体で短剣の男も残り四分の三。
「いや、こうも一方的にヤられてたら俺等の負けっしょ。」
男達はリザルトを選択するとミヤビの方にWINの文字が表れた。すると呻いていた男は斬られた腕が元に戻り、壊れた盾と斬られた革鎧も元に戻った。短剣の男も斬られた革鎧の傷が直った。
「そんじゃ俺等はクエストに行ってくるからじゃ~ねえ~。」
短剣の男は手をヒラヒラさせてもう一人と一緒に歩いてその場を立ち去った。
「そんじゃオレも行くか。」
それなりに大きい場所だったので観客が結構多い。見世物でやっていた訳ではないのでさっさと立ち去るのが吉である。
それに麗華との待ち合わせの錬金術ギルドを探さないといけないので歩を進めようとするが。
「あの!」
ナンパされてた女の子の一人が声を掛けてきた。
(逃げてなかったのかよ。)
時間稼ぎの決闘でもあったのにそんな意図を知らず残っていたらしい。
「何だ?」
「助けてくれてありがとうございます!アタシはカリンって言います。竜人で職業は騎士です。」
話し掛けてきた女の子は紅い髪をストレートに伸ばして後ろで一束にまとめたポニーテールで身長はミヤビより少し低い163cmくらいのスレンダーな体型で如何にも体育会系な感じの清々しい美少女である。種族は竜人のようで手の甲や首、肩も髪と同様に紅い鱗があり耳も少し尖っている。
初心者装備でない茶色の革鎧やブーツなどを着けているが一番気になったのは何故か二つの鉄の盾を背負っている事である。
「そしてこの子がスイです。」
カリンの後ろにいた子が前に出る。
身長はカリンよりも更に低い153cmくらいで翠色の髪を肩辺りまで伸ばしたショートヘアでさっき助けた時と表情がほとんど動いていない。だがそれでも可愛らしい顔である。それにその身長に不釣り合いの雫以上のたわわな果実が胸部に実っている。
黒いローブを着ていても強調される胸は置いといてローブを着ているので魔法職だと思うのだが何故か槍を持っている。
「はじめまして、スイと言います。人間で職業は魔術師です。先程はナンパから助けていただきありがとうございます。えっと……」
「ミヤビだ。見ての通り狼人で職業は道士。」
名乗ってなかったので素直にミヤビは教える。
「ミヤビさんはVRMMOをよくやるのですか?」
「まぁ、よくやってるのか?今までのは感覚のズレが気になって少しやってすぐにほっぽり出しちまったがな。」
「その喋り方は地ですか?」
この質問がミヤビの悪戯心を燻った。ミヤビの声は女性と間違えられるくらいに男性にしては高い。スイは女性が普段からこのような喋り方はしないと踏んでキャラ作りをしているかと遠回しに聞いているのだ。
このゲームでは身長を変える事は少ないので答えによっては社会人か学生か判断が搾られる。
「どうだろうな?ちなみにスイとカリンから見てオレは年下に見えるか?」
「見えません!」
「同じく。でも現実の年が気になります。」
(これまたストレートに聞くな。)
学生くらいなら年齢を気にせず素直に答えるだろうが社会人の女性なら年齢を気にする人もなかにはいる。同じ女性なら抵抗も少ないだろうが。
「これまたどうしてだ?」
「その対人戦闘スキルです。」
「そんなスキル持ってないぞ。」
「いえ、この場合のスキルは現実での技術です。戦い慣れているように見えましたので武術関係の部活を経験していたか、普段からそういう仕事をしているのか気になったのです。」
「分かった、降参だ。まぁ、年は二人とそう変わらんさ。今年卒業だからな。」
「やっぱり先輩なんですね。私達は去年入学したばかりですし、就職もそちら関係何ですか?」
この質問でミヤビは二人との差に気が付いた。
(大学生だったのか。確かに一年しか違わないがオレも年下だと思ってたからな。)
「いや、仕事はもっと楽だ。(大学生だから)ある程度出て(出席して)重要な仕事(試験)をこなせば良いからな。後は身体を鈍らせないように(自主的に)するだけだから楽な仕事だ。っとそれよりも錬金術ギルドの場所を知らないか?そこで待ち合わせしてるんだ。」
悪戯心に揚々と話したミヤビだが目的を思い出した。
「知ってますけどその前に…」
「アタシ達とフレンド登録してください!」
そしてミヤビは二人とフレンド登録をして錬金術ギルドに走って行った。
「ものすごく綺麗な人だった。」
ミヤビの後ろ姿を思い出しスイが言葉を溢す。
「うん!それにあの強さアタシもびっくりしたよ、一方的に撃退しちゃうなんて。今度からミヤビ姐さんと呼ぼう!」
一人興奮するカリンだが現実は一年しか変わらずしかも上下が逆だ。勘違いで四年差出てしまっているが。
「私達でも決闘ならあの程度のナンパ男は撃退出来たけど人の悪意に堂々と立ち向かえる勇気も凄かった。」
「あの顔だからナンパ慣れもしてたと思うけどね。」
この二人がナンパ男の撃退を断言するのもミヤビ同様に只の女子大生ではないからだ。
カリンこと桜庭花梨は昨年の高校生女子空手全国大会個人戦の優勝者。今年の全日本学生空手道選手権大会個人戦8位に入った期待の新人一年生である。
スイこと橘翠は昨年の高校生女子薙刀全国大会個人戦の優勝者。今年の全日本学生薙刀選手権大会個人戦3位に入った期待のホープである。
武術の心得がある二人が只のナンパ男に負ける要素はない。只それは一対一での話だ。現実での試合は必ず一対一でしかやらないので一対多数の状況にならない。二人くらいならどうにか出来たかもしれないが。
だがミヤビは先程の決闘で一対二であってもカリンとスイをナンパ男の視界に入れないように自分の背と大きな斧を盾にして意識を自身に向けるようにしていた。たかがゲームでそこまでやるのは誰かを護る意識が常にある証拠でもある。その上で圧倒的な勝利。
ゲームが開始されたばかりでほとんどレベル差がないからこそ分かるミヤビのリアルでの戦闘技術の高さにスイは驚愕した。たった数度の攻防であったがスイとカリンを同時に相手にしても勝てるイメージが湧かない。
「でも、あれだけ強い人を大学で見たことない。」
「あの蹴りは明らかに空手の領分だったけど剣を振り下ろすより正確で速かったね。途中までしか目で追えなかったよ。」
幼馴染みであり同じ武を知る者として他の武術競技にも興味を持ち動画で試合を観たりすることがあるが上に行けば行くほど両者の実力が拮抗していき僅かな差で勝敗が出る。
だが、ミヤビの強さは二人から見て明らかにそれらの上を行くものであった。
「圧倒的で思い出したんだけど男子空手部のコーチがはしゃいでたんだよね。」
「そう言えば女子弓道部のコーチもそうね。何で?」
「今年うちの大学に『武帝』と『皆中姫』の入学が決まったそうだよ。後、男子剣道の『剣貴』も入学するって聞いたよ。」
『剣貴』氷室悠真は今年こそ怪我で全国大会は準優勝だったものの去年、一昨年は優勝した強者で気さくな性格と甘いマスクで女子の人気が高く、まさに『剣道の貴公子』と呼ばれる所以の有名人である。
それを上回る有名人が『武帝』と『皆中姫』である。
『皆中姫』如月・K・雫は綺麗な黒髪と蒼い瞳で容姿端麗、スタイル抜群の完璧なプロポーションを誇り高校の全試合を皆中させるという離れ業をやってのけた天才である。全国大会の団体戦後のインタビューでも仲間のメンバーが練習で外した所を見たことがないと言うくらいだ。高嶺の花だが性格が悪い訳でもなく男女共に人気が高い。
そして、更に有名なのが『皆中姫』如月・K・雫の双子の兄『武帝』如月・K・煌雅。中学から高校まで出場した空手道の全大会を一点も取らせず優勝を欲しいままに取った天才が霞むほどの正真正銘の怪物。ロシア人とのハーフ故の銀髪と蒼い瞳で容姿は妹と同様に整っており女子からの人気が高い。最近日本代表に選ばれたが海外遠征には全て辞退すると言う変わり者でもある。噂では日本代表同士で対戦したが彼に勝てる者が出なかったと言う。
更にコアなファンの話では彼は空手に限らずどの武術にも精通しており、あらゆるスポーツも怪物並みの強さがあるとのことだ。
この三人が同じ高校に通っているのも有名な話でありその三人が同じ大学に進学するとなるとその三人が所属する部活の戦力は上がり、大学にとって間違いなくプラスになる。
「会うのが楽しみ?」
「それはね、アタシだって空手部だし実力者を身近で見てみたいと思うよ。」
「そうだね。でもとりあえず私達も行こう。」
二人の通う私立 神帝大学は全国的に偏差値が高い大学であり近年はスポーツにも力を入れて成績優秀者をスカウトしている。
煌雅達がこの大学を選んだ理由は分かりやすく家に近い中で一番有名な大学であった、ただそれだけであるがこの出会いが現実とこの世界を変えていく切っ掛けとなった。