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ビスミルティファミリー拡大

小説のタイトルを変えました。



 コロシアムではあり得ない熱気に包まれていた。観客は各々が投資、もとい大金を賭けている剣闘士達がこれから行うであろう命懸けの戦いを今か今かと待ち焦がれている。人間の命を何だと思っているのかと狂気じみた催しに対し批判的な意見を心の中で呟くアキトだが、そういう自分は大した躊躇いもなく人間の命を奪ってきているのだと思うと、複雑である。


 今回は一般席ではなくボスと共にvipルームからの観戦である。ボスの両脇を固める形でアリアと俺が座っている。アリアは一体どういう感想を抱いているのかと気になり顔をさりげなく見るのだが、特に表情を変えずにコロシアムを眺めている。残念ながら表情から内心を読み解く事はかなわなかった。




 しばらくして、電光掲示板にトーナメント形式の組み合わせが映し出される。この戦いに金を賭けている貴族連中はこれを見て一喜一憂しているのだろうな。そういえばウチのボスも金を賭けていたなと考え、今度はボスの顔を見るとタバコを咥えて、何やらタブレットのような物を操作している。大金賭けたとか言ってたのに興味なさすぎだろ。と心の中で呆れる。


「俺は奴が勝つと確信しているからな。」


「!?」


 自分の心を読んだようなセリフに目を見開いていると、横目で俺を見てニヤっと片方の口角を持ち上げた。図星だな。と確信している顔だ。聊か憎たらしいと感じた。



「それにだ・・・・・・博打ってのはドンと構えてる奴のとこに運が流れて来るんだよ。こんな事でジタバタする小物にゃ博打の神は微笑まねぇ。」


 そう言うと、タブレットをカバンにしまう。タバコを灰皿でもみ消すと、足を組み堂々とした態度をとる。それを見ていて面白くない他の貴族連中が陰口をたたくが、どこ吹く風といった様子だ。


「そうですかい。俺は博打じゃなくて俺のやる事をするさ。」



 VIPルームには武器の持ち込みが禁止されている。しかし、俺にはそんな事関係ない。アリアと俺の銃は空間移動でいつでもそれぞれの手元に移動できるよう手配する。

 後は、試合でも優雅に観戦しとけばいいのだが、ボスがこの部屋に入る前に言った言葉が凄く気になる。

「アキト、アリア、決勝戦終わりに備えろ。」

 とかなんとか言ってた。ボスが言う備えろとは、荒事になる可能性がある事を意味していた。しかも、俺にはアリアに武器を渡すという大仕事が控えている。ウチの最大戦力といえど剣無しでは戦闘力はガタ落ちだ。勿論俺とてボスをやられる訳にはいかない。今まで期待された事などなかった生活だったためか、ボスからの期待や信頼は重い、そして嬉しいと感じてしまう。何故だかそういった畏敬の念をもってボスを見てしまう。


 ため息をつき、気分転換がてら今日のオッズを見ると鼻血が出そうになった。なんとボスが大金をつぎ込んだ剣闘士が一位になった場合のオッズがバカ高いからだ。これ100円が一千万になるな。ボスは我がビスミルティファミリーの財布を管理している。幹部に支給されている黒いスーツは恐ろしく値が張るものらしいし、ボスの車もかなりの高級車らしいのだから、いったいその財布にはいくら入っているのか考えると、めまいがする。


「会場にお集まりの皆々様!!大変お待たせ致しました!いよいよ第一試合開始でございます!!!」


 そんなアナウンスが響いた瞬間歓声でコロシアムが揺れた。




 ボスが大金を賭けた剣闘士の名前は、ゴアルというらしい。名前を聞くとゴツい筋肉ダルマを想像するのだが、実際には細マッチョといった印象だ。引き締まった体つきだが、相手を見ると明らかに体が一回り大きい。腹が出ているが、見るからに重そうな、鎖の先に鉄球のついた武器を振り回す姿から脂肪の下にはしっかり筋肉がある事が見て取れる。


 試合開始!という合図とともに動いたのは、鉄球を振り回していたデカブツだった。鈍重な動きが予想されていたのだが、恐るべき瞬発力で鉄球をゴアルに向け投げ放った。かなりの質量をもつ物体が高速で打ち出される一撃の破壊力は凄まじく、ゴアルがいた地面を破壊し爆発したかのような音とともに砂煙を巻き上げた。

 

 客席からはゴアルの即死を確信したかのような歓声が上がった。まぁ俺の目には紙一重で鉄球を躱し、砂煙に紛れるのが一瞬見えた。


「ゴアル殿、やはり素早いな。」


 アリアも称賛を送っている。ま、俺なんかの動体視力より電光石火の如く動き回る彼女の目はもっと多くの情報を捉えているだろうと思うが。



 砂煙の中から鉄球を引き戻すデカブツ。その瞬間「決まったな」とボスが一言つぶやいた。それもそのはず、鉄球を繋ぐ鎖は千切れており、鉄球があるはずの鎖の先端にはゴアルが掴まっており、男の凄まじい腕力で引かれ、結果高速でゴアルが男との間合いを詰めた形となった。

 相手の男が気づいた瞬間には既に勝負は決まっていた。ゴアルは相手の男が作り出してくれた速度を利用し、タイミングよく自身も鎖を引き加速し、かなりの威力を持った回し蹴りを男の頭部に直撃させたのだ。


「ふっ・・・・・・どうやらゴアル殿はかなり戦い慣れしているようだ。」


 楽しそうに笑うアリアだが、戦争の切り込み隊長、百戦錬磨の元騎士が言うのだ。実力は本物らしい。


「アキトとどっちが強い?」


 ボスが余計な質問をアリアにした。俺は勿論興味なさそうな素ぶりをし、全力で傾聴している。


「う~む、スキル無しの戦いではゴアル殿に分があります。」


 落ち込んでなどいない。だって俺はスキルが戦力の大半を占めているのだから。


「しかし、スキル有なら圧倒的にアキト殿が勝っていますね。」


「ゴアルはスキル使ってないぞ?」


「いえ、鎖を切断した際の切断面。腐敗して千切れたように見えました。恐らくそういった毒のようなスキル持ちかと。」


 どんだけ目がいいのだか。しかし内心褒められて嬉しい俺がいる。


「俺は運転手だから関係ないね」


「嬉しいくせによ」


 ニマニマ笑うボスを無視して次の試合に注目する。反論してこない俺に残念そうな顔をしてタバコに火をつけるボス。



 その後のゴアルの戦いぶりは圧倒的だった。スキルなど使わず、攻撃を見切りカウンターを合わせて勝利していく。あっという間に優勝してしまった。会場はまさかの番狂わせに大騒ぎだ。その後、コロシアムのスタッフがボスの元に歩み寄り、アタッシュケースを4つ程持ってきた。すると、ボスが一言「行くぞ。」と言った。

 いよいよボスが動く時がきたようだ。椅子から立ち上がった、と同時に貴族が手を二度叩く。するとガラの悪い連中が10人ほど部屋に入ってきた。刃物や短剣などを構え、威嚇してくる。


「それを置いて立ち去れ。そんな大金貴様にはふさわしくない」


 VIP席で大負けしてた貴族共がニヤついた顔で言い放つ。ボスは見向きもせずに一言。


「今から数秒後、お前は俺に矛を向けた事を悔やむ事になる」


 その言葉が合図だと直感的に悟った。瞬時にアリアが高速で移動し最初の標的に剣を持って切りつける動きをした。俺は全神経を集中させていたおかげで突然何もない所から剣が出現し、敵を斬ったような形になった。あまりに遠慮なしの速度で動くアリアのせいで額に汗が滲むのが分かった。

 そこからは更にアリアの速度は増し、10人中最後の敵がアリアが動いた事に気づく瞬間には、その男も戦闘不能になっていた。

 貴族の側近は慌てて銃を抜こうとするが、それは俺が阻止しなくては、そう思い手元に銃を転移させ即座にゲートを開き、こちらに攻撃をしかけようとする敵全員の脳幹を吹き飛ばした。


 一瞬で地獄絵図と化したvip席に貴族達は、気絶したり、へなへなと床に座り込む者だけが残った。部屋を出る前に、何やらボスが俺に耳打ちしてきた。


「アキト、一言言ってあの貴族ビビらせてみろ。必要な才能だぞ?」


 一応ギルドなんじゃなかったけ?我々は・・・・・・。そんな事を思いながら、アリア、ボスに続きドアから退出する間際に口を開いた。


「次、我々ビスミルティファミリーに矛を向けてみろ」

 

 自分たちが帰ると思って緩みかけた部屋にまた緊張が走ったのを感じ、できるだけ怖い顔を作り、殺気を最大限放出する。


「お前らと、その子子孫孫に至るまで地獄を見せてやる。」


 最後に口角を吊り上げる。すると貴族達は恐怖で顔を青くした。 



 最後にニヤついたのは完全にかっこつけすぎてる自分に恥ずかしくなったために出てしまった。最悪だ超かっこ悪い。そんな事を思いボスの後ろをついて行くと


「お前・・・・・威圧の才能あったのな」

「流石アキト!最後の狂気じみた笑みは私ですら恐怖で冷汗が出たほどだぞ!」


 なんとも言えない悲しい気持ちになった。


 


 そして場所は変わり、ゴアルの檻の前。ボスはゴアルを所有している奴隷商人と話していた。


「約束道り、試合が終わったらコイツは貰っていくぞ。」


「あぁ、だがソイツはお前に災いをもたらすぞ」


「・・・は?」


「そのうち分かる。へっへっへ」


 気持ちの悪い男だなと、ゴアルの檻を開け、コロシアムの出口へと向かう途中、ボスがゴアルに何かを渡して、耳打ちしていた。

 3人で少ししてからコロシアムの外へと出ると呪いの解けたゴアルの部下達がスーツを着て待ち構えていた。どうやらみすぼらしい服を着ていた元リヴァイアサンの身なりが気に食わなかったボスが、お前らのマスターを迎える恰好じゃねぇと言い、スーツを至急したらしい。このクソ暑い気候にも対応できるように魔法が付加された上物だった。これは早々に財務を握る算術に長けた人間のスカウトが必要だた思ってしまった。


「「「ビスミルティ御一行!お疲れさまでした!!マスター!お帰りなさい!!!」」」


 全員で頭を下げてお出迎えしてくれた。ゴアルにも挨拶しているので後ろを振り返ると、ゴアルがスーツを着て合流していた。

 その姿を見て驚いた。アリアも同様のようだ。なぜなら、そこには先ほどまでボロ布で作られた服を着ていた剣闘士の姿はなく、自分達のような真っ黒なスーツを着たゴアルの姿があった。風呂に入ってきたのかボサボサだった髪の毛は綺麗に整えられ、黒髪のように見えるが、光の当たる角度で綺麗な紫色に見える。薄汚れていた顔も綺麗になっている。目には光が宿り、アメジストのように輝いて見えた。よくよく見ると整った顔をしている。少し妬ましい。


「リヴァイアサンの皆、今まで何もできなかった無力な俺のためにすまん・・・・・・我々のギルドは滅びた。そこで俺はここにいるセミオン殿に救われた。この命を捧げるつもりだ。お前らはこんな俺でもまだ付いて来れるか?」


 え?


「「「勿論です!!我々リヴァイアサンのギルドメンバーもセミオン様は命の恩人です。」」」


 おやおや?


「セミオンさん・・・・・・いえ、ボス!それにアキトさん、アリアさん!こんな俺たちですがよろしくお願いします。」


「「・・・・・・ん!?」」


 アリアも俺と同様、事態が飲み込めてないようだった。

少し長くなってしまいました。

お読みいただきありがとうございます。

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