リヴァイアサン襲撃
新たな仲間を見つけたかと思ったが、ボスは何か別の目的があって俺たちに仕事を申し付けた。内容はいたってシンプルだった。
「二人とも仕事だ。アキト、大至急車をまわせ。」
「了解」
だそうだ。インプルな分こちらとしては何が起こるか分からず怖い。とりあえず大至急車を持ってこいとのお達しだ。車内にテレポートをし、急いでボスの場所まで車をまわす。コロシアムでのショーが終わったためか、車道に人があふれている。
歩行者天国じゃないか。車が少ないせいか、クラクションを鳴らしても人海が割れる気配なしだ。やむを得ずボスの目の前にテレポートする事にした。
「さすがウチの運転手は仕事が速ぇな。」
ボスもご満悦なようだ。どういう訳か軽い頭痛だけで車を転送できた。ここ最近でスキルの性能が上がったからかな。
その後後部座席にボス、助手席にアリアが乗り込んだ。ボスが後部座席で何かを操作すると、フロントガラスにナビが映し出されたので、それに従って車を発進させた。
「これから、あるギルドに向かう。いや、乗り込む。護衛よろしくな。」
「お任せください!」
まじかよ。なんで仲間探しの予定がギルドに喧嘩売る感じになってんの?そんでアリアは何故に疑問を持たずに受け入れているのか。俺が軽く混乱している間、後部座席からは高級ライターの快音が響く。しかし、ボスもさぞかし強いのだろう。俺はただの運転手だし。そんな事を考えていた矢先、ボスが一言。
「あ、そうそう、敵の攻撃は一撃たりとも受けるなよ?毒入りだから。」
「了解しました!」
了解しちゃった!敵の強さ未知数なのに了解しちゃったよ!そのせいで俺が突っ込めないという納得いかない状態で、車は目的地にどんどん近づく。しかし、ボスも敵について知っていることがあるならもっと詳しく教えてくれればいいのに。
砂漠の中に、変わった建物が建っていた。
「見えてきたぞ。アレが今から乗り込むギルドの本部だ。」
敵の本拠地らしい。俺はアクセルを緩め、慎重に敵の私有地と思われるエリアに侵入した。大きな四角い建物から一本だけ伸びる道。完全に危険な匂いがする。
車に乗ったままその一本道に入っていく。すると、両サイドの砂漠から何人もの敵が出現してきた。この車はかなりの耐久性だが、あの人数に襲われたらさすがにやばい。俺は最悪の事態に備え、いつでも車ごとテレポートできるよう構えた。
「アキト、敵は見えているだけで両サイドに10人ずついます。10人ずつで丁度ですね!」
「いやいやいや、アリアは俺のこと買いかぶってるから。」
「ハッハッハ!ご謙遜を」
「アキト、車内で撃つなよ。」
「・・・・・・ボス、煙草くれ。」
俺は緊張を紛らわせるならと、普段吸わないタバコをボスから貰い受けた。初めて修羅場を切り抜けた時もこうして、煙草を咥えていたので、お守りだ。それより、こいつらときたら・・・・・・。アリアは笑いながら、俺は煙をため息のように吐き出しながら、対照的な面持ちで車から降りる。俺の担当は10人。敵は銃で武装している。俺は人間だからアリアみたいに弾丸を弾いたり、避けたりは出来ない。一撃で全員無力化しよう。
銃では間に合わない、ここは衝撃波でいこう。
これはアリアとの訓練中に試して成功したのだが、空間を無理やり引き延ばし歪ませると、戻るときに衝撃波が生まれるのが分かった。この空間の歪は俺にしか見えないらしく、なかなか使える奇襲手段なのだが、この歪みを大きくすると衝撃波はとんでもない破壊力になる。弱点が発動まで時間がかかる。
俺がこの修羅場を潜り抜けるのに必要なこと、それは時間稼ぎ!
「アリア、俺が合図する。」
「了解」
俺は、内心心臓が口から出そうになりながら、必死で余裕の顔を作る。タバコの煙を細くはき、全力で余裕のフリをした。
「おい、誰の車に銃口向けてるのか分かってるのか?」
「お前らこそ、ココがどこだか分かってねぇのかぁ?」
相手は確実に優位に立っている自身があるため、余裕の表情で俺の会話に乗ってきた。上々の食い付きだ。話しているのは、この砂から出てきた物騒な連中のリーダー格なのだろう。自信満々の表情で俺に歩み寄ってくる。
この隙に俺は全力で空間を引き延ばし、特大の衝撃波を生み出す準備をする。アリアは背後にいて見えないが、じっと俺の合図を待っているようだ。
「ここにはなぁ、我々リヴァイアサンの庭だ。生きて帰れるとは思ってねぇよな?」
よっぽど自分たちの勝ちを確信しているらしく、リーダーは俺のすぐ近くまで歩いてきた。こうやって自分が優位の時に限って、凄んでくるタイプの奴はだいたい小物だ。部下に勇敢な自分の姿を見せつけようという魂胆だろう。
そんな奴の言葉には耳を貸さず、衝撃波を発生させるべく空間操作を続ける。
「ま、とりあえず命乞いすれば許してやるよ。」
「・・・。」
もう少しもう少しで準備完了だ。
「ビビッて声も出ねぇか。奥の美人は生きたまま頂くが、てめぇは死ね。」
「ビスミルティファミリーに銃を向けたんだ。」
「あ?」
俺は精一杯の怖い顔をし、自分に銃をついつけているチンピラに再び決め台詞を吐く
「ビスミルティファミリーに銃を向けたんだ。殺されても文句は無ぇな?」
ここで衝撃波!と思ったら車の窓が開いた。ボスが顔を出し、一言
「アキトとアリア、その男以外殺すなよ。」
だそうだ。せっかく10人分を死ぬほどの衝撃で吹き飛ばす予定で溜めたのだが、死なないラインまで力を落とし、衝撃波を放つ。
空間が歪み凄まじい衝撃波が砂に潜んでいた兵隊を襲う。轟音とともに砂と人間を巻き上げ、景色が一変する。爆弾でも爆発したかのようだ。俺に銃を突き付けて調子に乗っていた奴は、驚き背後を振り返る。よかった~、ビックリして引き金引かれなくて。今後はきちんと保険掛けをしてかっこつけなきゃな。反省。
俺の起こした爆発に驚き、アリア側にいる10人の敵は一瞬、視線をスコープから外し、爆発の方を見た。この一瞬の隙に、アリアは全員の首筋に手刀を叩き込み昏倒させてしまった。相変わらず人間離れした速度で動く奴だ。
最後の仕上げに目の前で銃を構えていたチンピラの銃に弾丸を叩き込み、武装解除。
「二人ともよくやった。あとは敵の本拠地を制圧する。引き続き護衛よろしく!」
そう言い車内で煙草に火をつけていた。さっきまで20の毒入り銃に狙われていた男とは思えない落ち着き様だ。