灼熱の都バサ
さっきまでいた西部劇風の町には走っていなかった車だが、バサに近づくにつれ何台かとすれ違った。この世界の車はデザインが独特だな。地球では見たことない感じだ。つまりは、この車結構目立つ。砂漠だらけの殺風景な場所をしばらく走っていると、はるか先に背の高い建物が現れた。どうやら目的地はもうすぐのようだ。
「そういえばさ、アリアはボスのスキル見たことあるのか?」
ふと思いついたことを口にしてみた。
「いや、ないな。しかし、ボスはお強い方だ。」
隣に座る金髪美女は、姿勢良く助手席で座っている。疲れないのだろうか。というかアリアは何でそんなに強いのか、そもそもウチに来る前は何をしていたのか気になり聞いてみた。
「強いだなんて照れるな!ここに来る前は、魔国の侵略を防ぐために組織された騎士団にいた。魔王が死に、今度は仲間だった人間を斬れと言われてな、嫌になって一人で魔国領で暴れていたところをボスに拾われたんだ。一人で魔国の軍勢と戦っていたからな、それで強くなったんではないか?ハッハッハ」
「へ、へ~。何というか流石だな。」
一人で魔人の軍勢と戦ってた化け物だそうだ。嫌になって逃げるでなく、一人で敵陣に突っ込むとは。もうこの人少し頭おかしいんじゃないか?
「アキト、レディーの過去は詮索するもんじゃねぇぞ」
「レディーの過去は詮索してない。」
少なくともレディーは軍隊と一人で闘りあおうとはしないだろう。ましてやお隣の方は五体満足で生き残ってるし。
俺の失礼な物言いに、噂のレディー?が「さっき詮索したじゃないか、もう忘れたのか?」と相変わらず皮肉を理解できないようだ。流石にボスも聞こえないフリしてる。
すると後ろから高速で車が接近してきた。箱乗りに銃や剣を構えてる。どうやら俺らの車を狙っているらしい。車のある文明レベルなのに盗賊はいるんだな~。なんて思っていると、お隣さんが暴れたそうにしている。
「ボス」
「アキト、初仕事だ。」
ご使命だ。懐から銃を抜く。そう言えば、撃ち殺していいのだろうか。俺は、勝手にビスミルティファミリーはギルドでなくマフィアのような印象を持ってる。て事は、初めて殺しをやるのか。とか深い事考えだす前に撃っちゃおう。
ゲートの入り口を作り、出口を敵の運転手に定める。どうせなら楽に死なせてやるか、狙いは鼻の先端ちょい上くらいかな。
「二人とも耳塞いで」
耳を抑えたのを確認して、引き金を引く。パンと乾いた音がして、弾丸がゲートに吸い込まれる。するとゲートの出口が開き、運転手が初めてゲートを視認する。その頃には黒い霧を抜けてきた弾丸が、脳幹を吹き飛ばしている。
撃った後に出た薬莢を掴み、窓の外に捨てる。これでシートを傷ませずに済んだ。ルームミラーで後続車を確認すると、フロントガラスが赤く染まっていたので、視線を戻し、何事もなかったかのように運転する。その後、盗賊の乗った車は、脇の砂漠に突っ込んで行った。狙撃だのなんだの大騒ぎしていたが、小悪党なんぞ無視無視。
「お前、なんも躊躇いなく撃ったな。」
「アキト、素晴らしい手際だ!」
「確かにスナイパー要らずだな!ハッハッハ!」
セミオンは俺が何の躊躇もなく引き金を引いた事には少し驚いたようだったが、満足そうで良かった。どういう訳かあまり戸惑わなかった。いくら考えないようにしても引き金を引く指が躊躇って止まるのではと心配していたのだが、そんな事はなかった。この世界に俺を送ったリリィに死生観までイジられたのかと勘ぐってしまったが、考え直した。躊躇ったらこっちが危険だ。これは隣のキリングマシンに教わった事だ。心と体に刻み込まれてる。
その後、灼熱の都バサに到着した。車内はエアコンが効いているため、ジャケットを着ていても快適だが、外はクソ暑い。そのため二人はジャケットを脱ぎ、シャツの腕をまくっている。俺も同じく、暑さ対策をした。
バサに入っていくと、この間までいた町と全然違い、都会だった。ボスの指示通り車を走らせると、高級な建物が立ち並ぶ区画に到着した。その中にある一番高そうな建物にボスを送り届ける。この人何で金あるんだ?ムカつくギルドからだまし取ったとか言ってたが。散財し過ぎも困るから経理がいるといいのだけど。
「おし、到着だ。ここからは自由行動だ!俺は行くところがある。」
「了解。」
「マフィアのボスが護衛なしでいいのか?」
「そういうのはな、有名になったらやるんだよ」
それだけ言うと、ボスはホテルの中に入っていった。どうやら俺たちもこのホテルに泊まるらしく、鍵だけ渡された。俺は、車を駐車場に停める。すると、駐車スペースの全てに、給油が行える機械がついていた。近くにいた奴に聞いてみると、この世界は車の燃料が無料らしい。
燃料は簡単に作れるし、そもそも車は金持ちしか持てないためだそうだ。
「アキト!一緒に仲間探しをしよう!」
「俺とか?一人の方が楽なんじゃないか?」
「折角久しぶりに仲間ができたんだ、釣れない事言うもんじゃないぞ」
だそうだ。これ以上断っても無駄っぽいので付き合う事にした。この旅の目的は仲間探しだからな。強い奴がいるといい。
「そんな訳でアキト、コロシアムに行ってみないか?」
確かにそれは良い案だった。コロシアムの剣闘士なら金で買えるし、強い!アリアが良い案を出したので乗ることににした。
「そうだな、行ってみっか。」
コロシアムは大盛況のようだ。入場料を払い、コロシアムの観戦エリアに行く。適当な場所に腰かけ、観戦する事にした。
現在は今日戦う剣闘士達のパフォーマンスが行われていた。これを参考に、どの剣闘士が勝つか、どの剣闘士が優勝するかなどを賭けるのだろう。
ちょうど今パフォーマンスをしているのは、重そうな棍棒を振り回す大男が、石の柱をへし折っている。他にも、素手で石板を砕いたり。鎖の先に鉄球が付いた武器を軽々振り回す奴なんかがいた。
だが一人、剣舞をしただけの男がいた。体格が周りの男と比べると華奢だ。
「アキト、今剣舞を見せたあの男、かなりの手練れだぞ。」
「えぇ?アレがか?」
俺の目には、がたいが良い周りの奴らに比べて、明らかに見劣りすると感じていた。演武が終わると、剣闘士達は退場し、別の見世物が始まった。それは魔獣と魔獣を戦わせる系の見せ物だった。
他の客達はチラホラ席を立っていた。どうやら、剣闘士達が控えている牢の目の前まで行って、会話したり、状態を確認する事ができるらしい。俺はアリアが言った言葉が気になり、自分たちも牢を見に行く事にした。
「アリア、さっき言った手練れの男、何で強いと思った?」
「あの男、剣舞をしたように見せ、実際は全く剣舞など行っていなかった。」
「なぜ言い切れる」
「あの型には一瞬たりとも剣で敵と戦う動作が含まれていなかった。剣舞といえどルーツは剣術。ただ踊るような型が存在するなどあり得ない。しかし、出鱈目に動くにしては身のこなしが洗練されている。」
確かに筋は通ってるが、どう見ても剣で斬るような動作があった気がしたのだが、アリアがいつになく真剣な事を言っているので、剣舞の男を見に行く事にした。
コロシアムの内に牢が並ぶ場所がある。通称、控室らしい。どうみても牢屋だが。人だかりができているのは大柄で強そうな選手達のようで、牢の前には人だかりができている。それとは対照的にアリアが目をつけた男の周りには誰もいなかった。
アリアと男の牢の前まで行くと、男は胡坐をかきリラックスした様子だった。
「お前、何故偽物の剣舞などした?」
単刀直入だな~。ウチのアリア殿は、かーなり男らしい。男はアリアの問いかけに少し驚いたように口を開いた。
「見抜く者がいるとはな・・・・・・あんな場所で本気を出す馬鹿がどこにいる。」
「あそこでアピールして掛け金が上がる方が得なんじゃないのか?」
「死んだら意味がない。闘いにおいて油断など有り得ない。」
なーるほど、お堅そうだ。アリアも同意してる。アリアは、俺との訓練では油断してたけどな。口に出さず内心でアリアを小ばかにする事にした。口に出したら空気読めない人になってしまう。俺は空気の読める男だ。
「さすが我がファミリーお前らもこの男が気になったか!」
どうやらボスもこの男が気になっていたらしい。これは早くも新たな仲間獲得か?と思ったのだが、ボスは男を一目見ると、踵を返した。
「はっはっは!なるほど面白い!」
「アリア!アキト!仕事だ。」
よくわからないが何か企んでいるらしい。なぜか普段いい加減なボスだが、仕事を頼まれると気が引き締まる。アリアも同様のようだ。ま、何でも来いだな。
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