弱小ギルド加入
全門の虎後門の狼とはこの状況だろうか。後ろから逃げ切ったら地雷とロケランで爆死、振り返れば機銃を乗っけた車のせいでハチの巣。さっきまでほろ酔い気分だったが、一瞬で素面になってしまった。挙句屍になるのはご勘弁願いたい。セミオンのいう通り焦っても状況は変わらない。
「なぁセミオン!町には入れたら状況変わるか?」
「あぁ、そこまで行けば安全だ。なんだ、もう腹が座ったのか!」
「そうだな、一か八かの賭けだけどな!」
「益々気に入った!!勿論乗るぜ!おら、一服つけな!」
車内にまで響く銃声のせいで大きめの声で会話していたが、セミオンの最後のセリフには、酔っ払いの陽気さはなく、どっしりとした重みのある声でそう言った。状況にほだされたのか、吸いもしない煙草を咥え、深く煙を吸い込み、吐き出す。アドレナリンのせいなのか、集中しすぎて咽るのも忘れた。
限界まで集中力が高まったところで車全体を対象にするよう意識してスキルを発動する。やはり重いと対象物の決定まで時間がかかってしまう。ルームミラーに映るセミオンを見ると、落ち着き払った顔で笑っていた。それに勇気づけられたのか、恐怖は消えていた。
車全部に自分の神経がいきわたったかのようになった。車ごと飛ばしてみせる!激しい頭痛を無視し、飛ばす先を決める。景色がスローになり自分の意識だけが車を飛び出し、バリケードを張った敵を追い越す。
「ここっ!!」
思わず声を上げてしまった。すると車は一瞬真っ暗な壁に入った、真っ暗な壁から抜けるとソコはバリケードを越えた場所だった。頭が割れるように痛い。目眩までしてくる。そこから一気にアクセルを踏み込み町に入る。
そこでブレーキを踏み、車を止める。さっきまで耳にしていた銃声は止まり、静けさが車内を包んだ。空の瓶がカランと鳴った。まるで試合終了のゴングみたいだ。勿論俺の勝ちだ。
「本当に切り抜けるとはな」
セミオンは相変わらずどっしりした態度で、煙を吐き出す。それを見て自分もたばこを咥えている事を思い出し、咽てしまった。手に持ち替え、口から離すとべったりと血が付いていた。ルームミラーをズラして自分の顔を見ると、鼻、目、耳、口と穴という穴から血が出ていた。そこで意識が飛んでしまった。
朝日が眩しくて目を覚ます。驚いて飛び起きると、建物の中にいてベッドの上にいた。すぐに昨晩の記憶が蘇り、ため息をつく。まったく、異世界といえばモンスターに襲われるのが普通だろ。軍用車に機銃で撃たれる異世界って。あと俺の事助けてくれるのは美人って相場が決まってるんだよ。強面のおっさんて!・・・・・・。
ひとしきりこの世界に文句をつけたところで、ベッドから起き上がった。するとパンツ一枚しか身に着けていなかった。部屋を見回すと、ベッドと机と椅子しか置いてない殺風景な部屋だった。机の上にはメモが置いてあった。そこには
【アキトよくやった。窮地を抜け出す運転見事だった。さて、お前はきっと自分の服を探しているだろう。安心しろ、お前が来ていたダサい服は速やかに燃やしておいた。代わりに俺が用意した服をクローゼットに入れておいた。ソイツを着て、お前がいる宿屋から見えるバーに来い。byセミオン】
クローゼットの扉を開けると、高そうなスーツが入っていた。ん?さりげなく俺の私服がダサいとか言ってたよな。しかも何故燃やす!などと心の中で突っ込み、窓の外を見ると、洒落たバーがあった。というか街並みが、若干西部劇に出てきそうな感じで、少し異世界に来たことを実感できた。
スーツに着替えると、ポケットに黒い皮手袋とサングラスが入っていた。それにしても動きやすい!鏡で自分の姿を見ると、どうみてもソッチの人だ。
机のメモをもう一度見ると裏に何か書いてあった。
【机の引き出しにある物も持ってこいよ。】
机の引き出しを開けると、じゅうが銃が一丁入っていた。・・・・・・思ったより驚かなかった。むしろ自衛の手段が得られてよかったとさえ思った。銃とマガジンを持ち、部屋の外へ出る。ここは二階のようで、宿屋から出ると視線が気になった。部屋から見えた通りに出る。指定されたバーまでは1分もしないで行けそうな距離だったのだが、通行人がやたらと道を開けてくれる。銃に気づかれたのかと心配になり懐に視線を落とすが、見えそうもなかった。
まさかこのスーツださいの?そうだったらセミオンに文句言おう。そう決めた。
バーにつくと、マスターがカウンターから出て近づいてきた。
「アキト様ですね。2階へどうぞ、お待ちの方がいらっしゃいます。」
「わかりました。」
小声で耳打ちされたのが少し気になったが、親切に教えてくれたので二階に向かった。どうせセミオンだろう。階段を上がる。履きなれない革靴のはずが妙にしっくりきていた。自分のいた宿屋と違い、綺麗なところだった。
二階に上がると、ドアがあった。ノックしてみる事にした。
「誰だ?」
「アキトだよ」
「おぉ!入れ」
セミオンの声がしたので扉を開けると、これまた良さそうな部屋だった。声の主はソファーに座り酒を飲んでいた。この人は普段からこんなに酒を飲んでいるのだろうか。
「やっぱ男はスーツ着てなんぼだな。まだ一流には程遠いが、いい感じだ。」
「そりゃどうも」
ため息をつき、セミオンの向かい側に座る。
「アキト、お前行く当てはあんのか?」
「ないよ。なんせ昨日この世界に来たばかりだ。」
「俺のとこに来い、ドライバーを探していた。」
・・・・・・。ドライバーって、確かにできそうだけど。特殊車両でも来ない限り。この世界で成すべき事は、無いんだよな。強いて言うなら長生きする事だっけな。となると、就職先が見つかったのか!そう思うことにしよう。しかも制服と銃支給。住み込み。衣食住がなんとかなる!我ながら突っ込みどころが多いが、スルーしよう。
「いいよ!」
「返事が早い!良いことだ!」
こうして俺はドライバーになった。雇い主が何者か知らないけど。なんだかどうでも良くなった。もう少しこのセミオンという男の事を知りたい。そんな事をおもってしまった。
「ただよく考えろ。お前日本から来たんだろ?俺は必要なら敵に対して暴力での解決をする。お前が今懐に隠してるソレで意味は分かるな?」
「ま、俺ってば一回死んでるしな。心機一転だ。」
「ハッハッハ俺の見込んだ通りだ!じゃあこれつけろ。仲間の証だと思ってくれていい。簡単な儀式をするからその指輪はめろ。」
そんな短い感じで仲間になってしまった。ま、今回ばかりは俺にも原因がある。セミオンの適当さが少し移ってしまったみたいだ。
仲間の証だが、銀のバッチだった。黒いライオンが描かれている。
「ビスミルティファミリー、これが俺らのチーム名だ。家族のように強い絆で結ばれたチームにする予定だ。ってことで俺の事はパパと呼んでいいぞ。」
「分かったよ、ボス。ちなみにチームって何のチームだ?」
「あー、そうそう、これはこの世界についてだ。この世界には地球にはない文化だな。この世界ではチームと呼ばれる集団を作って生活する奴らがいる。主に、自分の拠点となる町なんかでモンスター退治なんかを請け負って、その報酬で生活するんだ。ギルドって呼ばれてるな。」
なるほど、てことはこのおっさんみたいなお金のある人間がやってるギルドは結構大手なんだな。
「ま、俺もこの間設立したからまだ俺とお前とあと1人しかいないけどな。」
「って超弱小じゃねえか!!なんでそんな金持ってんだよ!」
「むかつくギルドがあったから騙し取った。」
「それで追われてたんかい!!」
最悪だ。大企業に就職したと思ったら詐欺事務所だった感じだ。いや、こっからだ!こっから大きくすれば幹部確定だし!前向きにいこう!
俺は半ばやけくそで新たに、ビスミルティファミリーというギルドの一員になった。ギルドってか完全にマフィアだけどな。