運命の歯車
まさかの、皇帝崩御により、国を逃亡する四人。彼らの選択で未来が変わる。
そして。三つの国が抱える闇が明らかになる。
第2話「運命の歯車」
もう、どれぐらい走っただろう。もう、ロイヤルチェックを出たのだろうか。
気がつけば空は暁に染まっている。
「ねぇ。アル?今どの辺かしら?」
「もうすぐ国境だ。………すまない。こんな辛い思いをさせてしまって。」
「ううん。大丈夫。それより、アル。私達はどこへ向かっているの?」
「僕の、親友がいる国。『ブラキッシュ・スピネル』だ。」
「ブラキッシュ・スピネルって………まさか……!」
「そう。今から200年前に、ロイヤルチェックから、独立した国だ。」
「どうしてそこの国に?」
「あそこは、確実に身の安全が確保できるからさ。」
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目を覚ますと、周りは見知らぬ風景へと変わっていた。
「………ん……クリュー?」
「やぁ。プリンセス。おはよう。眠れたかい?」
「ええ。ここは?どこ?」
「ここは、ロイヤルチェックとルベライト・ベリルの国境だよ。まぁ、ほぼルベライトだけど。」
「ルベライトって、200年前にロイヤルチェックから独立した、あの国?」
「あぁ。」
「なぜそんな所に?」
「俺の……別荘があるから。」
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アルから行き先を告げられてから、十分後、国境の門の前にやって来た。
「そこの者!止まれ!」
門番にそう言われ、馬を止めた。
「馬から降りてもらえるか?」
「あぁ。これは失礼した。ほら。降りるよ。」
アルの手を借りてやっとの事で降りると、
「君達はいったい何者だね?何のためにここに来た?」
「そちらに、知らせが入っているはずですが。」
「ん?その様な知らせは入っておらんが。」
門番の一人がそう言うと、もう一人の若い方が、
「貴様!何者だ!」
と怒鳴った。すると門の中から、
「おーーい!そいつら、怪しいやつじゃねぇよ!!!!」
と、二十代ぐらいの青年がやって来た。
「これは!アイル様!なぜこの様な所に?」
と、さっき怒鳴った若者が言った。
「アル。勿体ぶってないでさっさと許可証を出してやれ。」
「分かったよ。」
そう言ってアルは、自分の懐中時計を取り出し、蓋を開けてみせた。それを見た若くない方の門番が、
「これは…失礼しました。どうぞ。お通りください。」
と頭を下げた。若者が、とぼけた顔をしていると、もう一人の方が、お前も頭を下げろと合図を送った。
「さぁ。どうぞ入って。」
彼に案内され門をくぐると、とても美しい景色が広がっていた。町中の建物は黒を基調としているにも関わらず、花々が咲き誇り、全く暗い雰囲気はなく、むしろ明るいと言った方がいい。そんな町が広がっていた。
「ようこそ。ブラキッシュ・スピネルへ。そこのお嬢さんは、初めてだよね?」
「はい。名前は知っていましたが、こんな美しい国だとは全く知りませんでした…」
「でしょ?なら、観光でもしちゃう?」
「おい。まて。アイル。お前、僕からの手紙読んだ?僕たち、亡命して来たの。分かる?」
「分かってるよ。だけど、こっちも今、それどころじゃないんだ。」
「どう言うこと?」
「はぁ。……説明するからついて来て。」
彼に案内されたのは、国立史料館だった。
「何でここなの?」
「ここの方が人が少ないからに決まってるだろ。んで、それどころじゃないって言うのは、ロイヤルチェックの皇帝が崩御したのは、昨日の夜の時点で分かっていたんだ。」
「そうなのか?」
「あぁ。そんでもって、国の元帥たちは大騒ぎだ。」
「何故ですか?」
「何故って……200年間待ち続けた時がやって来たからな。」
「どう言うことです?」
「いいかい。アリス。昨日崩御した皇帝皇后両陛下はまだそんなにお年をめされていない。むしろ若すぎるぐらいだ。そんなはお二人に子供が産まれたのはいつだい?」
「私が6歳の時だから……8年前かな。」
「そう。今、8歳の王子にあの大国が治められると思うか?」
「無理ね。」
「そういうこった。んでもって、明け方、その王子も何者かによって拉致された。」
「何だと?」
「俺たちにとっちゃぁ、最高のチャンスだ。」
「………だか、敵が多いんだろ?」
「そういう事。」
「あの………話が掴めないんですが……」
「アリス、後で僕が分かりやすく説明してあげる。……それで?どうするの?」
「今、会議所で、軍事会議が開かれてる。まぁ、だが、どうなるかは大体予想がついてる。……ルベライトと戦う前に、まず国の中で戦争が起こりそうだな。」
「そうか。………」
すると、アイルが、懐中時計の時間を見て、
「やっべぇ!俺、もう行かなきゃ!昼頃に、あいつが来るから!それまで待ってて!じゃ、!」
と、まるでウサギのように、走っていった。
「さぁ、アリス。座って。ゆっくりお茶でも飲みながら話そうか。」
と言って、アルは史料館にあるカフェからカフェモカを買って来てくれた。
「うーんと、まず、この国が生まれたきっかけは知ってる?」
「えーっと、独立して出来たって事しか。」
「今から役220年前、ロイヤルチェックは今の倍以上土地がある国だった。西の方、つまり今のルベライトの地区は、科学が発展した。一方、東側……ブラキッシュ側では魔法が発達した。」
「そうなの?」
「あぁ。その当時、ロイヤルチェックの王には二人、兄弟がいた。姉の、ガーネット、双子の弟のシディアン。姉が西側を治め、弟が東側を納めていた。兄弟の中はとても良かったらしい。しかし、事件は起こってしまった。」
「何があったの?」
「ロイヤルチェックの王、オトギリによる、独裁支配が始まったんだ。」
「どういうこと?」
「今まで、3人の統治者によって保たれていた国が、一人の王の絶対王政へと変わったんだ。西と、東の民はみんな反対した。だが、中心部に住む貴族たちは喜んだ。西の科学、東の魔法。それらが手に入れば国の強化にも繋がり、さらに国土を広げることも可能になって来る。」
「だからって……そんな…急に?」
「もちろん兄弟たちも怒った。だけど王の命令には逆らえない。仕方なく承諾したんだ。しかし、王の暴走はそれだけに留まらなかった。王はまだ30歳。皇后様もまだ若かった。にも、関わらず、子供が出来なかった。
独裁国家になったその年、弟のシディアン様と、その奥様のジェムシリカ様の間に男の子がお生まれになった。すると王は……」
「まさか、奪ったというの?」
「あぁ。そうだよ。…いや。それよりも酷いかもしれない。……シディアンから子供…モルダイト様を奪ったその年、何と、王と皇后の間に子供が産まれた。しかも、男の子が。すると、王は、モルダイトを悪魔の子と呼び、モルダイトと、モルダイトを産んだシディアン、ジェムシリカ様を殺せと命じた。」
「そんな!」
「それを知ったシディアンは先に二人を逃した。そして、王の元へ行き、自分の命だけで勘弁して欲しいと嘆願したが、願いは聞き届けられず、反逆罪として、彼を公開処刑した。そして、ついにジェムシリカと二人を追い詰めた時、そこに、シディアンと王の姉、ガーネット様が来た。ガーネットの手助けもあり、そこは何とか切り抜けたが、またいつか、追っ手が来る。そう確信したジェムシリカはガーネットに、東のに住む民に、モルダイトを届けて欲しいと頼み、そっとモルダイトの服の中に手紙を隠し、二人を船に乗せて逃した。そして、船が見えなくなった瞬間、ジェムシリカは兵と王に囲まれた。」
「そんな…ジェムシリカ様まで…」
「王が、モルダイトはどこだと聞くと、彼女は、こう言った。『どうせ、貴方様のような穢れた人間に……汚らわしい化け物に殺されるぐらいならと、この手で、川へ沈めました。』と。それに怒った王は、その場で彼女に火を付けた。……周りにはまだ、人がいるのに。住宅街のど真ん中で。」
「酷すぎる……!」
「彼女は叫んだ。『いつか、この国にも終焉が訪れようぞ!』と。彼女は三日三晩、灰になるまで燃やされた。一方、モルダイトは、無事に東の民に手渡された。東の民は話を聞き、みんなで、モルダイトを隠しながら育てることを決心した。そして、モルダイトの服の中に入っていた手紙を読み、それ通りに育てた。」
「手紙の内容は?」
「もし、この子を拾ってくれたお方。どうか、この子が見つからないように、この子を女としてお育てください。どうか。追っ手が来ても分からないように。この子の名前は、メリッサ。本当の名前はモルダイト。お願い。どうか。この子を…この子だけは生きさせて。だって。母の愛の強さを感じるよね。」
「………何でそんなに知ってるの?」
「あぁ……僕のお祖父さんがここの出身なんだ。だから、よくこの話を聞かされてた。」
「そんなんだ………」
「またこの話はしてあげるよ。………それでね、………」
とアルジェントは、またあの話をし始めた。」
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ルベライトに着いてから2時間。彼の別荘に着くまでに色々な物を見た。ロイヤルチェックには無い、自動で動く人形や、馬車と同じぐらいの速さで動く箱のようなもの。クリューによると、車と言うらしい。とても大きくてびっくりしたが、それ以上に馬がいないことに驚いた。この国はロイヤルチェックよりも科学が進歩しているらしく、それがきっかけで、200年前に独立した事も彼から聞いた。その話によると、ロイヤルチェックの東の国、ブラキッシュ・スピネルに当たる所だった場所は魔法が発達していて、その場所も、それがきっかけで独立した。今、ブラキッシュとベルライトが仲が悪い理由も、聞いた。
「ベルライトに、ある噂が流れた。ブラキッシュが裏で手を引いてロイヤルチェックを使い、ベルライトを潰そうとしている。と。もちろん誰も信じなかったさ。だけど、その噂が流れると同時に、ある事件が勃発した。」
「なぁに?その事件って?」
「ロイヤルチェックの兵士が、西の………今のベルライトにあたる地区の人たちを五人、殺したんだ。何の罪もないのに。」
「なぜ?」
「分からない…だけど、その事があってから、お互いの仲が悪くなり、さらにロイヤルチェックとの仲もさらに悪化。それが両国の独立に結びついたのはまぎれもない事実だ。」
「そう…だったの…。だからね。今、この国の兵士達が騒いでいるのは。どうせ、ロイヤルチェックの王が崩御した隙を狙って国を取り戻すつもりね。」
「………君は本当に勘が鋭い。そうだよ。そして、ブラキッシュも俺たちが取り戻す。」
「俺たちですって?今、俺たちって言った⁈」
「えっ………あっ!」
「貴方……まさか、この国の……」
「あぁ。そうだよ。僕は、この国の軍の幹部だ。生まれが、ここでね。実はこっちが本当の家だ。僕のお祖父さんはこの国の軍の幹部13人の上から4番目。『エース』と言う階級の人だった。」
「まるでトランプみたいね。」
「そう。この国の階級、軍隊はトランプと全く同じだ。上から、キング、クイーン、ジャック、そして、ここだけは例外で四番目はエース。あとは、10〜2の順番で並んでいる。僕の家は代々エースを務める家系で、今は、僕が一応エースって事になってる。」
「そうだったのね。………まぁ。いいけど。私、そんな事気にし無いから。それに、愛する人の夢だもの。私も協力するわ。」
「いいのか?」
「ええ。実は、さっき、ロイヤルチェックと、ブラキッシュに恨みができたの。」
「何かあった?」
「貴方が、十分ほど家を離れた時、執事のエドガーからの手紙が届いてね。………どうしても、信じられなくて、話そうかどうか迷ったけれど……………。そこにはこう書かれていたわ。ロイヤルチェックから逃げる際、ブラキッシュの兵士により、アルジェントと、ノワール、執事のアルバートが殺されたと。」
「何だって?………くそっ!……まさか………アルが………………!」
「だから、私も協力する。私、あんなゲームで稼いでるから命、狙われやすいでしょ?だから、剣術や、狙撃とかの訓練を受けてたの。結構強いわよ?」
「まさか………」
「私も、軍隊に入るわ。」
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それから、アルは、どうしてブラキッシュとベルライトが仲が悪くなったのかを教えてくれた。ベルライトがロイヤルチェックを使ってブラキッシュを潰そうとしていると言う噂が流れ、それからロイヤルチェックの兵士により、ブラキッシュの民が殺された。それがきっかけで、独立し、今はにらみ合いが続いていると。
「さて、すまないね。長話になってしまったみたいだ。」
「ううん。いいの。色々な事が知れたから。」
しばらく二人でお茶を飲んでいると、アルバートの飼い鳥が飛んできた。鳥の足元には手紙が結びつけてある。それを解いてみるとそこには信じられないような内容が書いてあった。あまりのショックに周りがぼやける。平衡感覚が次第になくなり私は意識を手放した。
目を開けると、目の前にアルジェントの顔があった。
「ここ…は?」
「ここは…病院……。…それよりも…大丈夫?………」
「………アル…私、………やっぱり………信じられない………」
「大丈夫………。僕がいる。……いいかい?…アリス。確かに君が失った物は大きすぎた。だけど………前を見なきゃ。」
彼は自分に語りかけるように一言一言をゆっくり言った。
「アリス………僕も君と同じ物を失った。………僕は決めたよ。………君を守るため、僕の友の、君の友の、仇を討つ。」
手紙の内容は、ロイヤルチェックから逃げる際、クリューソス、ルーフス、エドガーが、ルベライトの兵士により殺されたと言うものだった。自分は、今、宮殿に、お父様といるから安心してほしい。とも書いてあった。
「アル…………私を………ひとりにしないで………」
「だけど……」
「私も………戦う。貴方と一緒に。貴方とならどこでもやっていける。……私ね、こう見えて、狙撃と、剣術は一流なのよ。多分、貴方より強いわ。」
と笑って見せると、アルは、私を抱きしめた。
「そんな笑い方しないでよ…。誰が自分の愛する人を戦場に送りたいと思うんだ?そんなの僕が認めない…!君さえ生きていてくれれば、僕は何だってできる。だから、危険な所には絶対行かせない………!」
「………その言葉、そっくりそのままアルに返すよ。私だって愛する人を危険に晒したくない!出来れば………出来ることなら私は貴方と二人でひっそりと、笑って、幸せに暮らせればそれで良かった。………だけど、私達にはやらなければいけない事ができた。なのに、なぜアルはそれを一人で背負いこむの?………私にも、半分分けてよ。………」
「アリス………。分かった。………だけど、無茶だけはしないで。それに、僕はともかく、君は、まだ軍に入れるとは限らない。」
「どうして?アルは?」
「………僕、実はここの軍隊に一応所属はしているんだ。ここの軍の幹部13人の上から三番目。『ジャック』だ。」
「そうなの?………すごいね。」
と、言った瞬間だった。思いっきり部屋のドアが開き、
「アリスちゃん♪元気になったかしら?」
と声が聞こえた。そこに立っていたのは、見目麗しい………男の人で………
「ねぇ、ねぇ、今聞こえたんだけど、なぁに〜アリスちゃん、軍に入るの?」
「うわっ!なんでこのタイミングなの?せっかくいい所だったのに!」
「いい所って………キャーーー!!!!!!
………おい。アルジェント。テメェちょっと表出ろや。」
いきなり中身がお姉さんの人は口調を元に?戻し、アルジェントを廊下へと引きずり出した。そして、ドン!という大きな音の後に二人が部屋に入って来た。アルの顔は青ざめていて、もう一人の方は満面の笑みだったので、何があったのだろうと、とても不思議だった。
「あっ…あの………大丈夫…?」
「アリスちゃん♪世の中には知らない方がいい事もあるのよ♪」
「はぁ…。」
「あっ、まだアタシが何者か言ってなかったわ。ごめんなさいね。改めて。…アタシはこの軍の幹部よ。黒のQオリビエ・セス・ヴァーデンよ。みんな『セス』って呼んでるわ。よろしくね。アリスちゃん♪」
「はい…。ところで、なんで私の名前を知ってるんですか?」
「このクソ野郎と来たら、ここに来た途端、『アリスが!アリスが!』って凄かったのよ?もう、びっくりしちゃった。」
「そうだったんですか………なら、私も改めて自己紹介しなきゃいけませんね。私の名前は、ノワールです。ノワール・アリス・シュヴァルツ。よろしくお願いします。」
「まぁ!素敵な名前ね♪ノワールと、シュヴァルツは黒を意味してるのね。いいコト教えてあげるわ♪アリスちゃん。この国ではね、名前に色の名前を持つ人は限られているのよ。王族か、軍の幹部だけ。まぁ、私は特に気にしてないんだけど。貴方、きっと運命に運ばれてこの国に来たんだわ。名前に黒が入っている女の子なんて何年ぶりかしら?」
「さぁね。それより、どうするの?ノワールを仮に軍に入れるとして、僕の直属の部隊に入れようと思うと、結構限られてくると思うんだけど?」
「そうねぇ。………あっ、そうだわ!いいコト思いついちゃった♪」
セスさんが笑ったと同時に、アルの顔が曇った。
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私が軍隊に入ると決めて2時間後、私は軍に書類を提出した。明日、実技試験と、精神鑑定、面接が行われる予定だ。思った以上に早く事が進んでくれたので、こちらとしては有り難かった。
「本当に………いいのか?」
「何が?」
「………軍隊に入ったりなんかして。」
「何言ってるの?私にはもう、帰る場所も、生きる目的も一つしかないのよ?」
「何?その一つって?」
「クリュー。貴方のそばよ。貴方のそばにいることだけが私の生きる目的。それにね、女は覚悟を決めたら強いんだから。」
と笑って見せると、クリューは少し、顔を赤くして、
「そんなこと言われると、………」
と言って、そっと額にキスを落とした。
「なんなんだろうな。………親友を亡くしたのに………もうすぐ戦争が始まりそうだって言うのに、こんなに幸せを感じてるなんて………こんな気持ち生まれて初めてだよ。」
「………私も。常に『トランプ』と言う名の争いに身を置いていたから…。…不思議ね。たった一夜で恋に落ちてしまうなんて。」
とても、幸せだった。世の中の事なんてどうでもいいと思える程に。だけど、お互いに心の片隅に深い闇を抱えているのはわかっていた。復讐と言う名の闇が潜む事を。世界はこんなにも色付いているのに、一部だけ雨が降っている。そんな感覚だった。そして、いつかそれが心を覆い尽くしてしまうのではないかと不安に駆られた。だから。
そうなる前に。
戦わなければ。
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私達が向かったのは、軍の総本部。黒に統一された美しい建物の地下にある執務室と言われる場所に来ていた。
「ボスー♪アルが、勝利の女神を連れて来たわよー♪」
「どうしたんだ?セス?………お前のそのテンションだと、可愛い女の子か、女子力の高い少年だろ?」
「さっすがボス♪アリスちゃん。さぁ、入って♪」
「失礼します…」
「ん?………セス?本当にアルが連れて来たのか?」
「えぇ。そうよ。………ねぇ?アル。」
「うん。まぁ。」
「珍しい事もあるんだな。………お嬢さん。名前は?」
「ノワール・アリス・シュヴァルツです。
「ほぉ。………なるほど。『勝利の女神』…か。」
「?」
「面白い。それで?彼女を俺に紹介してどうする気だ?」
「アリスが……この軍に入りたいって言っているんだ。」
「そうか。………ノワール。でいいかな?君は武器は扱えるかい?」
「はい。………拳銃、剣、後は馬は扱えます。」
「腕に自信は?」
「拳銃と馬なら。」
「よろしい。………後は、魔法…か。」
「は?」
「いや、なんでも無い。………それより、まだ名前を言っていなかったな。俺の名は、ワルター・フォン・ミュラーだ。よろしくな。
さて、んまぁ、まずは………腕を見ないことには…」
「そうですね。」
と、アルが答えた。
「セス。新兵用の銃を持って来てくれ。」
「りょーかい♪」
そして、2分ほどしてから、セスさんが拳銃とスナイパー銃を持って来た。
「ちょっといいかな。ついて来てくれ。」
そう言われ、執務室の更に奥の部屋のドアを開けると、そこは射撃場になっていた。
「セス。」
「はい。これ。仕組みは普通の銃と変わらないけど、撃つときに………ってまぁ、やってみればわかるわ。」
と拳銃を渡された。私は弾が入っている事を確認し、銃を構えトリガーを引いた。弾は難なく向こう側のパネルの心臓を貫いた。
「……!!!!!!
3人ともが同じ顔をして固まっていた。目を見開き、口をポカンとあけ固まっている姿を見て逆にこっちが驚いた。
「どうしたんですか?」
「…………いっ………えっ………は…はぁ?」
と、ミュラーが声を出した。言葉になっていない音に私は
「ん?」
と首をかしげた。
「えっ、ちょっ、アリスちゃん?」
「………流石。僕のアリス。」
「あのー…どうしたんですか?」
「この銃はね、トリガーを引くだけでも早くて1週間、遅くて1ヶ月はかかるのよ⁈」
「えっ?そうなんですか?」
「まぁ。人に寄り切りだがな。俺たちみたいな幹部連中はすぐに引けるんだが、一般人だと、セスが言ったみたいにかなりの時間がかかる。それに、まともに撃とうと思うと、更に一年ぐらいはかかる。」
「じゃ、次は、スナイパー銃ね。はい。アリスちゃん。」
と渡されたのは、一昔前のスナイパー銃だった。
スナイパー銃用の射撃レーンに入り、うつ伏せになって構えた。そしていつもどうり、的を狙ってトリガーを引いた。弾はやはり、難なく的のど真ん中を貫いた。
「………合格だな。………君は天才だ。」
「そりゃ、僕のアリスですから。」
と、我が物顔で喜んでいるアルを見るととても愛おしく思えた。
「馬術は相当のものだとアルから聞いているし、おそらく、魔法力も相当のものだろう。」
「あっ…ありがとうございます。」
「まぁ、でも、今日入隊って訳にはいかない。早くて1週間後になるが、それでもいいか?」
「もちろん。」
「それでは、よろしく。アリス。」
ミュラーさんと握手を交わすと、私はアルに連れられ、ある店へと向かった。
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私はそれから、クリューと買い物に出た。
軍服を買ったり、武器や、日用品を買って回った。軍服には色々なデザインがあってびっくりした。赤を基調に、白と、金で装飾された軍服はとても美しかった。私は、ナポレオンカーラーのジャケットに、前から後ろにかけてだんだん丈が長くなっていくマーメイドスカートを選んだ。裾には、金のバラが刺繍してあり、とても綺麗だった。
それから、時計を買いに行った。腕につける小型の時計などがあったが、私は懐中時計を選んだ。時計を買った店のおじさんが、黙々と時計の歯車を合わせている姿を見て、私は何故か、妙に目を惹かれた。
こんにちは!夜神月菊です。
やっと………やっと2話目が書けました!
皆さんに、気に入ってもらえると嬉しいです✨
そうそう。………そう言えば、登場人物の名前の意味を調べて見ると、今後の展開がより一層面白くなるかも……?