第1話「満月」
⚠️☆★☆★は、場面変更
第1話『満月』
ここは、貴族制度が色濃く残る国、『ロイヤルチェック』。
そのなかでも、『ヴェルメリオ家』と、『シュヴァルツ家』は最も有名で人気を集める貴族であり、通称「バラハ・マルケース(トランプの貴族)」と呼ばれている。
なぜトランプの貴族と呼ばれているかと言うと、ヴェルメリオは赤を意味し、シュヴァルツは黒を意味するからである。
ある日のパーティーにて。
「聞きました?ガーディナ伯爵夫人。今日、このパーティーに、『レディ・ルージュ』と『レディ・ブラック』が来られるんですって。」
「本当ですの?まぁ。それは嬉しい。あの二人はいつ見ても美しいですわよねぇ。
今回の対戦相手はどちら様ですの?」
「マダム・シャーリーのご長男と、エリック伯爵のご長男だそうですわよ。」
「あの二人なら、もしかしたら……。見ものですわねぇ。」
細かい揺れとともにカラカラと馬車の車輪の音がする。そっと窓をのぞけばまるでフィルムむのように流れていく。
今夜もパーティに招待された。つい3日前にも。来週なんて三回もある。
「どうしたの?ノワ。浮かない顔をして。」
「こんな毎日じゃ、前みたいに月光浴もできないなぁと思って。」
「そうね。お父様達は、私たちの予定なんてちっとも考えてくださらないもの。」
「うん……。私達がトランプゲームをするだけで……お金が沢山貰えるなんて夢みたいにと思ったけど…でも自由のない夢なんて……現実より残酷だわ。」
「ほんとね。でも、ノワ。こんな事、お父様達の前で言ったら……」
「私達怒られちゃう♪」
「フフッ♪ホント。執事のエドガーでも怒るかしら?」
「言っちゃダメだよ。ルー。」
「分かってる。でもきっとノワの執事のアルバートなら怒らないでしょうけど。」
「どうかしら?」
と話していると、馬を操っているアルバートが、
「お嬢様方。そろそろ着きますよ。」
「今ちょうどアルバートの話をしていたところよ。」
「安心してくださいルーフスお嬢様。私は怒りませんし、旦那様方にも、兄のエドガーにも告げ口はいたしません。」
「ありがと。さ、ノワ。仮初めの夢でも楽しみましょ。」
「そうね。きっとお父様達、首を長くして待っておられるわ。」
私たちはいつものように手を繋いでいりぐちへ向かった。
「いらっしゃいませ。お待ちしておりました。レディ・ヴェルメリオ様。レディ・シュヴァルツ様。そちらの殿方は?」
「お嬢様方の執事のアルバート・ラパンと申します。」
「そうでしたか。これは失礼しました。
案内の者は……執事殿がおられますからよいですか?」
「えぇ。結構よ。私達なんかより、他の方々につけてあげて。行きましょ。ルー。」
と入口の男性を通り過ぎ、ロビーへ入ると、周りから歓声が湧き上がった。
「レディ・ルージュとレディ・ブラックよ!」
「まぁ!可愛いこと!」
「大きくなられて…!お美しいわ!」
「本当に14歳か?美しい!」
「また始まった……。五月蝿いなぁ。ホント。」
「ちょっとノワ!聞こえてるから。あとちょっとの我慢よ。表情だけでも笑ってましょ。」
「お嬢様方。あちらに、今日の対戦相手の方々が。」
「そう。なら挨拶に行かなきゃ。いくよ。ノワ。」
「えぇ。」
と歓声の渦を通り過ぎ、彼らの元へと向かった。
「ごきげんよう。マダム・シャーリー。それに、エリック伯爵。」
「ごきげんよう。えーっとレディ・ロッソ?とレディ・ダーク?でしたっけ?」
とマダム・シャーリーがわざとらしく、紫色の扇子を口元に当てて笑った時、彼女の後ろから、
「お母様。おやめ下さい。彼女達は、レディ・ルージュとレディ・ブラックですよ。」
と男の子の声がした。
「なっ……分かってるわよ……!」
とマダム・シャーリーはバツが悪そうに奥の方へと姿を消し、それをエリック伯爵が追いかけた。
「改めましてごきげんよう。レディ・ルージュ。レディ・ブラッ…ク…」
「ごきげんよう。私がどうかしました?」
「あぁ。いや。なんでもない。」
「ねぇ。あなた、名前は?」
「おっと。これは失礼。僕の名前は、アルジェント。アルジェント・フォン・シャーリーだ。よろしく。」
「私は……ノワール。ノワール・アリス・シュヴァルツと申します。この辺では、レディ・ブラックで、呼ばれていますけど。」
「⁈ノワ?どうしちゃったの?本名なんか名乗って……」
「えっ?……あっ、無意識の内に……」
「どういう事かな?」
「私、初対面の人に本名名乗らないようにしてるんです……」
「そうなんですか。なら、貴女にとって僕は少なからず特別な人になれたのかな?レディ。」
「えっ?……えぇ。」
「何してるんだ?アル。……あぁ。これは失礼。ごきげんよう。レディ・ブラック。……レディ……ルージュ。」
「初めまして。ごきげんよう。貴方は?」
「クリューソス。クリューソス・フォン・エリックです。クリューか、リューソって呼んで下さい。」
「お二人とも、今日はよろしくお願いしますね。」
とルーがその場をまとめ、私達がその場を離れようとすると、
「あの、レディ・ブラック!いや。アリス!」
と呼ばれ、私たちは振り返った。
「よかったら、僕とダンスを踊って頂けませんか?」
とアルジェントが言ったので私たちは顔を見合わせて笑った。
そして彼の前まで行くと、ルーが、
「いい事教えてあげる。私達二人とも、本名に、『アリス』が入っているのよ。私の名前は、ルーフス・アリス・ヴェルメリオ。」
「なっ……///そうだったんですか。なら、改めて。レディ・ノワール。私と踊って頂けませんか。」
「喜んで。」
「なら俺は、レディ・ルージュと。」
「ならって何よ。」
「いや。俺と是非、踊って頂けませんか?レディ・ルーフス。」
「えぇ。喜んで。」
「なら、お互いに、ゲームの十分前にロビーで会いましょ?」
と私が言うと、それぞれ分かれた。
私はアルことアルジェントにエスコートされながら歩いた。するとアルジェントは、なぜかテラスを突っ切って、裏庭に出た。
「あぁー!やっと羽が伸ばせる!……そう思いませんか?」
「えっ?」
「ほら。空を見てみて。」
「綺麗な月。今夜は満月……ですね。」
「こんなに月が綺麗なのに、なぜ好き好んで月が見えない建物の中にいなければならないんでしょう?」
「本当に。そう思います。」
と空を見上げていると、
「僕の家は、君の家の様に、女王の犬として働いたり、トランプゲームや、ショー、賭け事で権力を為し得ている。だから、僕は小さい頃からゲームで勝つための心理術や、技術などを教え込まれた。少し大人になったと思ったら、毎晩毎晩パーティに通う毎日。ゲームをただプレイするだけでお金がもらえるなんて夢の様だって思ってたけど……」
「自由のない夢なんて現実より残酷?」
「なんで分かったの?」
「私もね、同じ事を馬車の中で言ってたの。」
「……君って………」
とアルジェントは私の顔を覗き込んだ。
「何?」
「いや。なんでもない…….///。さぁ。踊ろう。」
一方その頃、レディ・ルージュこと、ルーフスはクリューソスとロビーの階段を上がっていた。
「ねぇ?なぜ階段を登っているのかしら?踊るんじゃないの?」
「ぜひ君に見せたいものがあるんだ。」
と言う彼の声はなぜか弾んでいた。
「何処へ行くの?」
「俺の部屋。」
「は?」
「いいから。」
彼が半ば強引に連れて入った部屋は、そのホテルのロイヤルスウィートだった。
「こっちに来て。」
と言われ、彼の側へ行くと彼はそっと窓を開けた。
「目を閉じていて。」
「何で?」
「いいから。」
私が目を閉じたのを確認すると、そっと私を横向きに抱き上げた。
「わっ!下ろして!」
「いいから。大人しくしててよ!」
と言われ、大人しくしていると、
「そうそう。いい?俺が開けてもいいよっていうまで目を開けちゃダメだよ。」
「分かったわ。」
しばらく彼が歩いているのが分かった。途中風が吹いて、怖くなり、とっさに彼の首に腕を巻きつけると、彼は
「おっと。………(笑)そうして捕まってて。」
と笑った。
少しして、彼が歩くのをやめたと思うと、
「さぁ。プリンセス。目を開けて。」
と彼は囁いた。
私はそっと目を開けた。そこには
美しい赤いバラが咲いていた。
他にも、色とりどりの花が咲いていて、何とも美しかった。
「すごい!綺麗!ここは?」
「ロイヤルスウィート専用の庭だよ。よかった。君に喜んでもらえて。さぁ。踊ろう。」
「えぇ。」
彼が美しい声で歌う。彼の踏むステップも、何もかもが美しかった。
私はこの時確信した。
(いけない。…恋の魔法にかかってしまった。……甘い悪魔に捕まってしまった。)
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「ねぇ?アリス?」
「私はノワールよ。アリスは2人いるってさっき……」
「いや。僕にとってのアリスは君1人だ。」
「アル…」
「ねぇ。アリス。出会ってまだほんの少ししか経ってないんだけど………僕にはそれでも十分すぎる時間だったんだ。」
「何のこと?」
「だから…///そのっ…///………」
「?」
私が首をかしげると
「っ……だから、そう言うところがっ……///」
と言ったと思ったら、私の口は何かに塞がれていた。
目の前には、黒色の髪に、長いまつ毛。
彼の整った顔がそこにあった。
私の口をふさいだものが彼の唇だと気づくまでに、時間がかかった。
急いで顔を離そうとすると、
頭を彼の手で押さえられていて、逃げることが出来なかった。
「んっ……!!」
「っ……はぁ….。もう分かったでしょ?
僕は君の事が好きだ。大好き。もう離したくない。お願い。僕のそばにいて?」
「………バカ…」
「?どう言う事?」
「………///順序が逆でしょ?………///」
「それはyesって事でいいのかな?」
「誰もそんな事言ってない!!」
「じゃあ答えは?」
「……こっ…こちらこそ………よ…よろ…しくお願いします…。」
「やっぱり。………フフッ………今のアリス、最高に可愛い♡」
「アル?なんかさっきからだんだん意地悪に………って…ちょ…!!!!」
また彼に唇を塞がれた。さっきよりも強引に。
(いけない。僕はもう…君の虜だ。)
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私たちはそれぞれ、時間ぴったしに、ロビーで出会った。
「それじゃ。また後でね。マイ・プリンセス。」
「またね。僕のアリス。」
彼らはそれだけ言って奥の方へと行ってしまった。私たちは顔を見合わせた。
「「今のって………まさか、そっちも⁈」」
同時に言ってしまったので、2人で久しぶりに声を出して笑った。
「いやー。まさか、ノワにそんな人が出来るなんて。びっくりだわ。」
「そっちこそ。よかったね。ルー。」
「ノワール!ルーフス!どこにいるんだ?」
「あっ!お父様だわ!行きましょ。ノワ。」
声のする方へ向かうと、私の(ノワール)お父様と、ルーのお父様がいた。
「作戦は練らなくてもいいのか?」
「心配いりませんわ。お父様。」
「そうか。ノワール。君は大丈夫か?」
「はい。おじさま。」
「そろそろ時間だ。今夜も楽しませてくれよ。」
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「レディース!アーンド、ジェントルマン!ようこそ。皆様パーティーへ。さぁ。皆さん!お待ちかねのショーの幕開けです!」
司会の声とともに、歓声が広がる。彼らは先ほどとは違い、顔にマスクをつけている。
まるでそれは闇オークション表しているかのような絵面だ。
ライトアップされた入口から、私たちは何時ものように手を繋いで入った。向かい側のドアから、アルジェントと、クリューソスが入って来る。黒と白を基調としたテーブルを挟み向かい合うようにしてお互い座った。
「さぁ!本日のゲームはこちら!本日は三つのゲームをして頂きます。一つ目はババ抜き!二つ目はブラックジャック!そして、三つ目は、ポーカー!」
「ババ抜きですって?」
と、ルーが、目を細めた。すると
「あらぁ?いいじゃないの。公平にゲームが出来て。こんなお遊びで勝てないなんて………二流よねぇ?」
とマダム・シャーリーが、扇子を口元に当てながら言った。
「………分かりました。お母様の言うとおりにしましょう。」
とアルが呟き、私とそっと目を合わせた。
「それでは、スタート!」
私、クリューソス、ルー、アルジェントの順番でカードを引いて言った。
(私の予想だと、ジャックを持っているのは、ルーね。)
(…レディ・ブラックが、ババを持ってやがるな)
(…どうやってクリューソスに引かせようかしら。)
(クリューが持っているようだな。)
そして、5巡目。
「んーーっと、………これ!…上がり。」
1番最初に上がったのは私だった。
そして、同じ回でアルジェントが抜けた。
残るは、ルーと、クリューソス。
「どちらかしらね?」
と、ルーがカードを引くと、
「くそっ!負けたーー!」
「上がり♪」
と言うわけで、この勝負を制したのは、私達だった。
「お次はブラックジャックだよ!ルールは簡単。手元にあるチップを今の二倍に先にした方が勝ち。あとは、ブラックジャックのルール通りだ!それではスタート!」
私はアルジェントと、ルーはクリューソスとやった。
「BETは?」
「150で。アルは?」
「70。」
「ヒット。」
と私が言うと、
「………スタンド。」
カードを見せ合うと、アルが20。私が21で、勝った。接戦の末、勝ったのは
「倍になったわ。」
私だった。
一方少し遅れて勝負がついたルーたちは、
「よしっ!やっと勝てた!」
「………はぁ。ごめん!ノワ。」
つまり、この勝負は引き分けになった。
「さぁ!さぁ!最後はポーカーだ!ルールはさっきと一緒。それでは、スタート!」
私の相手は、クリューソスだった。
「BETはいくらにするんだ?」
「MAXの10倍で。」
私がそう言った瞬間に、どよめきが起こった。
「マジかよ。俺は四倍にしておく。」
それから、カードを並べてると、
「こっちはオッケーよ。」
「俺もだ。」
私たちがカードを見せ合った瞬間、会場が静まり返った。
私達と同時に、ルーたちもカードを見せ合ったようだった。私のカードは、
「……ロ………ロイヤル…ストレート…フラッシュだと…」
そして、アルジェントのカードも
「そんな………嘘でしょ」
ロイヤルストレートフラッシュだった。BETは私と同じく、10倍で。
しばらくの沈黙後、一気に歓声が湧きがった。
「なんてことだ!」
「素晴らしいわ!!!!」
勝負は、チップの枚数が多い私たちの勝利だったが、どちらにも同じぐらいの歓声と祝福を受けた。
会場がお祭り騒ぎになり、始まりより、さらに賑わいを見せていた時、挨拶回りをしていた私達と父の元に、母達と、貴族令嬢・婦人会に参加していたエドガーがもの凄い血相でこちらに走ってきた。
「旦那様!大変です!」
「どうしたんだ。」
「別室へ。」
私達を置いて、父と、ルーの父と、エドガーは別室へ消えてしまった。
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「で?どうしたんだ?婦人会はどうした?」
「それどころでは御座いません!旦那様、急ぎ、この地を離れた方がよろしいかと。」
「エドガー君よ。何を言っているんだね?」
「………陛下が………」
「閣下がどうしたのだ?」
「皇帝陛下と…皇后様が………」
「お二人がどうした?」
「………崩御なされました………」
「なんだと⁈」
「それは本当かね⁈エドガー君⁈」
「はい。どうやら、奴らに、殺されたようです。」
「奴ら………まさか…"ブラッド"の仕業か⁈」
「えぇ。奴ら、我々貴族と対立している警察の奴らと手を組んだようで…」
「マズイぞ。」
「そのようですな。ヴェルメリオ伯爵。」
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お父様達がどこかへ行ってからすぐにまた、お父様達は戻ってきた。
「どうされたのですか?お父様。」
「……ノワール。…今すぐ、この国から出るぞ。………」
「………⁈どういう事ですか?」
「実は……」
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その様子を見ている女がいた。
そう。マダム・シャーリー。
「ようやくね。」
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「………⁈分かりました。すぐに支度をします。」
とルーが言った瞬間、銃声が鳴り響いた。
「騒ぐんじゃないよ!!いいかい。そこから動いたら、ただじゃおかないからね!」
そして、人々が悲鳴をあげ逃げようとするとまた銃声が鳴り響いた。
「動くなって言ってるだろう⁈」
たまたま側にいた、クリューソスと、アルジェントはただそれを呆然と見ていた。
「お母…様…」
そして、勢いよく、パーティー会場の扉が開け放たれたかと思うと、警察が入って来た。
それを機に周りの客が一斉に逃げ始めた。
すると父が、
「お前達だけでも逃げなさい!アルジェント君だったか?それと、エリック伯爵のところの、君。娘達と逃げなさい!なるべく遠くに!…さぁ!早く!」
アルジェントは、父と目を合わせると私の手を握り、さっき行った裏庭へ向かった。
「待って!アル!ルーが!」
「大丈夫。クリューが付いてる。ヤツが付いていれば必ずまた、どこかで会える。今は逃げる事だけ考えよう。」
裏庭を突っ切ると、表の玄関の横へ出た。
警察は正面から出ようとする客に気をとられこちらには気付いていないようだった。
「今だ。行くよ!」
と言って、アルは走り出した。私もそれの後に続いた。
アルは馬車の馬を後ろの車から外すと、私を乗せ、私の後ろにまたがり、手綱を思いっきり叩いて馬を走らせた。
「僕の胸に、背中を預けて。手綱を持って。」
「えっ?…ちょっ……!」
「馬乗れないの?」
「乗れるけど、どこの方向へ行けばいいの?」
「僕が指示するから。ね。ちょっとの間だけ。」
と言うと、彼は私に後ろから抱きつくようにして来た。
「ちょっと!アル?」
「さすがに僕も何かに捕まってないと落ちちゃうから。」
と言って、ペンと紙を取り出し、何やら書き始めた。そして、笛を鳴らし鷹を呼ぶと、鷹の足にその紙をくくりつけ、飛ばした。
「今のって………」
「秘密。さぁ。少し、スピードを上げるよ!」
と言って、私の手ごと手綱を握った。
☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★
「こっちだ!ルー!」
「待って!クリュー!ノワが!」
「大丈夫だ。アルが付いてる。それより、早く!」
私たちは急いでクリューの部屋へ行き、さっきの庭へ出た。庭を突っ切って、そのホテルの裏山を抜けると、川へ出た。
「おーーい!旦那ー!」
とクリューが叫ぶと
「なんだい?坊ちゃん?」
「頼む!船を貸してくれ!」
「ほほう。駆け落ちかい?」
「まぁ、そんなとこだ。頼む!」
「あいよ。乗って行きな。どこまでだい?」
「あそこへ。」
「!そうかい。分かったよ。あんた達、本気なんだね。」
「あぁ。さぁ。ルー。乗って!」
クリューに急かされ、船に乗ると、クリューが、
「安心して。この人の船に乗っていれば、大丈夫だ。」
「ねぇ。クリュー。その人誰?私達は今からどこへ行くの?」
「この人は、僕の馴染みの人さ。行き場所は着けば分かる。」
それだけ言って、彼は私の肩にそっと手を置いた。
「とりあえず座ろう。」
私は彼の横に座ると、
「なぁ。坊ちゃん。何があったんだい?あんたの様な人が駆け落ちだなんて。」
「聞かないでおくれ。旦那。」
「そうかい。それよりお嬢ちゃん。寒いだろう。………ほら。」
と言って彼は、毛布をくれた。
「これから寒くなる。それでも被ってな。」
「ルー。目を閉じて。今は、体力を消耗しない様に、寝ているんだ。目を覚ます頃にはきっと、目的地へ着く。さぁ。いい子だから。」
「分かったわ。」
毛布を被りそっと目を閉じると、肩をギュッと抱きしめられた。肩から伝わってくる彼の熱がとても心地よくて、私はすぐに睡魔へと意識を手放した