Blackjack
その瞬間に、億千の金額を手にすることが出来る。カードで7000億の資産を残した老人がいると聞く。
ブラック・ジャックの説明を少し入れておこう。ハウスルールから始まる。ハウスルールと言うのは、ハウスつまりゲームの親によって、大きく言うとハウス=カジノであるが。合法の各国のカジノそれぞれに、微妙に違うハウスルールが存在する。それが出来る。少しずつルールが違う。違えることが出来る。というのが、ハウスルールである。
ここにもここ独特のハウスルールがあった。ハウスここでの親は、カレー屋のおじさん。
と、いう事で細かいルールの説明は略。トランプの21みたいなものを想像して頂ければここでは充分かと思う。
銀色の薄い1円玉で勝負した。
10枚重ねればプラチナ換算でその1本は約5万の価値がある。
男たちはそれらを黙って台に並べた。
昨日ばら撒くように10円を放った私の手は1円の束の前で止まった。
昨日馬鹿の様に思えた静寂が、今は自分の世界となっていた。溶けるように、その一部となって私は息を殺した。
ハウスのカードを読む。17以下なら次が来る。既に出たカードから見て、これから出るカードの数を読む。可能性確率を読む。自分のカードが何であれ、ハウスに勝てば良い。要はその確率だ。21を超えればアウト。
目に映る全てが時間を止めて
カードの向こうの夢に息を殺す。多額の金額の向こうに夢を見る。その瞬間にいた。今この瞬間カードに掛ける。失うも得るもこの瞬間に掛かる。引くか引かないか。
実際は、ここでのカードは遊びだ。それでも掛けは実在していた。私はすっかり臆病になった。
新婚旅行でカジノへ行き「1500円かけて1500円負けたよ」と笑う夫婦の様な賭けをした。結果も似たようなものだった。
男たちがいくら掛け、どの位負けて勝ったのか私には分からなかったが、彼らと同じような掛け方が私に出来なかったのは確かだ。
途中から私の記憶は、カードの数よりも男たちの横顔を残している。昨日までのおじさん連中が、私には手の届かない存在となってその場所に居た。
静寂を抜けた時、私は恋に落ちていたのかも知れない。そこに居た皆に。
帰り際、部屋まで送ってくれた彼に言った。
「一人なの?」
「そう」
「遊びに行ってもいい?」
「いいよ」
次の日から、私は彼の同居人となった。