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カラフリング  作者: カリーヌ
6/13

ウォームアップ

「本気じゃないとつまらない。」

そういう理由で、私たちのテーブルには各々、袋が置かれていた。

「本気になれる秘訣」

「現金」だ。

私は叔母の夕食会からの流れでここへ来ていた。現金など持ち合わせていなかったが、そこには現金の入った袋が並べられた小さな金庫が置かれていた。たとえ何重にロックしようと、そのまま抱えて持ち去る事が出来そうな、小さな金庫だ。

「帳簿に名前入れてね。」

金庫の前に帳簿があり、記入を見ると借りた人であろう名前と、「一」とある。一袋借りますという事なのだ。袋は何袋かあり、中にざらざらと小銭が入っていた。中身は10円玉と、1円。

私は帳簿に、自分の名と、一。と書き込んだ。

ゲームの軍資金だ。

準備は整った。ゲーム開始だ。

カードが配られる。手元のカードを捲る。あまり良い手では無いなあ・・・


静かだった。

皆動かない。

どこかで、パラパラというとても軽い音がして、テーブルに1円玉が撒かれた。パラパラ。パラパラ。初めの音を皮切りにして、テーブルに1円玉が撒かれてゆく。

誰も何も、言わない。

誰かが、軽すぎて張り付いた1円玉を落とそうとブンと手を振った拍子に1円玉が空を切った。

沈黙。


本気か?


10円玉を掴みテーブルに置いてみる。

皆の様子を伺いながら、私はもう3枚程10円玉を掴むと、上に重ねた。

挑発のつもりだったが、誰も乗らない。

1円玉は撒かれ続けた。


速い展開で

退屈すぎる時間が流れた。


次第に私の頭は、掛け金に集中していった。私は1円玉を投げ続ける大人たちを尻目に10円玉をばら撒きだした。

「これでどうだ」

「かかって来い」

まじで「まじで?」

心の中でつぶやく。

一つのゲームで大量の10円玉を失い、次のゲームで取り返し。繰り返した。

結果、私の手元には10円玉が山と積まれた。


そうして明け方近く、解散となった。


帰り道、彼は私を叔母のコテージまで送ってくれた。

「儲けたね」

彼が笑いながら言った。

「皆もね」

何回勝負したか分からなかったが、結果は私の圧勝だった。皆がちゃらちゃらと1円玉を集める中、私は沢山の10円玉を手にした。気分が良かった。

「1円玉ちゃらちゃら」私は皮肉って言った。

「あれはチップだから」

彼は静かな微笑みのまま言った。

「1円玉はプラチナ、10円玉は銅計算なんだ」

「1円玉は1枚1グラムだから、プラチナで計算すると5千ちょと。10円玉は銅計算でも10円だと思えばいいよ。」

初め何の話をしているのか、半分天狗気分で浮かれていた私には分からなかった。

つまるところ、今日のゲームで使われた小銭はお金と見なされていない。チップなのだ。ここでのルールで換金すると、1円玉は1枚5千円程度、10円玉は10円程度の価値となる。1円玉はプラチナの相場、10円玉は銅の相場により金額は変動する。いつ換金するかのタイミングも、その人次第との事。

換金というと怪しげな空気も漂うが、ここはあくまで内輪の遊び場だった。


今日のゲームで10円を投げた者は、恐らく私だけ。私は何も知らされておらず、今ポケットにはスカートがずり落ちそうな量の10円玉をせしめていた。現金を持ち帰ったのは私だけだったが、私だけが飛び込み参加の様子だったので特に不思議には思わなかった。皆またこの場所に舞い戻り、1円玉で勝負するのだろうと、思ったのだ。10円玉をせしめた私にしても大した額では無かったが、何かの足しにはなりそうな金額だったので持ち帰った。


「・・・ずるいわ」

心底そう言った。顔が赤らむのが分かった。自分が何を掛けているかさえ分かっていなかったのだ。

皆がバスケットのコートで試合をする中、私一人自分だけのボールを持たされ猛烈なドリブルで駆け回った気分になった。誰も止めてくれない。見てもいなかった。

「大丈夫だよ。誰も君からお金を取ろうなんて思ってない。」

「ちゃんと教えて。それがルールでしょう」

繰り返すが私は若かった。呂律が上手く回らない程、頭に血が昇った。彼の笑顔が更に火を付けた。泣きそうになる寸前、察したのか、彼が言った。

「明日またおいで。」

「受けて立つ。」

冷えた空気で鼻のとっぺんが痺れていた。頬の皮膚がピリピリと潮風を感じていた。

その上を、ポロっと涙が零れた。

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