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彼
母に悟られないうちに、そのまま叔母の家に戻り書き置きを残し、海辺を回って彼の家へ戻った。
健太はなぜか私の居場所を見つけ出す。いつもだ。よく分からない。
彼の家に着いた。彼は家の中で仕事する様子で、家にいることが多かった。
その日もそこにいた。
見つからないように、部屋の中の彼を窓越しに、更に低木の垣根の外側から見る。
昨夜叔母と交わした会話を思い出す。私が叔母の家から、スリッパで近くのスーパーに買い物に出たり、ボサボサの頭のまま海辺で散歩するのを、彼は見ただろうか?叔母の話では私が叔母の家に出入りしてる事を知っている様子だった。裸足で猫を追いかけたのを見ただろうか?顔が赫らむ。
私が見ている事に気が付かず、彼は窓枠の中で仕事をしている。
スローモーションで流れる。鳥の声も鳴りを消して、私の視界の中で彼だけが動いた。世界が止まる。
何の前触れもなく、彼が突然顔を上げた。私がそこにいる事を知っていたかの様に、その目は最短の軌道を描いて私に向いた。
世界が、動き出す。
おどけた様に手を振って、我知らず、垣根を乗り越え窓枠に駆け寄った。