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カラフリング  作者: カリーヌ
10/13

健太とみさ


「帰るぞ」と繰り返す健太。

そうこうしている間に、ちらっと見えてしまった健太の後ろを横切る者があった。

ため息の後に私は確認の為再び目を上げたが間違うはずもなく。

これも近所の、みさちゃんだった。

私とみさちゃんは仲が悪い。

なぜそんなみさちゃんが、小倉からわざわざ電車で、しかも健太と一緒ではなく健太の後からこんな場所までやって来たのかというと、みさちゃんは健太探索隊だからだ。

みさちゃんは私たちの1つ年下に当たる。

私は幼い頃、みさちゃんは健太の妹だと思い込んでいた時期がある。二人とも別々の家に住み、違う親がいたはずだが、兄妹だと思っていた。これも幼い頃にある、記憶の矛盾だ。

みさちゃんはいつも健太に付いて回り、私を上目遣いにじっと見る。みさが健太の障害を知っているかどうか、確かなところ私は知らなかったが、健太は障害が利と出てか少しおっとり気味なところが女の子にモテるところがあった。健太の障害は特に目立つものではなく、健太自身の内面で、物事に整理を付けるのが下手であったり、それも関係してか抱える必要のない不安を抱えたりする感じのものだったが、何となく遠くを見ているような「おっとり感」は何気に不思議な雰囲気を醸していて、特有のものだった。皆よく知った仲の町内だったから出来たのか、健太は沢山のものに守られていたのだろう。障害を持つというレッテルは、身近なものだけが知っている事実として封印されていたかに思う。

みさはそのまま健太が好きだった。みさより健太に近い私は、とことん監視された。


今回健太がやって来た件について健太が言うには、母は私が男性の家にいることを知って叔母と喧嘩し、だがまだ父は知らない。父の耳に入れば大変な事になるから、その前に小倉に帰って来いと言う話らしい。ちなみに父は、ライフル射撃のライセンスを持っている。父の気性も考えると笑い事では済まなくもない。そんな事もちらほら考えながら。

私は帰りたくなかったが、後ろで見張り番をするみさちゃんにこれ以上事情を知られるのも嫌だったので、一応叔母の家に帰る約束をするからと、健太に母への伝言を頼んだ。

「必ず帰れよ」

ようやく説得して、健太はみさに引っ張られながらも帰りながら足を止めて振り返る。

「今日中に帰れ」

早くゆけ。


そういう理由で、私は彼に書置きのメモをして、荷物は残したまま1度徒歩圏内の叔母の家に帰った。


「あらお帰り」

何事も無きかな。叔母はいつもの叔母だ。

「ちょっと・・・・忘れ物を」

私は様子を見ながら、いつもながら平和な叔母の様子に、御茶を濁す。

「夕食食べていく?」

「・・・はい。はい・・・まあ、ご馳走になります。」


その夜、夕食を取りながら、叔母から聞いた話だ。

「あの人はあなたの事よく知ってるのよ。私が話したから。」

女2人の夕食で、簡単に作ったパスタを食べながら、叔母の好みでシャンパンを開けた。叔母の家は全体的に照明が暖色系で、夜になるとロウソクの火を思わせた。家中どこにもカンカンに明るくなる場所が作られていなかった。

そんな中、彼の話は進んだ。

私は幼い頃からよく叔母の家に出入りしていた。そんな私を、彼は時々目にしていたようだ。叔母は昼間聞いた健太の話とは様子が違って、安心していた。優しく笑う。

私が彼を知ったのは、あの日。波打ち際で、瓶を片手に高い波の音を聞いていた。あの時だった。

何もかも飲み込まれそうなパノラマの中に、彼を見た。


叔母には母の事は聞かず、その日は泊めてもらった。


次の日

玄関のチャイムでドアを開けると健太だった。

今回は初めからみさ付き。

「よう」

「。」

「ちゃんと戻ったか。でも小倉に帰れ。」

母が呼んでいるらしい。ここから2駅だ、帰る事にして3人で電車に乗った。


八百屋の店主に手を振る。

「どーも」

「どーもー」

見慣れた風景。小倉だ。


「あら、お帰りなさい」

あまり仲が良くなくても姉妹であるが由か、在宅していた母に、叔母と同じ言葉で出迎えられた。

何かがおかしい。


瞬時に頭を過ぎった。健太だ。

振り返った時、奴はもういなかった。


私が彼の所に居ることなど、母は知らない。





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