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カラフリング  作者: カリーヌ
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空腹

頭をシェイクする。

ウルトラヒートアッブマジカルボンバーパンチ。目が覚めない。ここは現実か?

電子音が煩い。電子音は要注意なんだと、聞いた事がある。

乾いたコンクリートの床に、空のグラスが転げていた。汗の乾いた白いシャツを、太陽の熱が増す中、流れ出す重い汗が再び汚す。豊満な胸の谷間に筋を作りながら落ちて行く。

ざらつく舌が水分を欲して擦れた空咳を出す。聴こえるのはコンクリを擦るガラスの痛みのような音、太陽の下の金属音、陽炎の耳鳴り。


出かけなければならない。


体中に痛みが走る。片手で腰を支え、軽めのジャケットを掴む。


外に出れば、汗の滲む白いシャツも喧騒に馴染む。




一方、朝一でバスタブに浸かり石鹸で隅々まで磨き上げローション爆弾で人を唸らせ、朝食は前垂れを掛けて食べている。旨いんだか不味いのだか分かってやしない、一口千円と聞けばそれでいい。口をもごもごと動かしながら、遠くを見るようなその目は、ガラス玉のように焦点を無くしている。



2人は2時に会う約束があった。





あの角を曲がればちょっとセレブなスーパーマーケットがある。その先には日本でも最近はどこかしらで見かけるヨーロッパの街角の甘栗売りを真似たいかのような、屋台を気取ったオ○レな店がある。

屋台と言えば臭いくらいの豚骨を煮込む匂いに何処から拾って来たのか分からないような暖簾に車輪のリヤカー、競い合うように並び合い段ボールで縄張りを守るかのように仕切りを作ってみたり、一歩入れば病みつき、一流の魔法で客をワシ掴む料理を出す、それが本物だ。福岡の夜は幻想的だ。三越などその他デパートがシャッターを下す頃、どこから来るのか昼間の都会を呑み込む様な屋台陣の夜が出来上がる。それは昼間と同じその場所の匂いまで変え、何年も前からそこにあったかの如く煌びやかに大胆な町の風景となる。毎夜幕上げは繰り返される。イリュージョンだ。


オ○レの真似事な屋台は主張して来るものが無い。

だけどワゴン車で弁当を売る店には目が止まる。それはニューヨークのホットドック売りを気取ってはいない。今はワゴン車で弁当を売っているが、いつか自分の店を持つ、町の色を抱え、そんな気概を見せる。


そんな街の景色が全てコマ送りで、目に映るものに付随して、記憶に上るものと。次の瞬間にはどうでも良い事として上面を流れて行く。


映画館のデートで、寝たふりをして相手に寄りかかりたくて、かなり無理な体勢。足が攣りそうになりながらドリンクホルダーを超え2時間粘った過去を持つ映画館を通り過ぎる。


ここは私の過去の町。


2度と戻りはしないと思っていた町が写す過去は、今の景色とは少しづつ違う姿を見せる。


長居は無用。ただの通りすがりに過ぎない。さっさと用件を済ませ去る。


バス停の名が目に入る。それに乗れば私の育った家へ行く。削られるような痛みに気付かない振り目眩がした。あまりにも酷というものでは無いか。自分を守るには早く去らねばならない。


泥まみれの指先はいつからそんな風に感じるようになったのか、今朝洗ったばかりのものだ。


踏切を、やかましい警鈴と、見苦しい赤と青の点滅、遠くの轟音が風に乗って電車が近付くのを知らせる。

遮断機に体を付けて立つと、電車と共にいきなりの爆風に、死の恐怖がゾクゾクと体を吹き抜けた。立っているのがやっとなその爆風で、私の中にあるこの痛みも、拭ってくれるような気がした。それは手首を切るという事に似ている感覚なのかもしれない。

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